第32話 無能
実技試験のために建物から外に出ると、受付があった表側の逆の裏側に広い訓練場が広がっていた。
訓練場はブロックに分かれていて、お互いが見えないように壁で隔てられている。
壁から感じるのは魔力だから、魔法で作った壁なのかも知れない。
受験番号の場所に並ぶと、毎日会っている綺麗な水色髪の後ろ姿が見えた。
「セーラちゃん」
「ユウくん! 実技は一緒みたいね! 筆記はどうだった?」
「ちゃんと余裕もって全部答えられたよ~アリサさんが教えてくれた呼吸法も凄く良かったかな?」
セーラちゃんが目を細めて僕を見る。
「私が彼女じゃなくて残念だったわね~」
「えっ!? ち、違う! そんなつもりじゃ……ご、ごめん」
「ぷふっ! ユウくんって本当に反応が可愛くてからかい甲斐がある~」
「むぅ……またからかわれたのか…………」
実技試験に少し緊張していたのが、セーラちゃんのおかげで少し解けた。
暫く二人で談笑しながら待っていると、試験官がやってきて試験の説明をしてくれた。
内容は、まず才能を計測して得意な科目を受けることになる。
武術系なら身体能力検査と特殊なカカシとの戦闘、魔法系なら魔法で作られたターゲットに魔法を披露する、製作系ならその場で製作を行うなど、それぞれが受ける科目によってやり方も違うそうだ。
並んでいた受験生の一人目が呼ばれて、手のひらサイズの水色の水晶に手をかざすと、水晶が弱く赤色に光った。
それから次々呼ばれて水晶に手をかざしていき、みんなが分けられていく。
赤色は武術系の才能、青色は魔法系の才能、紫色は製作系の才能を表しているようだ。
受験者がどんどん振り分けられて、最後に僕とセーラちゃんだけが残る。
そして、セーラちゃんの名前が呼ばれて向かった彼女が手をかざす。
水晶が赤色に輝き始める。それだけで彼女が武術系の才能なのが分かる。
ただ今までの受験者達と違うのは――――――
「こ、これは! ま、まさか上級才能だと!?」
試験官が驚くのも無理はなくて、今までの人達とは比べ物にならないくらい眩しい光が放たれたのだ。
今までは水晶が少し光るくらいなのに、セーラちゃんは光りが溢れて眩しい程だ。
才能の名前は告げないけど、周りの人達から「剣聖だ……」という言葉が聞こえて来る。
剣聖というのは、剣を扱う才能の中で最上位に位置し、勇者や賢者と並んでみんなの憧れの才能である。
少し恥ずかしそうに笑うセーラちゃんが武術組の方に立ち、最後に僕の番となった。
「おお! 貴方様が勇者様の弟君でございますね!?」
笑顔の試験官が声をあげた。
もちろん声が周囲に聞こえたのは言うまでもなく、周りからは「勇者様の!?」「勇者様って弟っていたんだ」などが聞こえてきた。
セーラちゃんも驚いたようで、可愛らしい目を大きく見開いて僕を見つめた。
「あはは……僕は兄さん程凄くはないですけどね」
「さあさあ、勇者様の弟君なら、さぞかし素晴らしい才能を授かったのでしょう! 最上位の才能が既にいる中、弟君が入学するのは運命なのかも知れませんね! さあ、どうぞ」
試験官は興奮が冷めないようで、期待の眼差しを送ってくる。
どうしよう……才能なしだから光ったりしないと思うけど…………もしかしたら絆の才能で反応してくれるかな? 変な誤解が起きなければいいけど。
心配しつつ、僕はゆっくり手を伸ばして水晶に手をかざした。
…………。
…………。
「えっ?」
「あはは……ごめんなさい。僕、才能がないので反応しないみたいです」
そう話すと、周りから笑い声が起きる。
「見ろよ! 才能もないやつがセイクリッド学園に受験だとよ!」
「ほら、もしかしたら兄の勇者様の権限で入学できるかも知れないぞ?」
「うわ~うらやま~ずる~」
心のない声が会場を埋め尽くし始める。
その中でも、最も
「…………勇者の弟君がまさか
「あはは……泥を塗るつもりはないのですが…………受験できないんでしょうか?」
「………………無能でも受験はできる。だが合格は難しいだろうな。無能は――――向こうのブロックだ」
試験官が指差したブロックは、ここから最も遠い小さなブロックで、誰一人並んでいなかった。
それにしても才能がないだけで『無能』と呼ばれるのは少し辛い。
でもここに来たのは自分の力で入学して兄さんの後を追うこと。
だから迷うことなく、肩を落とすことなく、正々堂々と前を向いて才能なしのブロックに向かった。
僕がブロックに向かう間、僕の存在を見た別のブロックの受験者達からも指をさされながら笑われ始めた。
その中でちらっとアリサさんの驚く顔が見えて、セーラちゃん同様に少し申し訳ないなと思う。
僕が才能なしと母さんから言われた時、母さんは村で生きて欲しいと願っていた。
才能がないというのは、異世界では大きな問題になるようだ。
初めて異世界の厳しさを味わいながら、僕は誰もいないブロックに立つ。
そこには眠そうな顔とだらけた格好で椅子に座ってこちらを見つめる男が一人いた。
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