第29話 髪飾り
手を伸ばせば届く距離。アリサさんの小さな息の音すら聞こえてくる。
「ん? どうしたの?」
「!?!?!? な、何でもないよ!」
「また変な顔になってるよ? 今日変な顔する日なの?」
い、言えるわけがないっ! ニヤけてしまうからと言ったら絶対に嫌われる……。
――「え!? ニヤけているの!? き、きもっ!」
と言いながら
色々考い込んでいると、あっという間に露店街に辿り着いた。
「ねえねえ! あれ見に行こうよ!」
アリサさんは無邪気に笑い、初めてみる露店を目掛けて走っていく。
子供のようにはしゃぐアリサさんの後ろ姿に、こちらの心まで嬉しくなりそうで追いかけた。
露店では不思議な食べ物が並んでいて、初めて見る果物や野菜が並んでいる。
リンゴみたいな果物をその場で買って、アリサさんと一緒に食べる。
「「美味しい!」」
同じ感想で声が被る。
甘い果実が口の中に広がって、ほんの少しの酸っぱさがアクセントになっていて、ものすごく美味しいリンゴ味の果物だ。もはやリンゴそのものか。というより、こんなに果物の甘さを感じるリンゴを初めて食べた。
それに固さもちょうどよくて、固過ぎず、柔らかくて食べやすい。
そこからずらりと並んでいる露店を一つ一つ見て回る。
美味しそうな食べ物があれば、買ってベンチに座って食べてを繰り返す。
「ふう~食べすぎちゃった……」
「なんかこういう食べ方すると、少し悪いことしているみたいで楽しいかも~」
「そうね。私が住んでいた里ではこういう食べ方は許されなかったから」
「そうなんだね~エルフの里か~」
「つまらないわよ。景色はいいけどね」
でも、いつか機会があったらアリサさんと一緒にエルフの里も見てみたいな。
…………。
…………。
「ん? どうしたの?」
「な、なんでもない! そろそろ次に行こうか。あまり長時間座ってるとよくなさそうだし」
露店街のベンチはそう多くなくて、あくまで食べ物を買って食べるスペースとなっている。
歩き疲れて食べ物を買って食べながら少し休む使い方をしている。
こうして占拠しちゃうと周りに迷惑をかけてしまうというか、意外と周りの方々もそういったことに気を使っている。
またアリサさんと共に露店街を周りながら、初めてみる物に感動しつつ笑いながら時間を過ごした。
「そこの綺麗なエルフさん~」
どことなく可愛らしい声が聞こえて、僕とアリサさんが顔を向けると、可愛らしいアクセサリーが沢山並んでいる露店さんだった。
「私?」
「ここに綺麗なエルフさんはエルフさんしかいないでしょう~どうですか? 可愛らしいアクセサリーが沢山ありますよ~! 彼氏さんが買ってくれるかも知れませんよ?」
「「彼氏!?」」
「あはは~美男美女の仲良いカップルさんですね~」
「い、い――――」
僕が反論しようとしたが、アリサさんが露店の方に近づいた。
アリサさんの綺麗な金髪から見える耳は後ろからでも良く見えて、ほんの少しだけ赤みを帯びている気がする。
僕なんかを彼氏と間違われて怒ってるに違いない。
露店に近づいた彼女は――――――怒ることなく、並んでいるアクセサリーに視線を落とした。
「へえー。こんな場所に魔装飾師がいるなんて驚いたわね」
「さすがエルフさん。お目が高い!」
魔装飾師? 聞き馴染みがない言葉だけど、その才能の名前を本で読んだのを思い出す。
異世界では何かを作り出せる才能がある。
代表的なもので言えば、『鍛冶師』という才能だ。
様々な鉱物を使って武器防具を作れる鍛冶師。
その他にも、魔石を原動力に動く魔道具を作り出せる『魔道具師』。
そして、アクセサリーに特定の効果を付与して作れる『魔装飾師』。
非常に希少な才能なんだけど、上記二つよりは性能を出せないため、ハズレ才能の一つとして数えられていたりする。
