慈悲と慈愛の一射


レティは


あっさりと体の主導権をボクに譲った。


少しは思ったんだ

ひょっとして、レティって女は

身体を取り戻したいんじゃないか?と


それが全くの拍子抜けだ

ボクはあの後レティから、再三

好きだ何だと熱烈なアプローチを受け

長々と褒め称えられた挙句


まるで、机の上のトランプを

片手でひっくり返す様な気軽さで

コロッと身体の主導権を渡してくれた。


少しは執着してくるモノと

ボクは思っていたのだけれど

全く、そうはならなかったのだ。


『なに、私は既に死者だからな

その身体は当然、お前のものだよ』


サッパリしてると言うか

割り切り方が豪快と言うか

やっぱり、変な奴だ。


「——お嬢様」


屋敷の外に出たあたりで

部隊の者から声をかけられた。


「首尾は上々か?」


「当初予定していた捕獲数からは

だいぶ下回っておりますが


現在、生き残った者の治療を行ってます

最低限、話を聞く為に必要な人数は

確保できた物と考えられます」


報告を述べるのはダズ=ポートである

彼はボクとバディを組んで動いている

主に、情報伝達や後方支援を任せている。


`父上に対してボクが言った

屋敷の者は皆殺しにした`


という説明は大嘘である

正確には事実の中に嘘がある。


屋敷の中の人間はもとより

誰一人として殺す予定は無かった。


全員を捕虜として捕らえて

後から話を聞く予定だったのだ。


しかし、報告によれば彼らは

ボクらの侵入に気付いた途端


揃いも揃って

自決を選んだのだという。


その結果、犠牲が出てしまった

間に合わずに死なせてしまったのだ。


だが、そう簡単に目論見を

くじかれるボクの部隊では無い。


彼らは咄嗟の反応勝負、あるいは

初動を読み切って自決を防いだり


傷の浅い者を治療して

一命を取り留めさせたりと


各々の的確な判断にて

実に見事に働いてくれた。


そのおかげでボクらは

捕虜を残すことに成功した。


別働隊である彼らは既に

捕虜達を連れて離脱しており


森の奥の方にテントを立てて

応急処置などを行っていると言う


あの男もやってくれるものだ

よもや自決の命令を事前に

言い渡していたとは。


だから、か


だからあの時ボクが

屋敷の人間を殺したと聞いても

全く動揺する様子が無かったのか。


ボクの発言が事実であれ嘘であれ

死なせるつもりだったのだから。


「この男の事を運んでくれ」


ボクは片手で掴んで

ズルズルと引き摺っていた父上を

乱雑に、顎で指してからそう言った。


「酷い状態ですね、持ちませんよこれ

……必要な情報は得られましたか?」


血みどろの状態の父上を受け取り

怪訝な表情を向けていた。


レティ、流石にやりすぎだよ

気絶してからも痛め付ける必要は

無かったんじゃないかい?


『顔を見てたら、妙にムカついてきてな

ついにしちまったのさ』


あのまま殺してしまうんじゃ

ないかと思ったよ、ボクは。


『片目残してやったのは慈悲さ』


ついでに膝を砕き、鼻をもぎ取ってかい?

