第43話 スキルなしの魔法詠唱
学園に入学して七日が経過した初めての二連休。
余った時間は基本的に自分の足りない勉強に当てる人が多くて、学園の図書館は非常に人気らしい。
「もっかい見せて!」「見せて!」「うんうん!」
また無魔法〖着火〗を見せてくれと言われて、部屋に押し入った可愛らしい三人娘に囲まれている。
「あはは…………〖着火〗」
「「「おおお!」」」
三人とも僕なんかよりもずっと凄いはずなのに、こうして教わりにくるのが不思議に思える。
それに僕が使っているのは無魔法の下級。わりと誰でも使えると思った魔法だ。
三人娘はそのままそれぞれ自身の人差し指を見つめながら〖着火〗を念じ始めた。
十分が過ぎて、やはり誰も〖着火〗は発動せずに終わった。
「ステラさん~」
「う~ん?」
「ステラさんは魔法系統の才能を持っているんだよね?」
「そ~だよ」
「普段魔法を使う時ってどう使うの?」
当然のように使っていたけど、他の人がどういう感覚で魔法を使っているのか、少し気になる。
「魔素をごにょごにょすると形が作られて、それを外に出すことで魔法になる感じ?」
いつもならちゃんとした答えになるのだが、珍しく曖昧な表現になっている。
「そうね。魔素をごにょごにょする感じ」
意外にアリサさんも同じ意見みたい。
ごにょごにょか…………なんかちょっと分かるような気もする。
僕の感覚としては、自由にこねられる――――例えるなら粘土に似てる。
自由に形を作れる粘土に魔力を流し込むと、自分が想像した形に粘土が変化する。
それを外に吐き出すことで魔法として出て来るイメージだ。
ただ、魔法の形を想像するのが中々難しくて、マリ姉の魔法を見てからじゃないと想像力が追いつかなかったのを覚えている。
〖着火〗も〖クリーン〗もイメージがとても大切だった気がする。
特に〖着火〗の場合、想像するのは前世でよく見かけるライターだ。中にガスもしくはオイルが入っていて、ボタンを押すだけで簡単に火が起きる。魔素をオイルに、ボタンを詠唱に考えれば簡単に想像できる。
ただ、それを異世界で説明しても分かりにくいと思う。だから想像しやすい別な例えを提示する。
「ではこれから想像するのは――――焚火! 焚火って炎を燃やすために材料となる木材が必要でしょう?」
三人娘が大きく頷く。
「まず自分の指を最初の木の棒だと想像して。焚火に最初に火をつけるためには、火種に何らかの形で火を付けなくちゃいけない。それが魔法の詠唱。でもあくまで詠唱だけ。一番必要なものは焚火が消えないように一度燃やしたらずっと燃やすための材料が必要で、それが魔素だよ」
みんな目をつぶって自分の人差し指に集中する。
「火を付けるのは指先、火が付く前に燃料となる魔素を注ぎ続ける。そこに詠唱〖着火〗で火を灯す」
静かに集中する三人の中から――――ステラさんが口を開いた。
聞きなれない羅列の言葉が聞こえて、本来の魔法の詠唱が聞こえて来る。
「――――――、無魔法、〖着火〗」
集中していた二人は目を開けて、ステラさんに注目する。
ただ、それでも〖着火〗は発動しなかった。しかし、
「!? 今詠唱を唱えたよね!?」
「そうね。ちゃんと詠唱になっていたわよ。ステラさん」
「あ、ありえない…………無魔法のマスタリーを持っていない私が、〖着火〗の詠唱を唱えるなんて…………でもユウはこれで魔法が使えるようになったと言った。まだ発動はしてないけど、これを続ければ無魔法のマスタリーを獲得できる!? でも魔法のマスタリーを獲得するという事は女神様の教えに反するものじゃ…………」
ステラさんが女神様の教えに反するという言葉。
これが異世界の魔法を教える人達のルールの一つだ。
魔法を使うためには
だからこそ選ばれし者しか魔法が使えないのが世界の常識であり、聖国の女神様の教えではそう伝わっている。女神様を信仰していなくても、これが常識になっている。
もし魔法というのは、マスタリーというのは、才能がなくても獲得できるとしたら、それはとんでもない事実であるし、世界がひっくり返るくらい驚く事実でもある。
僕に関しては絆の才能のおかげでマスタリーを持っているから魔法が使えている。
だから、僕がみんなに魔法が使えるようになるというのは、間違いなく『嘘』である。
ただ一つ気になるのは、僕はマスタリーを持っていても最初は魔法が使えなかった。
マリ姉に魔法を見せてもらってから、『想像』ができるようになったら使えるようになった。
一見、マスタリーがあるから使えるように見えるが、それに大きな違和感を感じる。僕が使えるのはマスタリーを獲得したからではなく、想像できるようになったからだ。
だから仮説を一つだけ立てるなら、マスタリーという鍵がなければ魔法は使えない。代わりに、魔法という扉の前まで近づくことはできる。辿り着いて鍵を何度も開けようとした時、鍵という名のマスタリーを獲得できるんじゃないだろうかと予想している。
「ステラさん。これから毎日一度でもいいから、その魔法を繰り返してみて」
「!? 分かった。ユウがそういうなら毎日やる」
すぐにアリサさんとセーラちゃんもステラさんと同じことを繰り返す。
数分してアリサさんも詠唱が唱えられて、それから暫く時間がかかったけど、セーラちゃんも詠唱を唱えられた。
特にセーラちゃんに関しては、今まで魔法を使った事もないのに、詠唱を唱えたことにみんなが驚いた。
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