第36話 魔法オタク
「――――〖着火〗! ……………………」
アリサさんが自分の人差し指を見つめて首を傾げる。
すると向かいに座ったステラさんがじーっとアリサさんを見て口を開いた。
「無魔法使えたの?」
「ううん。使えないわ」
「…………バカなの?」
「違うわよ!」
ステラさんってこういう言葉ってストレートに投げるよね。
「練習したら使えるから」
「…………バカなの?」
「違うわよ! ユウマくんが使えるように言ったのよ。これ誰にも言わないでよね。もし発覚したらとんでもないことになるから」
「当然。それは…………女神様への
女神様への冒涜!?
そ、そこまで!?
「そうね。教団の意見と真逆なことを言っているからね。だから絶対に誰にも言わないでよね。今は検証しているだけ。だから今はバカだと罵ってくれて構わないわ」
「…………ユウ」
「は、はい!」
「私でも使える?」
「た、多分? こう、魔法を使える感覚をしっかり〖着火〗のイメージをする感じ」
勢いに任せてそれっぽく教えてみる。
もちろん、嘘ではあるから良くないと思うんだけど…………確信もないけど、でも、どうしてか彼女達にこれを伝えるべきだと思った。
だから自分の心から出る言葉をしっかり二人に伝える。
「才能なしが……魔法…………嘘……ありえん…………」
「でしょう。私も同じ感想。しかも、〖クリーン〗まで使えるんだから」
「!?」
いつもだるそうにしていたステラさんが立ち上がり、ものすごい速さでテーブルをぐるっと回って僕の隣にやってきた。
「ねえ。見せて」
「え、えっ!? い、いいけど――――〖クリーン〗」
「ほわあああ!?」
ステラさんが珍しく興奮している。
いつも魔法の本を読んでいるから、もしかして魔法が大好きなのか?
「こ、こらっ! いきなりどうしたのよ。本当に魔法オタクなんだから……」
「魔法は人類を支える大きな力である。私は魔法の真髄に辿り着きたい。でもいま目の前に魔法の真髄がいるような気がする」
魔法の事となるとものすごく饒舌!?
「ねえ、ユウ。私の物になりなさい。貴方を研究し尽くしたい」
「こらーっ! 変な誤解するからやめなさい!」
「変な誤解? 誤解なんてないわ。ねえ、ユウ。私と結婚しましょう。そうしましょう」
「ええええ!?」
「セーラちゃん! この魔法オタクを止めるわよ!」
「りょ、了解っ!」
僕を押し倒そうとするステラさんと、それを止めるために後ろから引っ張るアリサさんと、止めるために僕とステラさんの間に入るセーラちゃん。
みんな短いスカートを履いているから、あわや中が見えそうになった。
急いで視線を外すと、向かいにゲラゲラ笑っているガイルくんが見えた。
うぅ…………まさか魔法を使っただけでこうなるとは思わなかった…………。
それから暫くアリサさん達の格闘(?)が続いて、興味があることに対して突撃するステラさんが凄いと思った。
幼い頃、兄さんの背中を追って毎日剣術の練習がしたいって言っていた僕は、今のステラさんのように自分の情熱をむき出しにしていたのだろうか。
きっと母さんと父さんも驚いたのかも知れないね。
ステラさんもようやく落ち着いて、三人で一緒に〖着火〗を繰り返し練習し始めた。
のほほんとした時間を過ごして昼食を食べ終えて、みんなで一緒に街の散歩にでた。
三人娘はもっと練習がしたいと言っていたけど、何事もやりすぎると遠回りになるから毎日十分以上はダメだと言うと、すんなりと納得してくれた。
まだ合格したのかは分からないけど、聖都の西区を歩き回ってどういう建物があるのか歩き回る。
途中で甘いお菓子を買ってみんなで食べたりと楽しい時間を過ごす。
そして夕方になる前。
僕達はセイクリッド学園に続く橋の前にやってきた。
扉は固く閉まっているけど、多くの人で賑わっていた。
その理由は――――昨日受けた受験が今日で既に発表されるからだ。
周りのソワソワした雰囲気も相まって、僕達も少し緊張した面持ちで眺める。
扉が開いて、美しい白い衣装を着た男性二人と女性一人が出て来た。
周りからは「聖騎士だ!」という声が聞こえて来る。
世界最大戦力を誇るという聖騎士。個々の戦力が高く、世界でも最も強い存在で構成されているという。
遠目からでも彼らの強さがひしひしと伝わってくる。
「これより合格者の番号を発表する! 既に名前も登録されているから、他者の番号を奪い取っても意味はない! では――――」
真ん中の男性聖騎士さんが話し終えると、後ろの二人の聖騎士さんが不思議な力を使って大きな紙を巨大な門に張り付けた。
そこには沢山の数字が並んでいて、推薦枠にはそれぞれ名前が記入されていた。
その下から順位で番号が並んでいる。
そして――――――最後。一番下には僕の受験番号が記入されていた。
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