改めてキミの恐ろしさを実感したよ


楽しむでもなく、怒るでもなく

朝食のパンを貪るみたいに、淡々と

ひたすら拷問し続けるんだからね


しかも相手は意識がないと来た

憂さ晴らしにしても、やりすぎだ。


正直、ボクは怖かったよ

キミが敵に回らなくて良かった

ホントに、心底そう思うよ。


『光栄だね』


「いいや、まだだよ


でも、放っておいても目覚め次第

ペラペラ情報を話してくれるだろうから


しっかりと記録しておくんだよ

そのくらいの猶予は残してあるからね」


「嘘を吐くかも知れませんね」


「安心したまえよ、吟味するさ」


それなら安心ですね、と

納得した表情をするダズ=ポート


いつの間にボクは

そんなに信用されたんだろうか

明らかに前より態度が緩和している。


『そいつは頭が固いが、賢い奴だ

自分なりに頭を働かせて結論を出す


案外、手の掛からない男なんだよ

私が部下にする理由が分かるだろう?』


自慢げにそう言う彼女は

まるで飼い犬がどれだけ賢いかを

人に説明して聞かせているみたいで

妙な可笑しさを含んでいた。


それからも

彼からいくつかの報告を聞き

情報を整理する時間が続いた。


やがて


「……こちらの損害はゼロです

目標は全て確保致しました


これにて、作戦終——」


「待った」


そう告げる彼の言葉を

ボクは片手を上げて制した。


背後には人の居ない屋敷

シーンとうるさくて仕方がない


香ってくるのは血の匂いで

作戦は多少の誤差に見舞われつつも

概ね成功したと言える出来栄えであり


達成すべき目標は、もう無い

あとはただ帰還を果たすのみ


そのはずだった


だが。


「何か嫌な感じがする」


屋敷の中に居た人々は

ボクらの侵入を察知してすぐ

自殺を図ったのだと言うが。


それはあらかじめ

示し合わせていたという事であり

襲撃される事自体は予想していた

と、いう事でもある。


ならば


何故、生き残りが居る?

覚悟が足らない人物だったのか?


運良く自害を防げた

本当にそれだけだろうか?


ジェイド部隊の人間が優秀で

驚異的な瞬発力を発揮したのか?


いや、違う。


背中に冷水を入れられた様な

足の爪先から頭のてっぺんにかけて

ゾワゾワとおぞましい物が這い回る感触


底から徐々に

表出してくるひとつの可能性——!


『おい、まさか、まさかアイツら!』


ボクはッ!


その可能性が

頭の中に思い浮かんだ瞬間

がむしゃらに走り出していた!


体勢を崩し

転びそうになりながらも

土を巻き上げながら走って


充血していく眼球

全身の血液が温度を上げ

心が根元から凍っていき


ボクは何も聞こえなくなって

何も、見ることが出来なくて


分かったのはただ

ボクが屋敷の付近を離れて

草原を駆けずり回って越えて


待ち合わせる予定だった森の

仮設営されたテントに飛び込んで


こう怒鳴り込んだ事だけだった。


「今すぐ捕虜を全員殺せ——ッ!」


そして


ボクが目撃したものは


「お……お嬢……様……?」


血を吐き、苦しみ、へたりこみ

地に伏せている仲間達の姿だった。


「き、キミたち……それ……」


嫌な動悸がする

見たものを理解してしまう

何が起きているのかを瞬時に


だからこそボクは

それを受け入れられなくて

認めたくないから、踏み出して


手を触れれば、まるで

蜃気楼の様に消えるかもしれない

そんな淡い望みを胸に、前に進み——


『——ジェイド、諦めろもう遅い!

今すぐにテントから出るんだ……!


それ以上踏み込んじゃならない

お前までさせられるぞッ!』


あいつらはんだ


あの男は初めから

守る事など考えていなかったんた


自分よりも能力が高い娘を信じ

必ず復讐に来る事を分かっていた


初めから、初めから目的は知れている

情報だ、それを求める事は分かっている


だから


だからあの男はボクに

あえて捕虜を取らせたんだ


捕らえた捕虜たちは

敵を内側から食い破る毒の爆弾となり

己の身と引き換えに、痛手を与える。


……ふざけるな、なんだそれは

まだだ、まだやれる事はある!


「症状は!?ボクに教えてくれ

そこから考察し、必ず解決する


どこが痛い、どこが苦しむ!?

安心しろ、今ボクがそっちに——」


「——ダメです、お嬢様ッ!」


ボクの言葉を遮って叫んだのは

とても、見覚えのある人物だった。


その人物は震える足で

壁を支えにして立っていて


虚ろな瞳をボクに向け

傷付いた喉を酷使して


血みどろの声を出しながら

苦痛を押し殺して、こう言った。


「それは、間違っておいでです

改善してください、あの夜の様に


考えて……割り切って下さい

お嬢様は、来てはなりません


質問など……されずともッ!

ジェイド様の間違いを、指摘します!


故に——


……!」


『ジェイド!後ろに下がれッ!』


——直後


光に包まれるボクの視界

そして、咄嗟に働く生存本能が


自分の体を後方に跳ね上げて

`ソレ`が起きる前に距離を取らせた


被害に合わないように

範囲外へと逃げるために。


その発光は

生まれたエネルギーの量を表しており

すなわち、熱と衝撃を巻き起こすモノ


カッ!と光がほとばしり

全身を殴り付けられる様な痛み

一時的に機能を損なう耳


——見たのは爆発、爆炎


黒い煙を天高く上げながら

テントを焼いていく死の炎


熱気が肌に伝わり汗を蒸発させる

息苦しいが、そんな事は関係ない。


「——」


その光景をボクは

呆然と眺めていた。


『おい、ジェイド』


その声が

ボクを覚醒させてくれた。


「……ねえレティ」


『どうしたよ』


しまった

つい声に出してしまった

けれど、もう、いいか別に


見られて困る相手も

もう居なくなってしまった。


「ごめんね」


『……なあ、代わってやろうか?』


何を言うんだい

辛いのはキミの方だろう


付き合いが長いのはキミの方だ

伝わってきているぞ、悲しみが


苦しみが、ボクには分かる

そんな気遣いは、しなくていい


「いいよ、必要ないさ」


『そうか……』


もくもくと


立ち上る真っ黒い煙は

ボクの仲間を焼いて出来たもの


命だったものを、まるで

ゴミのように焼いていく炎は


恐らく、あの男が残した置き土産を

完膚なきまでに死滅させる事だろう。


彼は、グルーニアスは

最後の最後までボクを守った。


と、その時

ボクの背中に何かが当たった

石?のようなものが、背中に当たる。


恐らくダズ=ポートだろうが

その行動の真意は掴めなかった。


「——!——ッ!」


振り向くと、なんとこの目には

彼が口を動かしているのが写り

しかし、聞こえてくるはずの音が無かった。


耳をやられたらしい

ボクは音が聞こえなくなった。


しかし、唇の動きで

言葉を読める奴がここに居た。


『……どうやら、包囲されたらしい

相当な規模の軍勢が集まって来たと』


ああそうか

この煙を目印にしたか


一気に叩き潰すつもりだな

ボクはまんまとあの男の策に

ハマってしまった、という訳だ。


「ダズ」


燃えているテントを見て

絶望の表情を浮かべる彼は

片手に父上を抱えている。


彼はヤケに離れた所に居る。


「……はい」


「ここで待っていてくれないかな」


ボクの言葉を聞いた彼は

みるみるうちに表情を青く染めていき

震える声で、恐る恐る言った。


「お嬢様、まさか——」


ボクは


冷淡に、無機質に

ただ単調に言い放った。



「奴らを根絶やしにして来るよ」


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


——灰色の雨が降っていた。


「ぐああああっ!!」


断末魔の叫びは

幾重にも折り重なって繰り返され

ひとり、またひとりと、死んでいく。


疾走


固い鎧の上から

無理やりナイフを貫通させて

人体に致命的な損傷を与える。


絶命した男の身体を持ち上げて

抱え込み、敵の集団に投げる。


弓矢が飛んできた

ボクはそれを肩に喰らうが


刺さると同時に引き抜き

槍投げのように、矢を放った。


ビュンッ……という

異様な風を切る音を立てて


矢は


放った者の所へ戻っていき

その者の生涯を終わらせた。


剣が振り下ろされる

ボクはそれよりも早く

内側に入り込んで、男を掴み、投げる


床に引き倒される男

鎧を纏っているので重いはずだが

このボクには全くなんの関係もない。


「クソがッ!」


地面に引き倒された男は

腰元から刃物を抜いて


真上に突き出してくるが

その刃が獲物に到達するより早く

ボクが顔面をので


それはもう

どこに届く事も無い

主を失った刃と成り果てた。


ボクはその刃物を

男の手から乱暴に奪い取り


千切れた手首ごと

鮮血を撒き散らす肉塊ごと

刃物を、敵に向かって投げた。


後ろから突撃してくる槍の一団

ボクは姿勢を低くし、踏み込みを掛けた。


加速は一瞬にして行われ

常人の反応速度では到底

対応不可能なスピードを出し。


扉の様に塞がれた盾の壁

隙間から突き出された槍の数々


ボクはそこに突撃し

雨と、泥を巻き上げながら

飛び出した槍の1本を掴んで


思い切り引っ張った

すると開かれる盾の扉


突っ込んでくる男の身体

腰からナイフを抜いて

通り過ぎざまに首を切り落とす


陣形が崩れたおかげで

巨大な穴が空いた防御は既に

もうその役割を果たしておらず


内部に


簡単に敵の侵入を許し

槍をへし折られ、折れた矛先を

耳からぶち込まれて1人が絶命し


もう1人は

長物を放り捨てて

剣を抜いて斬りかかってくるが


ボクの、泥の目潰しをくらい

無防備な隙を晒して怯んでしまい


体を持ち上げられて頭から

ぬかるんだ地面に叩きつけられ

首をおかしな方向に曲げて死んだ。


「な、なんだ……なんだコイツ!

おい!弓、弓を撃て!1人なんだぞ!?」


「ダメですッ!入り込まれ過ぎです

これでは、味方に当たってしまいます!」


「ならば弓兵は離脱しろ!

道を開けろ兵士ども!!


狙い道を作るのだ!焦るな!

やり方を間違わなければ必ず——


ぬぉっ!?」


司令官の首を取りに行ったが

奴は奇襲をすんでのところで防いだ

勘がいいな、コイツは後回しだ


「し、司令官!」


司令塔を狙われた事で動揺が走る

彼らは視線を一瞬、釘付けにされ

後方から迫る影に気付けなかった。


「ぎゃああああっ!」


四肢をバラバラに散らして

後ろで一人の兵士が殺された


途端、振り返る兵士たち

そこに居たのは、男だった。


「お嬢様——ッ!」


ダズ=ポートは助けに来た

ボクを助けに来てくれた。


そして隙を

好機を与えてくれた


元々ボクひとり相手に

大勢の犠牲を出していた軍勢は

既にかなりの混乱を極めており


それでも辛うじて

ギリギリの所で保っていた


それが、今崩れた

登場の仕方がショッキングだった

という要因も相まって


敵の兵士たちは

陣形を崩してその男に

大勢で特攻を仕掛けに行った。


「なっ……も、戻れ!貴様ら!

