第12話 過保護
「え、えっと…………セリア? このご飯は……?」
「貴方はおだまり!」
母さんの一喝が響いて、父さんがしゅんと肩を落とす。
というのも、今日一日中僕を追いかけた母さんは、殆ど料理を作る時間がなくて、テーブルに並んだ品はいつもよりも貧相なモノだった。
やはりというべきか、当然だよね。
「父さん……ごめん…………」
「い、いや、ユウマが謝る必要はないさ。たまにはいいんじゃないか? たまには」
たまにはね…………でも母さんの雰囲気から、これ毎日だよ?
となると、僕は毎日家の中にいなくちゃいけないのか。
それはちょっと窮屈だな…………それよりも、早く色んなスキルを試してみたいんだけどな~特に『限界突破・下級』で引きあがったレベルを10から20に上げたいんだよね。
このままでは……レベルが上げられない……でも母さんから逃げる術はないし、勝手に村から出たら火魔法で森を全部焼き払われるかも知れない。
母さんがボソッと「森を焼き払ったらユウマが安全になるんじゃ……?」と言って父さんが引いていた。
それに母さんなら本当にやりかねないからね。それをされるとレベルを上げられないからな……困った。
いつもよりもずっと貧相な食事を食べて眠りについた。
あれから数日が経過した。
やはり予想通り母さんは片時も僕から離れない。
というのも母さんが持つ〖上級鑑定〗で才能なしとスキルなしと見られているので、どうも信用できないそうだ。
今まではちゃんと言う事を聞く良い子供だったはずなのに、才能がないだけでこういう扱いを受けるのは少しだけ寂しくも、母さんの深い愛情が伝わってくる。それだけ心配だからね。
それでも僕のやる事は変わらず、日課をこなしつつ、お昼飯や夕飯のために家に戻る時間も多くなってきた。
家ではリビングで正座により瞑想を続けた。瞑想で誰かと戦う練習を行う。
剣術、武術、魔法を駆使して戦い抜く。そして、相手は――――僕が知っている最強の兄さんだ。
兄さんとの想定バトルは何度やっても勝てずにいる。やはり兄さんは強いな…………。
ふと家の窓から外を覗く。
田んぼではおじいちゃんおばあちゃんが一所懸命に農業を頑張ってくれている。
!? こ、これなら!
「母さん!」
「ユウマ? どうしたの?」
「一つお願いがあるんだけど~」
「ん?」
僕は外を指差す。
「田んぼにマル爺さんとサリ婆さんがいるでしょう?」
「そうね」
「僕、二人の仕事を手伝いたい!」
「え!?」
「才能もないし、スキルもない僕に村人達に出来る事は――――」
「ユウマ!? ユウマは何もしなくていいのよ!?」
思っていたよりもずっと酷く狼狽える母さん。そうか……これはただの過保護ではない。母さんは――――
「母さん。僕
「っ!?」
そっか……僕はずっと自分の事しか目に入らなかった。母さんと父さんの気持ちは全く考えなかった。
兄さんは僕の兄さんであると共に、母さん父さんの息子の一人だ。
もし僕も村から出てしまっては、両親の息子が二人とも出てしまうことになる。
でも…………このままではダメだ。
「母さん。兄さんが村を出たのは何も二人のせいじゃないんだ。きっと僕の何かが嫌だったんだ。だから僕は絶対に兄さんを追いかける。だからいずれ村を出る」
「だ、ダメよ!」
「止めても出る。これは絶対。でも母さんと父さんに納得してもらってから出ると約束するよ。でもこのままではそれが難しい。でも母さんは心配だという。なら、僕は村人達の仕事を手伝いと思う。田んぼのマル爺さんと果樹園のマリ姉ちゃんに相談したいんだ」
真っすぐ母さんの目を見つめる。
人に自分の意見を伝える時は目を見て話すのが一番だ。
僕の全ての気持ちをぶつけて、でも母さんを傷つけないようにする。
その方法として、この方法が一番良い方法だと思う。
「…………分かった。でも一つだけ約束して欲しい。送り迎えを必ずつけること」
「分かった。マル爺さんとマリ姉ちゃんに相談してみよう。もし二人が嫌だというなら僕が諦めるよ」
安堵したように息を吐いた母さんは厨房に戻り、美味しい昼食を作ってくれた。
昼食が終わり、予定通りマル爺さんとマリ姉ちゃんの所に向かって、事情を説明した。
マル爺さんもサリ婆さん、マリ姉ちゃん全員が納得してくれて、送りは母さんが、迎えは任せる事で合意があった。
正直、今の母さんを見てて辛い。ひと時も休みなくずっと僕を見守っている。時には母さんにも休んで欲しいからね。
自慢じゃないが、精神年齢なら僕の方が
その日はマル爺さんとマリ姉ちゃんが訪れてくれて、仕事の本とともに、色々教えてくれた。
虫がいないからか、前世よりは楽そうに思えるが、やはり農業は大変みたいだ。
狩りから戻った父さんにこれから農業を手伝うと話したら喜んでくれた。
これで僕も母さんも父さんも少し距離をとって、落ち着けたらいいなと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます