第18話 初めての腕試し

 白い不思議な粒子が空を飛び回っている。


 地上では見た事もない動物――――いや、魔物が沢山見える。


 空気の雰囲気も森とはまるで違くて、村の中は澄んだ空気だけど、森の中はどろどろっとした苦い感じがする空気だった。


 外は驚く程、自由の味がする気がした。


「ユウマ。ここから道は分かるよね?」


 いつまでも堪能していたら、マリ姉ちゃんが声を掛けてきた。


「う、うん! 近くのカレルラ町に行って、長距離馬車に乗って聖都イクリッドに向かう。だよね?」


「ええ。真っすぐ向かう馬車があるから、料金はその額で足りると思うけど、中には田舎者を騙す人もいるからちゃんと顔を見て契約を結ぶんだよ? 途中で降ろされても困るからね」


「分かった! マリ姉ちゃん! ありが――――」


 次の瞬間、僕の体を包む暖かさが伝わってくる。


 ふんわりとマリ姉ちゃんの優しい香りがした。


「外はね。村と比べ物にならないくらい悪意に満ちているの。だから、自分の意志をしっかり持って自分がやりたい事を忘れないでね? でも疲れた時はちゃんと休んで、仲間も作ってみたり、たまにはふざけて遊んでみたり…………たまには村にも帰って来てね?」


「うん。ありがとうーマリ姉」


「ふふっ。マリ姉ってなんだか良い響きだわ」


 満面の笑顔の裏に寂しさを隠す。


 別れってこんなにも辛い事なんて久しぶりに感じた。


 家族も村人達もマリ姉とも離れるという不安な気持ちが溢れて、今すぐ戻ると言ったらみんな喜んでくれるのも分かる。


 でも、僕には目的があって、それに向かっていくと決心した。


 だから泣かずに、しっかり目を見て笑って行こう。


「マリ姉。色んな事を教えてくれてありがとうね。では――――行ってきます!」


「ええ。いってらっしゃい」


 笑顔のまま振り向いて走り出す。


 やっぱり我慢するのって……難しいね……。




 平原を走り抜けながらマリ姉の気配が遠くなってようやく頬に流れていたものを拭う。


 さて、視線を前に向けると今までの景色とは違い、どこまでも続いている地平線だ。


 遥か遠くに高い建物が少し見える。


 最初に目指す場所、カレルラ町だ。


 辺境の町らしいんだけど、そこから真っすぐ聖都まで続いているそうだ。


 というのも、うちの村があるのは聖国の領地にあるそうで、その中でも最も西側に位置する。


 村は田舎過ぎて誰も分からない村らしくて、聖国最西端といえばカレルラ町だそうだ。


 通り抜けながら一頭の牛みたいな魔物が見えた。


 大きさは前世の牛と同じくらい。ただ、角が鋭く大きな鹿の角みたいなのが付いている。


 それと僕を見つけると、敵意を向けてくる。


 牛ってもっと優しいイメージがあったんだけどな……ひとまず、敵意を持たれるって事は、こちらもそれなりの対応をしないとね。


 〖上級鑑定〗を発動させる。



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 個体名:グレートホーン

 種 族:Bランク魔物

 弱 点:火


 体 力HP:B-


 筋力:A  耐久:B+

 速度:C- 耐性:B+


 レジェンドスキル:

〖大地の憤怒〗


 スキル:

〖身体能力上昇・上級〗〖土属性耐性・上級〗

〖怯み耐性〗

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 おお! 種族が魔王種じゃない魔物は初めてみた。


 それに表記がとちらかというと種族ではなくてランクと表記されている。


 スキルもこれだけ数が少ない魔物は初めてみた。中でも身体能力は上級しか上昇しない。


 さらに村の魔物と違って体力などのステータスの一部が表記されている。


 持っているスキルとステータス総数値から判断するに、村の魔物と比べたら僕でも倒せるかも知れないね。


 スキルの中に格納・・していた剣を取り出す。


 両親が誕生日プレゼントで贈ってくれた『炎剣・フランベルジュ』という名の剣だ。


 相手の弱点が火なのを鑑みれば、相性も抜群だ。無益な殺傷と思われるかも知れないけど、異世界ではそういう倫理観はあまりないみたいだ。


 僕の最初の腕試しだ!


