第28話 アリサさんの理由
次の日。
あ、朝から緊張する…………?
いやいや、そもそも自分で誘っておいて、なんで自分で緊張するんだ?
外から小鳥の鳴き声が聞こえるから、またアリサさんと朝のふれあい中かも知れない。
でも今日は挨拶に行かないようにしよう…………というか、どんな顔で会えばいいか分からない!
ひとまず、心を落ち着かせるために本を開こう。
…………。
…………。
あれ? 本が読めない? どうして?
えっと、文字が逆さまで読みづらい?
…………あ、本が逆になってた。
え、えっとどれどれ………………はぁ、僕、何しているんだろう。
勉強をやめて、ベッドに横たわる。
こんな気持ちになったのは初めてだから、どういう顔をしていいか分からない。
というか自分の顔、今どんな表情なんだろう?
部屋にある鏡に自分の顔を映してみる。
うわああああああ!
ちょ、ちょっと! こんな表情で会ったらまた怒られちゃうよ!
暫く表情のコントロールに悪戦苦闘しながら、朝食の時間となった。
「おはよう~ユウくん」
「おはよ~セーラちゃん。ガイルくん」
ガイルくんも小さく手を挙げて応えてくれる。
テーブルの上に本が並んでいるのが見える。
「あれ? もしかして二人って食堂で勉強してる?」
「そうだよ? 一人で勉強するより二人でやった方が効率いいし、知らないところも一緒にカバーできるし」
「セーラは俺が不得意な部分が得意で、得意な部分が不得意だから、お互いに色々聞けるから助かってるのさ」
「ほえ~! 僕も今度混ざっていい?」
「「もちろん」」
二人とも快く答えてくれた。
正直、受験のことなにも分かってないから、マリ姉から教わった部分しか勉強していないんだよね。
だからこそ、彼らに色々教わる事ができれば、合格にもっと近づける気がする。やっぱり友って凄くいいね。
少し待っていると、扉が開いて足音が聞こえる。
うっ!? ぜ、絶対アリサさんだ…………や、やばい。顔引き攣ってないよね!?
「お、おはよう……」
「「おはよう~」」
珍しく自分から挨拶してくれるアリサさんの声が聞こえて来る。
「お、おはよう!」
「ひっ!? か、顔。怖いわよ?」
「ご、ごめん! これでも精一杯頑張ってるんだ……」
「はあ……何を頑張ったらそんな変な顔になるの」
溜息を吐きながら座るアリサさん。
いつもよりほんのちょっとだけ距離が近い。
「ん? 二人ともどうしたの?」
こちらを見つめてニヤけている二人が気になる。
「ううん! 何でもない! どうぞ続けて!」「そうそう!」
「「??」」
そんなやり取りをしていると、ルリカちゃんがやってきた。
早速ルリカちゃんに怒られて全力で謝る。こんな大切な時期に勉強もせずに遊んでばかりだと合格しないですよ! って説教された。
やっぱりそうだよね…………隣のアリサさんはクスクスと笑いをこらえていた。
それから朝食を運んでくれて、美味しい朝食を食べた。
「ユウくん。今日も勉強しないの?」
「えっと、今日もちょっとだけ出かけてくるよ」
「そっか。まあ、自分の道は自分で決めることだからとやかくは言わないけど、遊ぶのもほどほどにね?」
「うん。ありがとう」
やっぱり友って凄くいいかも!
僕もいつかみんなにとってこういう友人になれるように頑張っていこう。
部屋に戻り、魔法関連の本を少し覗いて、魔法の復習を繰り返す。
それが終わる頃、昼前だったのでお出かけ用の服に着替えて寮を後にした。
◆
「お待たせ!」
「っ!? ま、待ってないわ!」
少し耳先が赤くなったアリサさんが答えた。
「あはは、だよね。僕なんかを待ってたと言われても驚くくらいだよ。「えっ!?」それはともかく、早速行こうか! 僕、露店街に行くの初めてだから凄く楽しみだったんだ!」
「はあ……まあいいわ。そういう約束だったし。露店街は私も初めてだから聞かれても答えられないからね」
「分かった! じゃあ、初めての同士だね~」
それにしても……今日のアリサさんはものすごく可愛らしい。
いつも機能性重視なのか体育着のような服装なのに、今日は女の子らしいスカートを履いている。
彼女の綺麗な足が露になって、膝より少し上に見える太ももも、シャーツから見える腕も色白で綺麗だ。
いつもよりも少し遅めにアリサさんと歩幅を合わせて道を歩く。
特に言葉を交わすことはないけど、楽しいと思える自分がいる。
「え、えっと、歩きながら聞きなさいよ」
「うん?」
「……私だけ聞いてるから、こういうのフェアじゃないから言っておくけど。私も兄さんを追うために学園に入るの」
「そうだったの!?」
「…………兄さんを追うために私は強くならないといけないの。このままでは絶対に追いつけられないから」
「そっか……僕と一緒だね」
「そ、そうね。だから、その…………えっと…………」
足を止めたアリサさんが俯く。
「ん? どうしたの?」
「……さい」
「ん?」
「ご、ごめんなさい! 貴方の目標をくだらないなんて言ってごめんなさいって言ってるの!」
それは見事なまでに直角に頭を下げられた謝罪だった。
「ううん。大丈夫だよ。それに目標とか人それぞれだと思うから、その重さとか深さを人に強制するつもりはないし、僕は僕の、アリサさんはアリサさんの目標を目指して頑張って行こう?」
「…………うん。私も頑張る」
「あ~でもアリサさんは頑張り過ぎだから、今日はもう勉強終わりね~? 露店街で沢山遊ぼう~!」
「ぷふっ。今朝ルリカちゃんにあんなに勉強しろって怒られたのに?」
「あっ! あ、明日から! 明日からちゃんと勉強するから!」
「そうね。私も今日は休もうかしらね~あ~何だかそう考えると色々馬鹿らしくなってきた! 今日は好きなだけ食べて遊ぶぞ~!」
アリサさんの満面の笑みを浮かべて僕の手を引いて歩き始めた。
マリ姉からも疲れた時はしっかり休むように言われていた事が、ようやく分かった気がした。
僕も兄を追いかけて十年間一日も欠けることなく勉強を続けた中で、初めて休日を満喫すると決め込んだ。
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