第40話 負けん気
「い、行くよ!」
セシルくんが木剣で全力で叩き込んでくる。
こういう打ち合いは、実を言うと兄さんと父さん以来というか、二人を除けば初めてと言ってもいいくらいだ。
アリサさん達とは朝練で素振りを一緒にしただけで、こうして手合わせをした事はないからね。
彼が繰り出す攻撃を何度か受けてみる。
…………。
…………。
「セシルくんってどんな才能を持っているか聞いてみてもいい?」
「え? 僕は『弓使い』という才能だよ?」
弓使い……なるほど。だから剣の技術は低いのか。
その時、いつの間にか僕の後ろに来たのか、フェン先生の声が聞こえた。
「仮に弓使いだとしても、弓がなかったり、矢を切らしたら何もできないただの人になってしまう。そういうためにも剣術は身に付けなくてはならない」
だからこそ、全員が木剣を握っているのはそういう理由なんだな。
「このクラスには魔法使いもいたはずだが、お前達はまだ経験していないと思うが、魔物でも人でも戦いとなれば何があるか分からない。世の中で最も多く使われているのは剣だ。その理由は作りが簡単で且つ全ての武器で最も
「「「「はいっ!」」」」
すぐに生徒達の大きな返事の声が響き渡った。
もちろんセシルくんも例に漏れず、さらにやる気を出して気合を入れて木剣を振るってきた。
それを何度も弾き返して彼の姿勢を保てないぎりぎりのところを狙う。
強く返しすぎると転んでしまうから怪我しかねないし訓練にもならない。
だからこそ、彼がぎりぎり踏ん張れる力を計りながら返していく。
最初は打たれて辛そうな表情をするが、段々と良い表情になっていく。
何度も何度も繰り返し弾かれても諦めることなく挑んでくる姿はとても嬉しく思う。
「そこまで! これでお前達の実力は大体理解できた。これから呼ばれた人は前に出ろ!」
今度は全員集められて、呼ばれた二人の手合わせを眺めることとなった。
最初に呼ばれた生徒達にダメだったポイントを指摘しながら改善点を提示する。
できている生徒も多いけど、できてない生徒も多いからこその意味のある指摘だと思う。
「ユウマくんって、本当に最下位なんだよね?」
おもむろに、隣で一緒に見守っていたセシルくんが質問を投げかけてきた。
「そうだよ。才能がないからね」
「才能がないのにどうしてそんなに強いの?」
「ん?」
「だって、君って汗一つ掻いてないし、僕が弱いからだと思うけど、全然歯が立たなかったから…………」
すると、隣で聞き耳を立てていた男子生徒が鼻で笑う。
「ふん。それはおめぇが弱いからだろ。そいつが強いとか本気で思っているのか」
「え!? ユウマくんはちゃんと強いよ?」
「はん。無能のスキル
すると周りからクスッと笑う声がする。
スキル0か…………確かに才能がなければスキルを覚える事ができないから、スキル0という言葉は言い得て妙だ。
「スキル0だってさ。ぷふっ」
「無能らしいあだ名だな。くくくっ」
すぐにクラスメイトたちに広まっていく。
丁度二人の打ち合いが終わったタイミングで、フェン先生が僕とセシルくんを呼んだ。
みんなの前で同じく打ち合いを始める。
やり方は変えないようにとフェン先生から小さく言われたので、セシルくんが倒れないギリギリの強さで打ち返していく。
一所懸命に打ち込んでくるセシルくんだけど、僕のせいなのかやはりクラスメイトたちの中で笑い者にされてしまう。
ただ、笑う声は段々と減っていく。
「あれ? もしかして、スキル0って実は強いんじゃねぇ?」
「いやいや、相手がへぼすぎるからでしょう。見てよ。あの下手くそな動きを」
「そりゃそうだな。毎回打ち込む度にあんなに体勢を崩しているからな。面白すぎるだろ」
…………僕が貶されるのは別に無視すればいいんだけど、相手を貶すと自分でも驚くくらい胸の中がむかむかする。
その時、
「ユウマくん! お願い! このまま続けさせてください!」
とセシルくんは大きな声で話した。
一斉にクラスメイトたちの笑い声が訓練場に響き渡る。
声が鳴り響いてもセシルくんの目は死んでいない。いや、寧ろ――――ギラギラと燃えていた。
もしも僕が最下位じゃなかったら彼は最下位だったと言っていた。
入学前に一番最下位になってもいいと覚悟を決めて入学を目指したはずだ。
彼は弓使いという才能がありながら、普段あまり手にする事がない木剣で、敢えて自分のグラウンドじゃない場所で戦っている。
だからこそ納得して僕に打ち込んできているのだろう。
一瞬でも視線を外してクラスメイトたちに向けて悪かったよ、セシルくん。
その覚悟にちゃんと答えないといけないね。
それから数十分に続く打ち合いを続けた。
いつの間にか訓練場には笑い声はしなくなっていた。
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