快晴。

空の澄んだ青と柔らかに照らす日差しに目を細める。

まだ冷たい風が吹き抜けて、春を待つ木々を揺らした。


駅前の喫茶店の店主が店のシャッターを上げているのが見え、俺は珈琲を飲もうと思った。

赤い革張りのソファに腰を下ろし、珈琲を注文する。


喫茶店が大好きだ。

それも、全体にセピア色の絵の具を薄く塗りひろげたような。

曖昧で、どこかぼやけたような。


ゆったりとした時間が流れる店内でゆっくりと煙を飲み込む。

吐き出した息が煙と一緒に宙を舞う。

こんなふうにのんびり、ゆらりと消えられたらいいのに。



雨が降った。三日間も降った。


桜が咲いた。春が来た。


静かな川沿いの桜に吹き抜けたのは、ため息によく似た風だったように思う。

悲しいことに喪失感というのはあっけなく埋まってしまうもので、

ぼかっと開いた穴は絵の具や筆、ポジティブな感情が

すぐに跡形もなく消してしまった。

と、強がってみせた。


頑張る理由は人それぞれだ。

女、金、趣味や夢。なんだっていいと思うけれど、

頑張らないといけない、理由もなくそう意気込むのは

寿命を縮めるだけで。


ーーーだから俺はある事柄について頑張ることをやめた。続けることができなかった。これで良い。

(「ある事柄」の内容については伏せさせていただきたい。)


ただし俺は、幸せにならねばならない。

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