第34話 ここまでの道のりの結果

 合格…………はしたと思うんだけど、帰りの足取りが重い。


 試験官の最後の言葉を信じるなら合格は合格だろうけど…………学園に『無能枠』というのがあるとは思わなかった。


 それでみんなが納得してくれるかは分からないから、少し怖いのは正直な気持ちだ。


 汗ばんだ体に外風が涼しく感じる。


 丁度寮に続いている坂が見えて、声をかけてくれた公園が見えた。


 ううっ…………出ていけって言われたらどうしよう…………。


 と、思っていた時、公園から一人の影がこちらにやってきた。


「んも! 遅いわよ!」


「っ!? あ、アリサさん!?」


「試験終わったらみんなで打ち明けすると言ったでしょう!? 早く来なさいよ!」


「あ、あ……うん」


「何よ。元気ないじゃない」


「…………そ、そうかな?」


「…………ねえ。君って本当に才能なしなの?」


「うん…………」


「そっか…………凄いね! 才能ないのにあんなに綺麗な素振りができるの!?」


「えっ!?」


 もしかして僕に対して拒絶する言葉が飛んで来たらどうしようと少しだけ思ったけど、彼女が話した言葉はそういう類の言葉ではなかった。


「だってさ。才能がない人でもあれだけ頑張れば強くなれるって、君って本当に凄いよ。私は自分の強い才能に溺れていたのかも知れないわ。だから――――――ありがとう!」


「感謝される程では……」


「自分の才能だけに自惚れて、焦ってばかりで、もしかしたらいらないプライドに溺れてしまっていたかもしれない」


 素敵な笑顔を浮かべた彼女のおかげで、僕の心にあった少しの不安が全て取り払われた。


「さあ、みんな待っているわ! セーラちゃんにはしっかり謝りなさいよ」


「セーラちゃん?」


「会えば分かるわ」


 彼女に手を引かれて坂道を歩いていく。


 僕の手を握る彼女の手は離さないと言わんばかりにしっかり力が込められた。


 寮の玄関に入ってもアリサさんが手を離してくれない。


「さあ、このまま宴会に行くわよ」


「このまま!? ちょ、ちょっと一瞬だけ待って!」


「ん?」


「――――無属性魔法〖クリーン無属性・上級〗」


 僕の体を白い泡状の光が無数に現れて全身を洗い流す。


 無属性魔法は攻撃魔法は殆どない代わりに、自分専用の補助魔法や便利魔法が沢山存在する。


 その中でも、僕が最も好きな魔法は〖クリーン〗という魔法で、一回使うだけで来ている服から体まで全身が一瞬で綺麗になる。


 前世のように風呂がない異世界だからこそ、〖クリーン〗の魔法がとても役に立っている。


「えっ!? 無属性魔法が使える!? しかもそれって上級魔法!? えっ? 詠唱破棄!? ちょ、ちょっと!?」


「ん? どうかしたの?」


「どうかしたのじゃないでしょう! 才能ないのにどうして魔法が使えるの!?」


 目を大きく見開いたアリサさんだったけど、声を聞いてからなのか食堂の扉が開く音がして、足音が聞こえてきた。


「ユウマ! 遅いぞ!」


「……バカップル。遅い」


「遅くなってごめん! あれ? セーラちゃん?」


 ガイルくんの後ろから、こちらを恐る恐る覗く目が真っ赤に染まっていたセーラちゃんが見えた。


「セーラ。ちゃんと自分で言わないと」


 背中を押されて前に出て来たセーラちゃんの目元に大きな涙が浮かぶ。


「ゆ、ユウくん……! ご、ごめんなさい!」


「セーラちゃん? どうして僕に謝るの?」


「私…………ユウくんが頑張ってきたのを知っていたのに、周りから無能と呼ばれて言い返せなかった……知っていたのに。ユウくんが凄い人だって知っていたのに…………」


 頭を下げた彼女の顔は見えないけど、寮の絨毯に大きな雫が落ち始めた。


「セーラちゃん。僕のせいで泣かせてしまってごめんね。僕は大丈夫だから。ちゃんと自分でできることをやってきたから。最初に望んでいた形ではないけれど、ちゃんとやり遂げて来たから後悔はないよ。みんなと同じくらい僕も目標があってここに来たから。才能ない僕だけどよかったら入学しても仲良くしてくれると嬉しいな!」


 彼女はそれでも泣き止む事なく、声をあげて泣き続けた。


 僕のために涙を流してくれる人がいることが、とても幸せな事なんだと思う。


 何とか泣き止んでくれたセーラちゃんとみんなと一緒に打ち明けを行った。


 すっかり僕の噂が寮にも広まっていたらしいけど、みんなと勉強をしていた僕を知っていてくれたからか、先輩たちも寮母さんたちも僕を励ましてくれた。


 聖都に来て、最初にルリカちゃんに声を掛けられたおかげで、シャローム寮に入れて本当に良かったと思う。











「…………無才なのに魔法が使えるところはいつツッコんだらいいのかしら?」


 アリサは一人溜息を吐いていた。

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