第46話 紅白戦-後編
鋭い目を光らせて僕を睨み続けながら機会を伺っているオリヴァーくんを、僕も冷静に分析し始める。
僕が今まで手合わせしたのは父さんとクラスメイトたちだけだ。
中でも一番強かったのはルミさんで、彼女が突く細剣の速度は非常に速くて目で追うのが大変だったりする。今日も相手貴族を一瞬で吹き飛ばしてしまうくらい速い。そして速さは強さにも繋がる。
ルミさんと
冷静に僕の剣を流しながらカウンターを狙って容赦のない剣戟を飛ばしてくる。
剣戟をギリギリに避けながら僕もカウンターのカウンターを狙う。
剣の中心を上手くずらして剣の軌道をずらしてくる彼の強さを理解できた。
何合打ち合ったのか分からない。でも――――楽しい!
まだ剣術が得意なガイルくんに手合わせはお願いできないから、自分の力量に合う人がいてくれて本当に嬉しい。
セシルくんや他のクラスメイトたちも頑張ってはいるけど、剣は本職ではない人が多い。
その中、ルミさんと彼は間違いなく剣を本職にしている。だからこそ剣を持つと普段とはまた違う顔が見える。
何合目か分からない剣戟をぶつけあっていると、オリヴァーくんの目つきが変わった。
――――来る!
体に小さな光が灯ると同時に今までの動きとは違う洗練された動きと速さの剣戟が僕の剣戟の合間を縫って叩く込まれる。
その速度でいけるのなら僕も速度を上げる。
空を斬った木剣を元の場所に戻して、オリヴァーくんの剣を体重を乗せて叩く。
木剣同士がぶつかったはずなのに、まるで石と石をぶつけたような重低音が周囲に響き、お互いに後ろに飛んで距離を取る。
「嘘だろ……今の見えて?」
「全く見えなかった。オリヴァーくんの
「信じられん……スキル0ができる芸当なのか?」
貴族組から驚く声が聞こえてくる。
オリヴァーくんもかなり動揺したような表情を見せる。
「お前……本当に才能なしなのか?」
「うん。本当にないよ? どうかしたの?」
「っ…………どこまでもバカにしやがって!」
何故か怒り始めた彼は剣に青い光を灯した。
「フェン先生! それはダ――――」
「構わん。続けろ!」
後ろから声をあげるルミさんの声と共に、オリヴァーくんが木剣を光らせたまま襲い掛かった。
僕も木剣を振り上げて彼の木剣とぶつかり合う。
木剣同士なのに甲高い金属がぶつかる音と共に空気同士をぶつけ合ったような強い風が周囲に響き渡る。
「ふ、ふざけんな! オーラを纏わせた木剣がどうして効かない!」
「えっ? 僕も纏わせてるよ?」
「は……?」
「ほら。纏わせているでしょう?」
「何をふざけたことを!」
オーラというのは、ステータスには表記されない『気』というものを使う方法の一つだ。
『気』を語る上で外せられないのは『技』だ。
技はスキルと違い、特定条件下の行動に特殊な効果が付与されることを指す。
例えば、兄さんがやっていた『真空斬り』がその代表的な例だね。
では『気』というのは、魔法を使うための魔素があるように、『技』を
魔法は自然に起こすことはできない。自分の中の魔素を消費して、呪文を通して世界に力として具現化するけど、技の場合は違う。
世界に沿った法則性さえ汲み取れば、誰でも使える代物だ。ただ、それだと絶対条件として『特定の条件の下』という縛りが出てしまう。
この世界法則性の奇跡と呼ぶべき技を、特定条件を無視して発現できる力こそが『気』だ。
つまり、『気』を使いこなすことで、いつでも『真空斬り』を繰り出せるし、言い換えれば今までの条件以外でも発現できれば、本来の『真空斬り』に力を上乗せすることも可能だ。
とある条件下でしか発現しない『オーラ』は、絶大な効果を持つ。
体や武器に纏ったオーラはどんな鋭利な刃物よりも鋭く、指一つで硬い岩すら一刀両断できる。
それほど強力な技だから多くの人は武器に纏わせることが多い。体全体を纏わせるとそれだけ気を消費するからね。つまり、気というのは魔素同様自分の中に存在するエネルギーだから
だからこそオーラは
僕の木剣は今の僕ができる限り
オリヴァーくんのように光らせるとすぐに気を消費してしまうから、使い勝手があまりよくないのだ。一撃必殺ならいいけど…………正直、オーラって誰でも使えるんだから、薄く纏わせた方がいいと僕は思ってる。
オーラでの戦いは父さんぶりなので、久しぶりに楽しいと思える。
だからオリヴァーくんに僕の熱をぶつける。
何度も剣を交わすけど、段々と彼の木剣の光が弱くなっていき――――やがては消え去った。
消えたタイミングで僕のオーラを纏わせた木剣によって、彼の木剣は本来の姿が半分だと思えるくらい綺麗な断面を残して二つに分かれ落ちた。
「勝者――――――ユウマ!」
フェン先生の声が終わると、後ろから大きな歓声が上がった。
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