第2話 き裂
翌朝、私はパパの怒鳴り声で目を覚ました。六時ぐらいだっただろうか、雷のような音に跳ね起きた私は、やがてそれがパパの怒鳴り声だと気がついた。珍しく夫婦喧嘩でもしているのだろうかと思って廊下に出てみると、階段の下にパパの姿が見えた。左手に受話器を持っていた。電話の相手に怒っているようだった。
「とにかく……今後、真にやむを得ない場合を除き、連絡してこないように」
苛立った口調でそう言うと、パパは電話を切った。見てはいけないものを見てしまったような気がしたから、私はさっと自分の部屋に戻った。
朝食を食べるために一階に降りると、パパはいつも通り朝食を食べていた。
「やあ、おはよう」パパの声も表情も、いつも通りだった。サラダを行儀良く食べる様子も、いつもの朝と変わらない。さっきの怒鳴り声が嘘みたいだった。
「ねえ、ママ。さっきパパが怒鳴ってたでしょう。何があったの?」
パパが仕事に行った後、ちょっと遅れて仕事に行こうとしているママにそう聞いてみた。
「うーん、
ママはにっこり笑って答えた。答えになってない。
「誰からだったの?」
「うーん……あ、もうこんな時間!」
そう言ってママはいそいそと玄関に向かった。何だかはぐらかされた気がする。
昨日のステーキといい、すごく気になる。だけど私も学校に行かなきゃいけない時間だ。だから出発しようと気持ちを切り替えたところで、廊下の電話が鳴った。
パパかママが忘れ物をしたのかな。それとも……さっきの電話の人かな。心がざわつくのを感じながら、私は受話器を取った。
「伸ちゃん、お願いだからもう一度考え直してちょうだい! 親が死んだっていったら、普通はすぐに顔を見せるものよ!」
思わず受話器を耳から離すほどのキンキンする声で、相手は一方的に喋ってきた。
「あの、父なら既に会社に行ってますが……」
あらそうなのと言って、相手はちょっとトーンダウンした。
「何があったんですか?」
既におおよその話が予想できていたけれど、私はたずねてみた。
「あなた、伸ちゃんの娘さん? あの子、自分の親が死んだっていうのに知らんぷりなのよ。あなたからも今すぐ言ってくださらない? 非常識の親不孝者ですよって」
こちらが返事をしようとしたところで電話が切れた。
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