第20話 カレルラ町

 カレルラ町の入口には誰一人立っておらず、町の中は何だか騒がしかった。


「あ、あんた!」


 一人のおばさんが血相を変えて僕にやってきて、腕を引っ張る。


「えっ!? ぼ、僕ですか!?」


「そうよ! 早く来なさい! 危ないわよ!」


 悪意は全く感じないので、手を引かれたまま町の中に入っていく。


 中央広場には多くの人達が集まっていて、武器を持った強そうな人達が守るかのように囲んでいる。


「あ、あの……何かあったんですか?」


「そうなのよ! 外にものすごい化け物が現れてね。もしかしたら町が滅んでしまうかも知れないのよ」


「ば、化け物!?」


「山のような大きな体で、鋭い角は鋼の鎧すら簡単に貫くという、とんでもない化け物よ」


「そんなに!?」


 やっぱり外の世界は怖すぎるよ! あの牛でさえあんなに強かったのに、山のような大きさ!? しかも鋭い角は鋼も貫く!?


 急いで町に向かったのは大正解だったみたいだけど、化け物がこちらに来ないといいな……。


 町の入口から一人の男性が足早にやってきた。


「町長! 例の化け物の姿がなくなってました!」


「おおお! それは本当か!?」


「ええ。周囲も探してみたんですがどこにも姿がなくて……ただ一つ気になるのは、何かと戦った形跡があります。向きから考えて山に戻ったのではないかと考えられます」


「そ、そうか……それならいいんだ。これで緊急体制を解除する!」


 町長と呼ばれたお爺さんが高らかに宣言すると、町人達が歓声を上げた。


 念のため探知を使って町の周りにも気を配ったけど、皆さんが言っているような化け物は見当たらない。


 町に急いで来たのは正しかったようだ。


「そういや、あんた。見かけない顔ね」


「は、はい。田舎から出て来たばかりなんです」


「田舎? あーははは! あんた面白い冗談をするわね! 気に入った! カレルラ町で田舎を語るとはね!」


 耳に響く笑い声と共に、背中を強く叩くおばさんが少しだけ殺伐とした世界ではない気がした。


「それで、田舎の人はどうしてカレルラ町に?」


「えっと、ここから長距離馬車で聖都に行けると聞いてきたんです。どこにあるか教えて頂けませんか?」


「それなら案内してあげるよ」


 ありがたいことにおばさんに案内されて、町の中を歩く。


 向かっているのは僕が入った南入口から反対側に向かっていく。


 そこには大きな建物があって、少しだけ動物の糞の匂いがした。


 村では農業をしていたから、こういう匂いは気にならないが、ふと村で使っていた肥料ってどうやって作ったのかなと疑問が生まれたが、まあ僕が気にしても仕方ないことだ。


「ヘンメさんいる~!?」


 乱暴に扉を開けて中に向かって大声で鳴り響かせる。


「んだよ……うるせぇな……どうしたんさ」


「また酒かい~! 全く……こちらの子が聖都に行きたいらしくてね」


「ん? 客なんて珍しいな」


「初めまして。ユウマと言います」


「ふう~ん。料金はきん――――」


「こらっ! ぼったくりはやめな!」


「え~久々の客なのに…………」


 どうやらぼったくるつもりだったらしい…………。


 異世界は紙幣は使わず、世界共通の貨幣を使う。


 貨幣には神々の不思議な加護が与えられ、貨幣を手に入れる方法は存在しないみたい。世界では貨幣の奇跡と呼ばれていると書籍には書かれていた。


 貨幣には五種類存在していて、小銅貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五種類だ。


 書籍とマリ姉からの情報をまとめると、


 小銅貨十枚で銅貨一枚。


 銅貨百枚で銀貨一枚。


 銀貨百枚で金貨一枚。


 金貨百枚で白金貨一枚らしいけど、そもそも金貨は貴族や上級民用だとの事だ。


 一応、単純計算で小銅貨が十円、銅貨が百円、銀貨が一万円、金貨が百万円、白金貨が一億円的な計算になる。


 つまり、料金は百万円…………乗った事はないけど、飛行機で外国に行くとき、それくらいの額が掛かるとか聞いた事あるけど、異世界でもそうなのか?


「わーったよ。銀貨三枚。払えるか? 坊主」


「はい。どうぞ」


 すかさず銀貨を三枚取り出す。


 男性に渡そうとした瞬間、隣からおばさんが銀貨三枚を奪い取った。


「それをヘンメにそのまま渡したら全部酒代になっちゃうわよ! これは私が預かるから、帰って来たら毎日うちにいらっしゃい」


「え~そりゃないよ…………はぁ借金もあるし、仕方ないな…………わーったよ。仕事しますか~」


 だらける男性がフラフラした足つきで家を出た。


 ほ、本当に大丈夫かな?


「ああ見えてもやる時はやる男だから心配しないで大丈夫。私が保証するわ!」


「あはは、ありがとうございます。せっかくの厚意ですから、信じてみます」


「あーははは! あんた、小さいのに見る目あるじゃない!」


 おばさんはまたもや豪快に笑いながら背中をバンバンと叩いてきた。


 全く痛くないし、寧ろ暖かさすら感じる。


 カレルラ町が田舎だというのだから、もしかして田舎ならではなのかもね。前世でも田舎のおばあちゃんたちは優しいとかよく聞いてたから。


「王都に行ってくるから弁当作ってくれよ~」


「あ、弁当なら僕が持っているので出しますよ~?」


「そうかい~ありがてぇ! さあ、聖都に行こうか!」


「はい! よろしくお願いします!」


 ヘンメさんの荷馬車に乗り込むと同時に走り出して、カレルラ町を出発して旅路についた。




 ◆カレルラ町の町長◆


「それにしてもあんな化け物が山に帰ってくれて助かったわい……」


「ですね…………もし町に入ってきたら全滅でしたよ…………」


「それにしても一体何と戦ったんだ?」


「一帯が焼け野原になっていたんです。もしかしたら伝説に伝うファイアドラゴンに食べられたんじゃないですかね…………一応、魔王の森の隣ですし」


「はぁ……魔王の森は遥か昔の勇者様が封印しているから魔王達は出てこないはずなのにな…………それにしてもファイアドラゴンか……町が襲われなくて本当に良かった」


「ですね。ファイアドラゴンも――――――グレートホーンもいなくなってくれて本当に良かった」


 二人は胸を撫でおろした。

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