春
快晴。
空の澄んだ青と柔らかに照らす日差しに目を細める。
まだ冷たい風が吹き抜けて、春を待つ木々を揺らした。
駅前の喫茶店の店主が店のシャッターを上げているのが見え、俺は珈琲を飲もうと思った。
赤い革張りのソファに腰を下ろし、珈琲を注文する。
喫茶店が大好きだ。
それも、全体にセピア色の絵の具を薄く塗りひろげたような。
曖昧で、どこかぼやけたような。
ゆったりとした時間が流れる店内でゆっくりと煙を飲み込む。
吐き出した息が煙と一緒に宙を舞う。
こんなふうにのんびり、ゆらりと消えられたらいいのに。
雨が降った。三日間も降った。
桜が咲いた。春が来た。
静かな川沿いの桜に吹き抜けたのは、ため息によく似た風だったように思う。
悲しいことに喪失感というのはあっけなく埋まってしまうもので、
ぼかっと開いた穴は絵の具や筆、ポジティブな感情が
すぐに跡形もなく消してしまった。
と、強がってみせた。
頑張る理由は人それぞれだ。
女、金、趣味や夢。なんだっていいと思うけれど、
頑張らないといけない、理由もなくそう意気込むのは
寿命を縮めるだけで。
ーーーだから俺はある事柄について頑張ることをやめた。続けることができなかった。これで良い。
(「ある事柄」の内容については伏せさせていただきたい。)
ただし俺は、幸せにならねばならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます