ホーリー・ファミリー

べてぃ

第1話 幸せな晩餐

 ごく普通の、ささやかだけれど幸せな私の家庭は、今日を以て壊れてしまった。


 いつも通り高校から帰ると、良い香りがリビングに漂っていた。珍しいことに、パパは私より先に帰っていて、ママと一緒に料理を運んでいた。

もっと珍しいことに、その日の夕食は分厚いステーキだった。なかなかの値段だったんだろうと分かるぐらいに良い香りが、部屋中に漂っていた。


「今日、何の日だっけ? 誕生日じゃないし、結婚記念日……はまだ先だよね」

 あなたは気にしなくていいのよ、とママがにっこり笑って言った。「いいかい真海まみ、ビフテキぐらい、ビフテキぐらいな、理由がなくたって食べたい時に食べればいいじゃないか。人生それぐらい適当じゃなきゃあ」とパパが言った。ふうん、とだけ答えて、不思議に思いつつも私は席に着いた。ビフテキって言い方が古臭いし、こうなった事情もよく分からないけれど、おいしい物を食べられるのは嬉しいからいいや。家族団らんというのは、こういう温かい一時のことを言うのだろう。


 そして、その夢のような一時が、我が家が普通だった頃の最後の思い出になった。今も私は、その妙に豪華な夕食を食べた幸せな一時を、頭の中ではっきりと再現することができる。

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