第25話 散策

 夕飯を食べていると、次々寮生たちが戻って来た。


 僕達五人を除いて、十五人もの寮生がいて、僕達の先輩に当たる。


 それとやはり部屋は全部で二十部屋で、男子十部屋、女子十部屋だそうだ。


 先輩達は男子八人、女子七人だった。


 どの先輩も凄い強そうな気配がする。


 その中でも二つ上のシェラハ先輩と一つ上のリアン先輩は他の先輩達よりもずっと強い。


 ただ一つだけ気になるのは、うちの田舎村の人達より強そうな人は見当たらない。


 でもそれはあくまで鑑定で計っただけの外見の強さ。僕が初めて戦った魔物にはギリギリの戦いをした。〖炎帝〗の時間内に倒せなかったら逃げるのも一苦労したかも知れない。


 それを鑑みるとみんな力を隠しているに違いない。


 セイクリッド学園は最高峰の学園だからこそ、こういった強い人達が集まっている。気を引き締めて頑張りたい。


 最後の寮生ということで、全員が集まったから軽く歓迎会を開いてくれた。


 楽しい時間はあっという間に過ぎて、夜が更けて来てそれぞれの部屋に戻る。


 スキル〖探知〗を調整してみる。


 感覚でだけど、上手く調整できる気がして、範囲を狭めて自分の部屋の範囲に落とした。


 広範囲にしておくとプライベート侵害とかありそうだからね。


 そして、初めての聖都にあたふたしていたからか、僕はすぐに眠りについた。




 ◆




 鳥の音で目が覚める。


 そうか……村じゃなかったね。


 初めて見る天井だけど、これから慣れないとね。


 部屋には当然のように魔道具が置かれて手をかざすと光が付くランプがある。


 カーテンを開くと窓の外はまだ少し暗くてお日様が上がり始めていた。


 ふと窓の外に動いている何かがいたので視線を向けると、長い髪を一つにまとめてポニーテールにして木剣を振り下ろしているアリサさんの姿が見える。


 こんなに朝早くから素振りの練習は凄いね。


 少しの間、彼女の素振りを二階から眺める。


 綺麗なフォームから振り落とされる木剣は、美しいと思える剣の筋だ。


 兄さんと父さんの素振りしか見た事なかったので新鮮な気持ちになる。


 異空間収納から持って来た本を取り出して目を通して時間を過ごした。


 朝食も美味しくて気持ちよく寮を出た。


 本来なら受験勉強をしなくちゃいけないとは思うけど、ここまで勉強してきているし、それよりは余裕を持ちたいので聖都の空気になれるために聖都をぶらぶらと歩き回る。


 僕が動けるのは西区だけだけど、うちの村よりも何百倍も広いので歩くだけで新しい景色にワクワクする。


 武器や防具を扱っている鍛冶屋があったり、美味しそうな匂いがするレストランもあるし、おしゃれなカフェも、衣服屋もアクセサリーを売っている店もある。


 その中でも一番目を引くのは、露店街だ。


 露店がどこまでも並んでいて、色んな売り物を見て回るだけで一日が過ぎそうだ。


 その日は聖都を歩き回って、帰ったのはすっかり日が落ちてからだった。


 寮に戻るとデザートでも食べないかと言われたので食堂に入った。


「随分と長旅だったね?」


 セーラちゃんがスプーンを口に加えて、こちらに手を振る。


「聖都を歩き回ってみたんだ。うちの村が比べ物にならないくらい広くて、つい楽しくなっちゃった」


 丁度デザートを食べ終えたアリサさんが不機嫌そうな表情で僕の前に立つ。


「随分と余裕ですこと。さぞ素晴らしい才能を授かったんでしょうね~実力ある人は羨ましいわ」


 ものすごく棘のある言い方が心に刺さる。


 転生して人から敵意を向けられるのは初めての出来事だ……少し泣きそう。


「いい加減、そこから退いてくれない? 食堂から出れないんだけど」


「あっ! ご、ごめん!」


「ふん!」


 ふん!? また言われてしまった……。


 自分はメンタルが弱い方ではないと思っていたけど、十年以上の田舎生活から久しぶりに前世の冷たい空気を思い出した。


 聖都も活気あふれているように見えて、路地の裏に希望を失った人々が時々見えていた。


 素晴らしい両親のもとに生まれたおかげで、ここまで楽に生活できただけだと現実を知らしめる。


「そこまで言わなくてもいいのにね……ユウくん。あまり気にしないでね? 受験前だからピリピリしているんだと思う。それくらい私達にとって受験って大きいでしょう? 人生が掛かっているからね」


 僕も兄を追うという目的と目標があってここにやってきた。受験を甘く見ているつもりはないけれど、今から焦る程甘い生活を送ってきたつもりはない。毎日入学するために鍛錬を疎かにした事はない。自信とはまた違うけど、それなりにやってきた事をしっかり出せるように僕なりの緊張をほぐそうとしている。


「ありがとう。誰かに嫌われるのは初めてだから、ちょっと驚いてしまったよ。僕は大丈夫! ちゃんと覚悟を決めてここに来ているから」


「ユウくんの実家がある田舎村ってそんなに人少ないんだ?」


「うん。二十人くらいだし、年齢が近いのはマリ姉しかいなかったからね」


「へえ~マリ姉ね……」


 テーブルに座るとサリアさんが美味しそうなデザートを持ってきてくれた。


「なんかさ、アリサさんを見ていると危ういと思うんだよね~」


「アリサさんが危うい?」


 手に持ったスプーンを上に向けて「そう!」と答えたセーラちゃんが続ける。


「だってさ。ここに来ている時点で、みんな努力はしてきていると思うんだ。アリサさんも。でもあんなに気を詰めすぎて体調を崩したり、変に思考が固まってしまって実力を出せなかったりするからね」


「そうか……」


 デザートを食べ終えて部屋に戻っても、なぜかセーラちゃんの言葉が忘れられない。


 ふと、朝に素振りをしていたアリサさんを思い出す。


 誰でも努力はしている。でも現実は残酷で本番で成果を出せない人も沢山いる。


 少し肩に力を抜いた方が上手くいくと思うからこそ、心配になった。

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