第21話 荷馬車旅

「アレクサンダー、疲れていないか?」


 ヘンメさんが荷馬車を引いてくれる馬に声を掛ける。


 これは定期的に声を掛けているが、本当に馬が答える仕草をする。


「ん? どうした? 坊主」


「もしかしてヘンメさんって『馬飼い』さんですか?」


「おうよ! そう珍しいものでもないだろう?」


「おおお! いえ、うちの村にはいなかったので凄いです! 初めて会いました!」


 『馬飼い』というのは職業ではなく、才能の名前だ。


 才能には剣士やら騎士やら勇者、賢者、聖女、剣聖などなど、華やかな才能がある中、戦う才能ではなくて一つの芸に特化した才能も多くある。


 その中でも一度は見てみたかった才能の一つが、『馬飼い』という才能だ。


 才能を記した書籍によれば、なんと! 馬と話せる才能だそうだ! 動物でもなく、馬とだけ!


 ただ、素のステータスが低いから馬に乗って戦うとかは向いてないと書かれていて、多くは馬車の御者になると書かれていた。


「そうかい~珍しい坊主だね。田舎から出て来たって?」


「そうですね。小さな村なんです」


「小さな村か~カレルラ町ですら田舎なのに、うちより田舎なんてあったっけかな~」


 あはは……やっぱりうちの村って存在感ないんだろうな。たった二十人しか住んでいないしな。


「馬って普段どんなことを考えているんですか?」


「馬じゃねぇー! うちのアレクサンダーじゃ!」


 そう言われたアレクサンダーは、「そうだ! そうだ!」と言わんばかりに鳴き声をあげた。


「そうでした! アレクサンダーさんごめんなさい」


「あはは、アレクサンダーは優しいからな、タメ語でもいいさ。それより、聖都には観光かい?」


「いえ、セイクリッド学園の入学試験に行くんです」


「セイクリッド学園!? 坊主……すげぇな。あんな凄いところを目指すだなんて」


 やっぱり有名な学園なだけあって驚かれるんだな。


 ずっとマリ姉が勉強を見てくれたから、筆記試験は余裕で通ると言ってもらえた。


 あとは実技試験が問題だけど、才能はなくてもちゃんとスキルを持っているから無事通れるだろうとの事。


 僕としても兄さんの後を追うために頑張っていこうと思う。


「セイクリッド学園に入るんだろうから大層な才能の持ち主なんだろうな~坊主が羨ましいよ~」


「あはは……残念ながら才能なしなんですけどね~」


「なっ!? 坊主……まさか才能なしで入学するつもりなのか!?」


「ですね」


「坊主! 悪い事は言わない。才能なしでセイクリッド学園だけはやめておけ」


 急に真剣な表情でそう話すヘンメさん。


 きっと僕のためを思ってくれたアドバイスだと思うけど、僕には目的があるからね。


「セイクリッド学園を卒業したはずの兄を追いかけたいんです。だから少しでも近くを通りたい。僕は何が何でもセイクリッド学園に入学します。ただ、実力が足りればですけどね……」


「坊主…………人間色々あるが、坊主は大きなもんを背負ってるみたいだな…………悪かったな」


「いえ! それにしてもただの呑んべだと思ったら、ヘンメさんって凄くいい方なんですね?」


「がーははっ! 坊主は久しぶりのお客様だし、アレクサンダーを『さん』付けで呼ぶくらいに優しいからな。それに気に入られておかないと、ご飯なしとか言われたら怖いからな」


「あははは~ヘンメさんって凄く面白いですね」


 田舎だからか、村人のような安心感が感じられる。


 暫く馬車を走らせてアレクサンダーを休憩させるために近くの草むらにアレクサンダーを放ち、僕とヘンメさんで食事をすることに。


「ぬああああ!? な、なんなんだ! こんな旨そうな食事はよ!?」


「うちの母さんが作ってくれた食事です。弁当風に詰めたのがあったので、どうぞ」


「こ、こんな高価そうな食事を頂いてもいいのですかい!? 坊ちゃん!」


「ぼ、坊ちゃん……もちろんですよ。聖都まで頑張ってもらわないといけませんし、ん? アレクサンダーも食べたい?」


 いつの間にか近づいて来て、鼻をぴくぴくさせるアレクサンダー。


 確か動物図鑑では馬は野菜や果物も食べるそうだ。


 こっそり、村で採れた大きなニンジンを差し入れる。


「でかっ!? どこからこんなニンジンが!?」


「あはは、気にしないでください。それよりも早く食べないと冷めますよ?」


「おお! い、頂きます!」


 弁当を食べ始めたヘンメさんは、次第に「旨すぎる!」と言いつつも、ボロボロ泣きながら食べ始めた。


 アレクサンダーも大きなニンジンを気に入ってくれたみたいで、嬉しそうに尻尾を振った。


 いつも家で食べている母さんのご飯とは違って、外で食べる弁当感覚のご飯はとても美味しかった。


 そんな旅を二日繰り返し、僕を乗せた荷馬車はものすごく大きな街に辿り着いた。

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