episode 3 「その方が怖い」

すごく優しい先生はこの世に何人いることか。何やっても怒らない先生。宿題を出さなくても怒らない先生。数少ないと思うが、その優しい先生の中にも突如として顔色が変わる先生もいるかもしれない。俺は見てしまったんだ。それは夏休み終わりの事だった。

 夏休みの美術の宿題がハンコ制作で、その作ったハンコを最初の授業で見せることになっていた。俺は忘れ物が多く、俺の友達にも忘れ物を多くするやつがいた。忘れないだろうと思って夏休みを過ごした。一応ハンコも終わらせて、夏休み明けの学校に登校した。

「そういえばさ。美術の宿題、ハンコ制作だったよな。」

「あ、そんなもんあったな。」

「あ!やべ、ミスった!家に忘れてきた。」

「次、美術だけど大丈夫そう?」

 大丈夫そうではなかったが、美術の先生も優しいし、もう一人も忘れたらしいので何も言わずに美術に出席した。一応授業前に忘れたことを友達と二人で言いに行った。

「あのぉ、美術の宿題になってたハンコを家に忘れてきたんですけど〜」

 反省している風に言ってみた。すると、

「え!マジか。まぁ次忘れるなよ。さぁ席について!」

「はい!」

 にこやかに対応してくれた。前の先生は忘れ物すると、キレる先生だった。それが普通なのかもしれない。次の授業までに持ってこようと思っていた。しかし、最悪の事態が起きた。また家に忘れてきたのだ。

「あ!やべ、ミスった!また忘れてきたんだけど。」

 俺の友達もまた忘れていた。先生に言いに行くのを忘れていて、授業が始まる前にすぐに言いに行った。前の調子で言った。

「あのぉ、美術の宿題のハンコをまた家に〜」

「座れぇ!!」

最後まで言う間を与えずに、先生は超超大声で怒鳴った。後ろのなんの関係ない生徒は、ものすごくビビった。先生は、俺らに正座をさせた。そして、小さい声でこう呟いた。

「体罰になるんだよな〜」

 そう言った後、俺の膝の上に俺の方を向いて座った。

 その後いつもの調子で説教し始めた。

 教室の空気は一気に重くなったが、普通に話し始め、授業は何事もなく終わった。あんな裏があると誰も思ってなかったので、驚いていた。

 あれから、その裏の顔を出すことはなかった。その方が怖い。

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