2話 フラれた男子は約束した

 「久しぶりだね」


 開口一番、葵音は言った。


 「そ、そうだね 久しぶり」


 「、、、」


 「、、、」


 その後の数秒間の沈黙を破ったのは葵音だった。


 「お互い分かってることだと思うんだけど、正直今の関係かなり気まずいじゃん?」


 葵音は続ける。


 「だからさ、過去のことなんて忘れて友達に戻ろうよ!これが言いたかったこと」


 葵音は笑顔でそう言った。


 夕方5時の太陽の光が彼女の溢れんばかりの笑顔をより輝かしいものにしている。


 

 致死量の優しさを浴びた。



 何か言葉を紡ごうとするが、声が出ない。


 なんでこんなにも優しいのだろう。


 本来は俺がこういう場を設けて、こういうことを言わなければならないのだ。フラれた男として。



  ずるいよ


 

 心からそう思った


 友達に戻ることなんてできない。


 だって俺はまだ君のことが好きだから。


 容姿だけじゃない。その優しさが一番好きだ。

 

 しかし口からは真逆のことが発せられる。


 「そうだね そうしよう」


 葵音が俺に与えてくれた優しさを、俺の感情ひとつで否定するのはよくないと思った。


  すると葵音は


 「じゃあ、明日から楽しく過ごそうねー!」


 葵音がこのやりとりをあっさり終わったのは、きっと葵音の気遣いだろう。


 

 そう言って葵音は俺に背を向けて帰っていった。


 段々遠くなっていく葵音の背中は今にも消えてしまいそうな儚さを感じさせた。


 

 それ以降葵音とは友人関係だ。


 席は隣だから、授業中の話し合いの時間に会話するのだが、葵音は本当に何事もなかったかのように明るく接してくれる。


 

 

 「絃羽ー!トイレ行こうぜ!」


 休み時間に毎度のごとく連れションに誘ってくるこの男は、白波大輝しらなみたいき


 彼は不思議な人だ。


 変人とかいうわけではなく、なぜか陰キャの俺にずっと話しかけてくる陽キャだ。 


 だから俺は彼にまだ心を開けていない。


 しかし俺はここで衝撃的な事実を知る。


 「そーいえばさ、お前が初めて学校に来た日の放課後、お前石川さんと裏門であってたよな?」


 「ぅえ?」


 驚きのあまり狼狽した。


 「やっぱりそうか お前隠すの下手すぎ」


 「俺あの時見てたんだわ なんなら会話も全部聞いてたぜー 何言ってっか全然わかんなかったけどな」


 ここで、彼がなぜ俺に頻繁に喋りかけてくるのかが予想できた。


 葵音だ。


 裏門での出来事を見たことで俺と葵音が仲良いということを知って、俺と仲良くなったら、葵音とも仲良くなれるだろう、というところだろう。


 彼に聞いてみる。


 「もしかして、葵音と仲良くなりたい感じ?じゃあ、連絡先とかもあるし、、」


 すると、俺が予想したこととは全く違う返事が返ってきた。


 「違う そういうことじゃない」


 

 「お前は石川さんの事が好きなんだろ?」


 

 俺は動揺した。身体が熱を帯びてくる。


 「はっはっは!やっぱお前わかりやすいな!」


 「絃羽、ここでひとつ俺と約束だ」


 

 

 「石川さんに今年中に告れ」

 


 



 


 

 

 

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