第17話 村を出る

 十五歳の誕生日を迎える事なく、僕は生まれ育ったエンド村を後にする事を決心した。


「ユウマ……やっぱり行くのね」


 両親が見守ってくれる中、僕はこの三年間導き出した答えを伝える。


「母さん。父さん。何度も考えたけど、やっぱり僕は学園に――――『セイクリッド学園』を目指すよ」




 異世界『アルテナ』は巨大な大陸になっていて、いくつもの国々が存在しているという。


 まず、もっとも有名なのは大陸の中央に位置する『ユグドラシル』という大きな樹木を守るエルフ達の国『ユグランド』。


 そこを中心に東にあるのは、異種族で構成されている自由の国『フリーダム』。


 南にはドワーフ族が主体となって、主に亜人族のみが住居を許される商業の国『ジパング』。


 西には大陸中でも最も強い権力を持っているとされる聖国『エルサ』。


 北には最も広い領地を持つ帝国『グランド』が存在する。


 他にもグランド帝国内に『ミルロ王国』『ザシア王国』『リニア王国』『クラレス王国』が存在する。


 中でも北のグランド帝国と南のジパング国はものすごく仲が悪いみたい。帝国は人間主義であり、ジパング国は亜人主義だからぶつかり合うみたい。




 それぞれの国々が学園に力を入れる事で、学園での格式のようなものが生まれたそうだ。前世でいう大学のようなものだ。より良い大学は才能ある者しか入れないようなルールになっているらしいが、どこの学園も基本は実力主義だと母さんは話していた。


 そんな多くの学園の中でも群を抜いて格式が高いとされる世界最高峰の学園がエルサ聖国の『セイクリッド学園』である。


 というのも、女神様を信仰する聖国が力を注いでいる学園であり、最高峰の戦力である聖騎士達が教鞭を執るのもまた大きな魅力の一つのため、世界中から才能溢れる若者が集まる学園でもある。


 今の学園は分からないが、間違いなく世界トップである理由があるという。


 その理由は――――三年前に入学したはずの僕の兄さんである勇者が入学しているからだ。というのも兄さんを迎えに来た聖女様は聖国所属であり、彼女と一緒に行ったからには間違いなく兄さんが『セイクリッド学園』に入学して卒業しているはずだという。


 僕が目指すのは『セイクリッド学園』のみ。


 その理由は、やはり夢でもある兄の背中を追いたいからだ。


 今の僕では兄さんには勝てない。それくらいは知っている。だからこそ、兄さんが辿った道を歩んで、必ず追いつくために学園に入る事を決心した。


 そのためにこの三年間準備を進めてきた。


「ユウマ。君が決めた事に反対するつもりはないわ。だから思う存分自分の道を歩いて来なさい」


「はい! 母さん、父さん、今日まで育ててくれてありがとうございました! 必ず――――兄さんと決着を付けて帰ってきます!」


 そして、僕は家を後にした。


 道を通り、中央噴水で寂しそうなウンディー姉ちゃんに挨拶をして入口に向かって歩く。


 村の入口では村人達が少し寂しそうに手を振ってくれる。


「マル爺さん、サリ婆さん。農業もほどほどに無理しないでね! ルイおじさんとモウおばさんも喧嘩はほどほどにして仲良くしてね!」


 それぞれ村人達に挨拶を送って通り過ぎる。


 みんな目に涙を浮かべてくれて、僕も釣られたかのように最後は大きな涙を浮かべた。


 最後、マリ姉ちゃんと共に森の中に入っていった。




「ちゃんと荷物は持ったの?」


「もちろんだよ。みんなのおかげで――――新しいスキルが使えるようになったから、荷物の持ち運びが凄く便利だよ~」


「そっか。ユウマってたまにズルいって思えるくらい凄いスキルに目覚めるよね。でもその条件・・は私にはクリアできる気がしないから、ユウマにピッタリなのかもね」


「そうかな? マリ姉ちゃんも簡単にクリアできると思うけど……」


「ううん。未だに村の人達に私の状況とか伝えていないからね」


 何年も同じ村で暮らしているけど、マリ姉ちゃんが王女様であるのを知っているのはマル爺さんとサリ婆さんと僕だけだ。


 マリ姉ちゃんも村人の一員として生きているけど、自ら距離を置いている気がする。


「マリ姉ちゃん。何か困ったら母さんと父さんに頼ってね」


「ええ。そうするわ。ユウマも困ったらいつでも村に戻って来てくれていいからね?」


「そうだね。まずは学園に入るために頑張ってみて、ダメだったら色々考えてみるよ」


「ふふっ。ユウマなら冒険者に登録しておくといいかもね。あ、でもユウマのステータスでは外では少し大変かも……」


「〖炎帝〗で三分しか戦えないからね……」


「逃げるって事も忘れずにね?」


「もちろん! 僕だって無理してケガしたくないから! 回復魔法で治せるけど!」


 クスッと笑うマリ姉ちゃん。


「魔力が低くて全然回復しないけどね」


「こ、これから強くなるんだから!」


 マリ姉ちゃんと寂しさを紛らわすように会話を続けていると、森の外が見えて来た。


 今までどこを向いても森か山しかなかった僕の視界に、眩しい光が見え始めた。


 寂しさがないと聞かれたら、大ありだと答えるくらいには実家から、村から離れるのが寂しい。


 でも心のどこかで異世界で新しい世界を冒険したいという心躍る気持ちも芽生えている。


 転生してここまで十五年。


 田舎の村で育った僕はすっかり異世界の一員として育ち、初めて見る外に憧れを抱くには十分すぎる時間だった。


 前世での色んなしがらみも自然に囲まれた十五年という年月ですっかりそぎ落とされて、ワクワクした期待感が心の多くを占めている。


 木々の奥から見える光に誘われるかのように、僕は森を飛び出た。





「す、凄い! こ、これが……外の世界!」


 目の前に広がるのはどこまでも続いているかのような平原と、遠くに見える山々や初めて見る魔物、不思議な建物、不思議な景色。


 どれも初めてみる光景に僕の心臓は鼓動を高めた。

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