優先順位を間違えるな!倒すべきは——」


今度は


「ッ!?し、しまっ——」


流れ、尾を引く眼光の煌めき

それは殺意を覗かせた軌跡を残し


そして


後にはただ、真っ赤な

血の道だけが残された。


「司令官様——ッ!!」


ダズ=ポートは

その動揺の隙を見逃さなかった


兵士と兵士の狭い隙間に入り込み

そして、一瞬だけ止まって通り抜けた。


「っ!お、おい、ばくだ——」


弾ける閃光の爆炎

それは数十人いた兵士を巻き込み

この雨でも消えぬ炎を生み出した。


内側と外側から

一気に焼き尽くされた彼らは

辛うじて繋ぎ止めた命にしがみつき


黒焦げの身体を抱いて

迫ってくる死に脅えて倒れるのみ。


前後から挟むように

決して逃げ場がないように


1人ずつ狩っていき

そして追い詰めていく。


「う、うあああああっ!!」


勇敢にも突貫してきた兵士は

当て身を食らって怯んだところを

首を、素手で引きちぎられて終わった。


弓矢が飛んでくるが

そんなものは当たらない


石が飛んでくる

たくさんの石が飛んでくる


まるで寒い洞窟の中で

暖を取るため寄り集まる遭難者の様に

敵の軍勢は追い詰められている。


切っては殴り

殴っては投げて踏み殺し

躱しては抉り込んで


半狂乱になって

雄叫びを上げながら

その目から涙を流し


吹かれる雨に溶かしながら

生への執着を見せる女性兵士


攻防が何度か続いた

死に物狂いで迫ってくる彼女は

本来の実力以上のモノを発揮している。


それも、やがて


ほんの一瞬生まれた隙を突かれて

ボクに、ナイフを喉に叩き込まれて

動脈と脊髄を損傷して、崩れ落ちた。


欠けたナイフを放り捨てて

その女性兵士の武器を奪い取り


そして敵が叫ぶ


「……我らは、我らは屈さない!!

不撓不屈の、軍団なのだ——ッ!」


身にまとった鎧ごと

胴体を真っ二つに割られて


敵の最後のひとりが今

ボクの手によって旅立った。


もう、生き残っている者は

誰一人として、存在しない……。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


ザァー


耳が痛い


きっと、さっきの爆発の影響だ

いや、それだけじゃあないかな。


手に持った剣は

ボクの加えた力に耐えきれずに

グネグネに曲がってしまっている。


よく見ると


僅かに刀身が赤熱していて

湯気が立っているのが分かる。


少し、本気で振りすぎたか

無理をしすぎたので背中の傷が痛い。


血が流れるのを感じる

どうやら開いてしまったらしい

せっかく治り掛けていたのにも関わらず。


髪が濡れる

水滴が垂れる


ポタ、ポタと

あるいはパタパタと


俯いたボクの視線の先に

流れ落ちる雫の姿が映り込む


それは地面に墜落し

水溜まりに波紋を生んでは消えていく。


「……お嬢様、その……ままでは

風邪を、引いてしまわれます……」


切り傷まみれになったダズ=ポートが

ボクから妙に距離を取った場所で言った。


彼は嫌に息切れをしていて

負った傷は大した事がないのに

顔色が、あまりにも、悪かった。


「お……嬢様……ご命令を……ゴホッ!

や……破ってしまい、申し訳ありません……」


「そうか、キミも捕虜に接触したのか」


「……ええ、運ぶのが大変そうだったので

捕虜の運搬を、3名ほど……手伝いました」


ボクは


近くの兵士の死体から

弓と矢を拾い上げた。


「楽にしてあげよう」


「お気遣い……感謝、致します」


弓の弦は防水加工がされていて

本来の機能を損なわずにいる


矢羽根も同様だ

問題なく使えるだろう。


「お嬢様」


「うん」


震える膝を抑えつけるが

一向に収まる気配がないので


彼は自分の足を剣で貫き

両足を固定して見せた


そして


もはやなんの光も

捉えていないだろう目で


ボクのことをキョロキョロと探し

一向に合わせられない視線のまま


彼は言った。、


「貴方様は私の、希望で御座います

この度はご迷惑を、お掛けしました


同行させて頂きありがとうございます

大変、貴重な経験を、させて頂きました


自慢します、みんなに

僕、たくさん自慢してきます」


……間があってから


「お前は大切な部下だったよ

今までに尽くしてくれて


本当にありがとう、そして

……永遠にさようならだな」


ヒュン——


その一射は命を散らす

ただし、それは実の所


苦しみを終わらせる

慈悲の一射であったと言う。


すると、頬を

生暖かい雫が垂れていった

それは`私`の流した物では無かった。


『ごめん、ボク泣いちゃってたみたいだ

我慢、してたつもり、だったんだけどね』


……こいつは


「お前、少しそこで休んでいろ

しばらくは、私に任せてほしい」


『キミだって辛いだろうに』


「だって、お前が私の身体使ってたら

弱音、吐けないだろう?だから、な


聞いてやるから

言いたいこと言っちまえ


今は、泣く時だよ——」


ボクは、それで、もう

耐える事が、出来なく、なった……。

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