第23話 人混み
ひ、人が! 人しかいない! いや、人以外にも本でしか見た事がなかった獣人族やドワーフ、中にはエルフもいる。
さらに見た事がない魔物を連れた人もいるし、どこにでもいそうな動物を連れてる人達も沢山いる。
ぼーっと眺めていると、ふと建物と建物の間の路地から人の気配がした。
スキル〖探索〗を無意識で発動させていた事に気付いて、急いで切ろうとしたけど、それよりも気配が気になって足を運ぶ。
!?
み、見てなかったことにしよう…………。
と、都会って凄いな…………。
ひとまず、近くの宿屋を探す。
スキル〖探索〗のおかげで、なんとなくどういう建物か分かるというか…………同じ部屋に複数人でいるのが多い建物が宿屋なんだな。
思わず、さっきの路地裏の出来事が頭を過って、〖探索〗で見えた宿屋を被せる。顔が熱いのが分かる。
それにしても表通りは人が多くて、どこを見ても人だらけで、お店も人が多い。
自分ではそうだとは思わなかったけど、人酔いなんてするとは思わなかったけど、この人混みには思わず頭が痛くなる。
急いで人が少ない通りに逃げ込んでみる。
そこから歩き進めると、人が少ない公園があったので、ベンチに座り込んだ。
「はあ…………人…………多い…………」
思わず口にしてしまうくらいに、精神的な苦痛を感じていたのかもしれない。
数分公園でぼーっとしていると、忍び足で僕に近づいてくる気配を感じた。
スキル〖探索〗を切っておくのをまた忘れてしまった。そういえば、範囲を狭くすることはできないだろうか?
スキルというのは感覚でしか使えないので、こういう部分は不便だと思う。
ゲームのように画面でオンオフを切り替えたり、数値を決めたいと思うけど、異世界でもそこまで便利な訳ではないらしい。
スキルリストとスキル〖上位鑑定〗で鑑定した相手の詳細が目の前の画面に表示はされるんだけどね。触れられないから操作はできない。
近づいて来た気配からは悪意を全く感じないので、そのまま放っておくと僕の前に飛び出て来た。
「こんにちはっ~!」
「こんにちは~」
「えっ!? 驚かれないんですね?」
「ふふっ。後ろから近づいてくるのが分かってたからね」
彼女は十歳程のツインテールの茶髪がとてもお似合いの笑顔が可愛らしい少女だ。
「初めまして! 私、ルリカと言います!」
「ルリカちゃんね。僕はユウマだよ」
「ユウマお兄ちゃん! ちなみに、お兄ちゃんはここで何をしているんですか?」
「人混みが苦手で人がいない公園で少し休憩しているんだ」
「ほえ~もしかして、お兄ちゃんって学園の受験者ですか?」
「そうだよ」
そう答えると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「まだ宿屋が決まっていないなら、うちに来ませんか!」
やっぱりそういう事だったか……セールスで来てくれたんだ。
「いいよ? でも金額次第かな~僕も手持ちはそう多くないから」
「それなら尚更ピッタリですよ! さあさあ、行きましょう!」
ルリカちゃんに手を引かれて公園を後にする。
続いている坂を元気よく上がっていく彼女が微笑ましく思える。
手を握るルリカちゃんの暖かさを感じながら、悪い感じが全くしないので、宿屋もきっと良いところだと思う。
坂を上がった先に、少し古びた建物が出て来た。
壁も庭も道も綺麗に整備されていて掃除も行き届いている。
看板には『シャローム寮』と書かれていた。
「ん? 宿屋じゃなくて寮なの?」
「そうですよ~さあさあ、中へどうぞ」
頭の中に疑問がいくつか生まれるが、せっかくなので誘われたまま、中に入っていく。
最初の印象は玄関口に立った時にとても爽やかな森林のような香りがふんわりと香る。
玄関口の前に置かれている小さな木のおかげなのかな?
「うちは靴を脱ぐ形式ですので、脱いだ靴があそこの棚に置いてくださいね」
お!?
異世界は全て洋式だとばかり思っていたけど、こうして建物内で靴を脱ぐ習慣がある事に驚いた。
ちょっとだけ前世の事を思い出して懐かしく思う。ただ、景色は洋風なんだけどね。
「お母さん~! 寮候補生を連れてきたよ~! 凄くカッコいいお兄ちゃんなの~!」
か、カッコいい!?
きっとお世辞で言ってくれたと思うけど、言われたことがないので少しだけ嬉しく思う。
村ではいつも孫のように見られていたし、歳が近かったのは兄さんとマリ姉だけだったから。
「いらっしゃいませ~シャローム寮へようこ――――――あら、本当にカッコいい方が来ましたわね」
ルリカちゃんのお母さんと思われる方がエプロン姿のまま出て来た。
彼女と同じく茶髪で、髪を編み込みで整えており、清楚感が漂う綺麗な女性だ。
「は、初めまして。ユウマといいます」
「ユウマくんですね~ようこそ、寮母のサリアと申します。厨房で調理を担当しているのは夫のディガルといいます。学園入学試験を受けにきたんですよね?」
「はい。今年の入学試験を受けます」
「ふふっ。ここにはユウマくんのような入学を志しに集まった人達がいるんです。もし入学したらそのまま寮生となってもいいのですよ」
「なるほど! 寮生を増やすのも一つ目的だったのですね」
「うふふ。そうともいいます。ですが、うちは一般お客様はお断りしているので、宿屋よりは色々良い事が多いと思いますよ?」
それから一枚の紙を渡されて寮費のことや、決め事などが書かれていた。
どの内容も寮生にとって過ごしやすくなっていて、ルリカちゃんからは「お父さんのお料理、凄く美味しいから期待してて!」と言われた。
さらに宿屋が一泊銀貨一枚を超えるのに対して、寮生は十日で銀貨一枚という破格な料金だった。
それで大丈夫なのかと思ったけど、どうやら聖国から指定された寮なら、寮生に支援金がもらえるそうで、シャローム寮は寮生のために色々考えてくれる素敵な寮である事が分かった。
もちろん、迷うことなく入寮を決めた。
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