第31話 バカップル
「ふう……緊張するわね」
「そうだね~凄く緊張する~」
「…………全然緊張してないじゃない。本当に緊張している?」
「え~緊張しているよ?」
みんなと一緒にやってきたのは――――――セイクリッド学園の玄関口。
今日、ここで僕達は人生を大きく変えるであろう入学試験を受ける。
「ふう~ん。本当?」
アリサさんが手を伸ばして、僕のおでこに触れた。
「っ!?」
「ん? 熱いわね。少しくらいは緊張しているみたいね」
「そ、そうだよ! ちゃんと緊張しているから!」
別な意味で緊張している気がするけど…………ううっ…………。
「こら~っ! そこのバカップル! イチャイチャしないの!」
「「バカップルじゃないよ!」」
セーラちゃんの声にアリサさんと同じ返事を返す。声も見事に被っている。それがまた恥ずかしくて顔が熱くなる。
「こちらの緊張も全部吹き飛ぶな。あははっ」
「ガイルぅ…………ステラさんは大丈夫?」
一緒に勉強する間柄となって、ステラさんとも話せるようになった。
実は彼女は極度の人見知りで緊張しているらしくて、中々話せなかったらしい。
「ぅん……大丈夫……」
意外と素直なステラさんは嘘とか付かずに自分の気持ちを素直に言ってくれる。
ただ、それが場合によってはよくない方向に働くから、段々ひとりぼっちになったと言っていた。
「ユウくん……」
「ん?」
「イチャイチャ……ク〇野郎……」
「う、うん……ごめん…………」
「おけ」
たまに変な言葉を使うけど、それって異世界でもあるんだな…………。
親指を立てて笑顔を見せるステラさんだ。
「さて、入るぞ~」
ガイルくんを先頭に、みんなで一緒に開いた大きな門から見える建物に向かって歩き始めた。
受付と書かれた天幕があって、他の受験者と一緒に並ぶ。
一人ずつ天幕の中に呼ばれて、受験票を貰って建物の中に入っていった。
僕達も段々と進み、最初にガイルくんが入ってきた。
「みんな。落ち着いて頑張ろうぜ」
次はセーラちゃんが入ってくる。
「終わったら、みんなで打ち上げに行こうね~」
次はステラさんが入って出た。
彼女は何も言わず、僕達二人に向かって親指を立てた。
次はアリサさんが入って出た。
「ふう……これで……」
「アリサさん。落ち着いて受けるんだよ?」
「うん。君のおかげで落ち着いて受けられそう。色々ありがとうね」
「仲間なんだし――――あっ! い、行きます!」
天幕から受付の人が睨みつけたので急いで天幕の中に入った。
後ろからアリサさんの「まったく……君こそ落ち着いてよね」という声が聞こえて来た。
天幕に入ると中は数人は入れそうな大きさで、中央には横長のテーブルがあって、そちらは中央にスーツの男性、その両脇にはスーツの女性が書類をまとめていた。
「こちらの板にフルネームを書いてください」
「はい」
言われた通り、手のひらサイズの不思議な金属板に芯がないペンで名前を書く。
魔法が発動したのか、はたまたそういう反応を利用したのか分からないけれど、僕が書いた通りの名前が書かれていた。
「ユウマ・ウォーカー様ですね。ウォーカー!?」
「はい。どうかしましたか?」
「…………失礼ですがクレイ・ウォーカー様をご存じですか?」
「はい……兄です」
「っ!? なるほど。勇者様の弟でしたか。こちらが受験票でございます。勇者様の弟であれば、さぞ素晴らしい才能をお持ちでしょう。これからを楽しみにしております」
「あはは……精進します。ありがとうございました」
受験票をもらい、皆さんに挨拶をして天幕を出た。外にはまだまだ受験者が沢山並んでいた。
すぐ近くにある地図から受験票の番号を照らし合わせて向かう。
建物が二つあって、右側の建物の四階のEクラスだった。
初めて入る教室はどこか前世の大学にも似た作りになっていて、ステージに向かって段差が作られていて正面のステージが見える作りになっている。
教室はそれほど広くなくて、三十人くらい入れる部屋で、飛び飛びに座っているので十五人座っている。
毎日一緒にアリサさんと朝練をしてきて、彼女から教わったエルフならではの呼吸法を使う。
腹式呼吸のようなやり方で、全身に息を行き渡らせて血行を促進する。
頭にあった雑音がクリアになり、一気に集中力が増していく。
その状態で少し待っていると、スーツ姿の若い女性が三人入って来て受験について色々説明してくれた。
それから受験が始まり、午前中に三つの科目の筆記試験が続く。
一般知識、才能やスキルに関する知識、歴史や国の知識の三つの科目だ。
シャローム寮での勉強もあって、難なく答えられ全ての問いに集中できたと思う。
午前中の筆記試験が全て終わり、学園から提供される弁当を食べて少し休み、午後からは実技試験となる。
昼食を終えて目を瞑って瞑想をしていると、ベルの音が響いた。
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