というのもアクセサリーは『鍛冶師』でも作れて、『魔装飾師』同様に効果を付与することができるからだ。
ただ、本に書かれていたのは『鍛冶師』よりも幅広い効果を載せられると書かれていた。
早速〖上位鑑定〗を使ってアクセサリーを眺めていく。
全てのアクセサリーに特殊効果が付与されている。
中には『筋力上昇・下級』と書かれていた。
なるほど…………付与するのは能力ではなくて、あくまで装着時にスキルを付与するのか。
『筋力上昇・下級』というスキルを持っていなければ、素晴らしい効果だが、持っている場合無駄になってしまう欠点がある。
だからこそ、ハズレ才能の一つとして数えられるのかも知れないな。
「どうですか~気になるものがありますか? エルフさん綺麗だから安くしておきますよ~」
「ん…………」
学園の実技試験の際に装備は禁止されているけど、入学したら禁止されていないので、ここで一つ二つ買っておくのもいいかも。
ふとアリサさんの目線が髪飾りに留まった。
美しい緑色の宝石を中心に羽根をモチーフにした作りになっている。
「店長さん。ちょっと付けてみていいですか?」
「どうぞどうぞ! 彼女に似合うものを心行くまで堪能してください!」
か、彼女…………ではないんだけど、それはひとまず置いておくとして、僕は手を伸ばして羽根型髪飾りを取り、アリサさんの髪に当ててみる。
「っ…………」
「凄く似合ってるよ! これいくらですか?」
「ふふふっ。お目が高い! ですがそれは一品物で私の最高傑作です。安くするとは言いましたが、金貨一枚になってしまいますよ」
「金貨一枚!? む、無理よ! そんなものいらないわ!」
でもアリサさんは欲しそうに見ていたよね。
ただ手持ちでは金貨は支払えない。
と、マリ姉から受けたアドバイスを思い出した。
「アリサさん。店長さん。ちょっとだけ待っててくださいね!」
「えっ!?」「いってらっしゃいませ!」
僕は全速力で露店街から走り出して、近くの――――――冒険者ギルドにやってきた。
入るや否や、空いていた買取場所に向かい、鹿角牛の角を取り出して買取できないか聞いたら、驚いた受付のお姉さんは、恐る恐る金貨五枚になると言ってくれた。
魔物の素材ってこんなに高いんだと思いながら、今すぐお金が欲しかったので、金貨一枚以下なら他の素材も売ろうと考えていたくらいだから、そのまま決済してすぐに冒険者ギルドを後にした。
「お待たせしました! それ買います!」
「まいどあり~! 彼女さん。良い彼氏さんですね! これからも仲良くするのですよ~?」
「っ! ………………」
店長さんに別れを告げて、露店街から離れた人が少なくなった場所にやってきた。
「アリサさん。はい」
「っ!? こ、こんな高価なもの貰えないわよ!」
「え~でもアリサさんなら似合うと思うんだけど……だって僕が持っていても使わないし、せっかくお金も換金してきたから、貰ってくれたら嬉しいんだけど…………迷惑かな?」
「迷惑!? そ、そんなことないわよ! で、でも…………こういうの貰ったことなくて……どういう顔をしていいか分からないのよ…………」
次第に声が小さくなるアリサさんを見て、やっぱり髪飾りを買って良かったと思った。
「それなら――――――
笑って受け取ってくれたら嬉しいかな」
驚いたアリサさんは、色々悩んだ後に次第に笑顔に変わっていく。
少し恥ずかしそうに笑う彼女の笑顔に、僕の心臓は跳ね上がり、ゆっくりと手を伸ばして彼女の髪に髪飾りを付けてあげた。
「あ、ありがとぉ…………」
「うん!」
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