 こちらの敵意を感じたようで、鹿角牛がこちらに飛んでくる。速度はというと、思っていたよりは遅い。速度C-と予想した通りだ。


 今の僕の速度は現在B-となっているので、軽々と避けられる。


 鹿角牛が通り抜けざまにフランベルジュで斬りつける。


 感触は村周辺の魔物よりも――――硬い。思っていたよりも硬くてびっくりした。


 正直な感想を言うならば、フランベルジュなら一撃で仕留められるんじゃないかと予想していたのに、まさか一撃どころか攻撃が通用しなくて驚いた。


 走り抜けて、そのままぐるっと周り方向を変えた鹿角牛がまたもや僕に向かってくる。


「炎の神よ。我が声に答えて力を顕現させたまえ。ファイアボール火魔法・中級!」


 高速詠唱によって普段の喋るよりも三倍は早く詠唱ができるので、一瞬で詠唱を完成させて左手から直径五十センチくらいの大きな火の玉を放つ。


 村の魔物は賢くて魔法を避けたりしていたが、鹿角牛は真っすぐ火の玉に頭突きする。


 少し痛々しい声をあげる鹿角牛の全身に無数の火傷が刻まれた。


 どうやら火の玉で倒せそうで良かった。




 ――――と思っていたその時、




 鹿角牛の全身に深紅色のオーラが立ち上り、今までの速度とは比べ物にならない速さで僕に飛んできた。


 走るというよりは飛んだに近く、マリ姉からの忠告で魔物は死ぬ間際が一番怖いから絶対に油断しないことを徹底されたおかげで、鹿角牛の一瞬の飛び込みに反応できた。


 ただ、反応できても避ける事まではいかず、もろに受けてしまった。


 幸いにも急いでフランベルジュを盾にした事で、大きな怪我には繋がらなかった。


 ただし、鹿角牛が止まる気配がなければ、負わせた火傷も跡かたなく回復している。


 それはちょっとズルくない!? そもそも不思議な赤いオーラは未だ纏っているし!?


 急いで詠唱破棄しながら火属性魔法を撃ってみるが、全く効かずに消える。


 これって……森の魔物と同じ状況で、マリ姉曰く、効いていないという。つまり、鹿角牛には魔法が効いてそうに見えたのが、実は全く効かないのが分かる。


 しかし、この素早さ。森で今まで倒して来た魔王種よりもずっと強い!?


 前世の知識からてっきり魔王種というのは最強を示すものだと勘違いしていた。


 目の前に赤いオーラを放っているBランク魔物の方が森の魔物達よりも遥かに強く感じる。いや、実際遥かに強い。


 攻撃が効かないのもそうだけど、問題となるのは圧倒的な素早さ。


 僕の速度は現在B-にも関わらず、ギリギリで反応できるくらいの速度だ。数値からすると、恐らくはS付近だと思われる。


 となると、森の魔王種達よりもずっと速い事になる。


「――――〖炎帝〗発動!」


 できれば使いたくなかったけど、僕は外の魔物を甘く見過ぎていた。


 〖上級鑑定〗で見えたステータスは、恐らくフェイクだ。


 でもある意味Bランク魔物の強さを知る良い機会になったと思って、反省しながら倒して真っすぐ町に向かう事にしよう。


「――――炎帝奥義! 四双連舞!」


 三本の炎の剣と、炎を纏わせたフランベルジュで鹿角牛を斬りつけた。


 …………。


 …………。


「ええええ!? これでも倒せないの!?」


 鹿角牛はまだ生きていた。

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