第41話 食堂
「なあ。あいつって本当に無能かな?」
「さすがに無能じゃないかな……噂じゃ最下位だったらしいしさ」
「最下位なら間違いないか。学園の最下位ってあれだろう? 逆に無能なら絶対に入れるっていう」
「ああ。確か『無能枠』ってやつだな」
無能枠って意外というか広まっていることなんだなと驚いた。
まあ、入学する生徒達にとっては大切なことだろうね。
最下位でも入学したがる人がいるだろうし、でも無能枠のために、その一枠が消えてしまうのだから、そのせいで落ちた人がいるのも事実だ。
フェン先生には筆記試験は全部正解だったと教えてもらった。
いくら戦闘に重きを置いている学園と言っても筆記満点ならほぼ間違いなく入学できるってシェラハ先輩も言っていたから、無能枠で入学したのは気にしなくていいと言われている。
だから何か逆恨みをされる事があったら、ボコボコに返しておけって言われたけど、そもそも僕みたいな弱い人がボコボコにできる気がしないし、したいとも思わない。
でも、被害を受けたいとも思わないので、僕も頑張って強くならないとね。
「うぅ……ユウマくんに一太刀も入れられなかったよ…………それよりもあんなに弾かれたの初めてかも」
「そう? まあ、セシルくんは元々弓使いだし、これから毎日十分でいいから素振りを続けてみると変わるかも」
「毎日十分でいいの?」
「十分でいいと思う。僕もそうだけど、同じ寮のみんなも朝の十分だけ素振りを続けているからね。僕もみんなも昔からやってるからね」
「そっか……毎日繰り返して数年が経過したらそれだけ力になるんだね」
「そういうことだね。今度弓の使い方を教えてもらえない?」
「もちろん! 僕ができることなら協力するよ。これからも手合わせよろしくお願いします」
「こちらこそ」
授業が終わり、一人ぼっちだというセシルくんと一緒に食堂に向かう。
念のため、アリサさんたちのことは伝えていて、もしアリサさんたちが嫌というなら申し訳ないけど――――という話は事前にしておいた。
食堂に入ってすぐに上の方から僕を呼ぶ声が聞こえて来た。
食堂はものすごく広く、一階にも多くのテーブルが並んでいるのだが、二階と三階は吹き抜けになっていて、上の席もあるみたい。
ただし、上の階を使えるのはAクラスとSクラスの人だけとなっている。
特に三階に関してはSクラスと生徒会の人の許可がないと入れない。
セシルくんと一緒に階段を上がっていく。一階に集まった多くの人達が僕とセシルくんを見つめてくるのが感じられる。
階段を上がり、三階に着くとセーラちゃんが出迎えてくれた。
「みんな。うちのクラスのセシルくんだけど、一緒に食事してもいいかな?」
「ユウマくんが一緒にしたいならもちろんいいよ~」
セーラちゃんだけでなく、テーブルからこちらを見つめているアリサさんとステラさん、ガイルくんも親指を立てて応えてくれる。
食堂の二階と三階は特殊な仕様になっていて、一階の場合、並んでいる食事を自分が好きなものを取って食べる仕組みになっている。二階と三階はそれとは違い、レストラン風になっていてメニューで頼むとテーブルに運ばれてくる。
これは高みに立つ者の勉強でもあるとして、こういう仕組みになっているらしい。
一階から上を見上げる生徒達は上を夢見てもっと頑張るという仕組みだ。
となると、ここにコネで上がって来た僕とセシルくんは…………まぁ嫌な目に見られても仕方ないかも知れないね。
それでもアリサさんたちと一緒にお昼を食べたいから気にしないけどね。
テーブルにはメニューがあって、メニュー自体が魔道具になっていて、食べたいモノを手で触れると魔道具が発動して注文する画面が現れる。
前世よりも最新鋭感を感じられる。
それにしても値段の書いてないメニューで注文したのは初めてだから、少しソワソワした気持ちで頼んでしまった。
「天下のユウマもこういう場所は緊張するのだな」
「え~!? 僕だって緊張くらいするよ!」
「まじか! 例えばどんな時だ?」
「ん~ん~あれかな。アリサさんに――――」
と言いかけた時に、自分が何を言っているのか理解して顔が熱くなる。
「あはは~やっぱりユウマって面白いな~」
「また嵌めたな!?」
「嵌めたとは言いがかりだ~俺はユウマの惚気話が聞きたかっただけだぜ~?」
「惚気話じゃないよ!」
ずっと弄ばれていると、ガイルくんが僕の後ろを指差し始める。
ちらっと見つめると、顔が真っ赤に染まって、少しだけ目に涙を浮かべたアリサさんがぷるぷると震えて僕を睨みつけていた。
「ひい!? ご、ごめんなさい…………」
「恥ずかしいからもうやめてよね!」
「は、はいっ!」
まあ、周りから笑い声が上がるのは言うまでもなかった。
運ばれてきた食事を食べながら午前中の授業をみんなに話す。
食べ終わった頃、二人の男性が近づいて来た。
「君がユウマくんだな? 初めまして。俺はアレクサンダー・フォン・グランドという。みんな親しみを込めてアレクと呼んでいるので、好きな方で呼んでくれ」
綺麗な金髪の好青年で風貌からも凄い人のオーラが溢れている。
「初めまして。ユウマです。よろしくお願いします。アレクサンダーさん」
握手を交わすと、今度は隣に立つ男子生徒も挨拶をしてくれた。
「僕はクリス。よろしくね~」
「よろしく~!」
「二人ともSクラスのクラスメイト達だ。ちなみに、ユウマ? アレクは王子様だぞ~」
王子……様?
「ええええ!? ご、ごめんなさい!」
「いやいや、全く気にしないでくれ。王族とはいえ、学園では同じ学業に身を投じている仲間だ。普通に接してくれた方が嬉しい」
後ろから睨んでいるメイド服の女子生徒って、もしかしてアレクサンダーさんの…………。
「ああ。あちらはうちのメイドの一人でシルフィーという。ちょっと過保護なので、気を悪くしないでくれ」
「う、うん。僕は気にしてないから大丈夫!」
こうしてガイルくんたちがいるSクラスのクラスメイト達と挨拶ができて嬉しい。
ますます、ガイルくんたちと同じクラスで一緒に授業を受けたいと思うようになった。
もっともっと頑張らないと!
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