第11話 再会

 天蘭王国の南に位置する月明の都にある宿屋の部屋にセナ達はいた。月明かりが静かな部屋を照らす中、セナは喉の渇きから目を覚ます。


「んん……喉乾いたわ……」


 セナは白いベットの上から起き上がり部屋に置いてある自分が持っていた鞄の中から、水が入った水筒を取り出し口に含む。フィルラ村を出てから水筒に新しく水を追加して入れていなかった為、水筒の中に入っている水は残り僅かである。


「もうそろそろ水、なくなるわね。後で追加しなくちゃだわ」


 セナは静かな声で一人呟きながら、部屋の窓の近くにあるベランダに出て、星が点々と瞬く夜の空を見上げる。


「リーナはどうしているかしら……」


 城に残してきてしまったセナの大切な侍女の一人であるリーナ。城を出てからなるべく残してきてしまった者達のことを考えないようにしていたセナだったが、こうして夜空を見上げて、静かな夜の空気に当たっていると残してきてしまった者達のことを考えてしまって不安な気持ちが湧き上がってくる。


「姫さん?」


 ベランダに出て夜空を見上げているセナに気付いて目を覚まして起きてきたルソンはセナの背後に立ちセナに声を掛けてくる。


「ごめんなさい。起こしてしまったかしら」


 セナは申し訳なさそうな顔をして、後ろを振り返りルソンを見る。

 ルソンはそんなセナを見つめて、優しい笑みを浮かべながらセナの真横まで歩み寄る。


「いや、大丈夫だ」

「そう、それならいいのだけど」

「ああ、」 



 次の日の朝、セナ達は宿屋を出て月明の都で食糧や物資を調達して朝食を済ませてから、月明の都を後にした。

 そしてその日の夕方頃、セナ達は森へと入った。


「もうお腹ぺこぺこだよ〜」

 

 リクスの呟きにルソンは頷く。


「確かにな。少し早いですが夕食にしましょうか?」

「そうだな、じゃあ、俺、ちょっと火を起こせる薪探してくる」

「俺もシウと一緒に行ってきますね」


 シウとルソンはセナとリクスにそう伝えて、薪を探しにその場から立ち去って行く。

 セナとリクスはルソンとシウ。そんな二人の姿を見送ってから動き始める。

 

「ええ、いってらっしゃい。じゃあ、私とリクスで夕食の準備でもしちゃいましょうか」

「そうだね!」



 すっかり空が暗くなり、夜の静かな空気が漂い始めた頃、セナ達は夕食を食べながら他愛のない会話をしていた。


「リクスって、ほんとに料理上手よね!」

「そうかな?でも、皆んな美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐つくりがいがあるよ!」

「姫さまも、もう少し料理上手くなってくださいよ〜」

「リクスには劣るけど、料理はそこそこ上手い方だと思っているわ」


 セナもリクス程ではないが、料理はそこそこできる方だということをルソンは知っていた。 セナの真っ直ぐな瞳を見て、ルソンは少しセナのことを弄り始める。


「ほう、じゃあ、今度、料理対決でもやりますか?リクスと姫さんで」

「いいんじゃないか、面白そうだ!」


 ルソンの発言にシウは頷きながら賛成する。

 セナはそんなルソンとシウを見て、ほんの少したじろぐ。


「そ…それは遠慮しておくわ」

「なんでですか?そこそこ料理上手いなら、勝てる自信があると思うんですが」

「私にはまだ、リクスと料理対決は早いと思うの。もっと修行を積んでから対決したいわ」

「そうですかぁ、まあ、今よりももっと上手くなろうとするその姿勢が、姫さまの良いところですね」



 麗らかな昼過ぎ頃。天蘭王国の西に位置するディラル村近くの森にセナ達は入った。


「この森を抜けたら、桜花村(おうかむら)ね」

「そうだな!」

「ねえ、シウ。天命の盾の内の一人が桜花村にいる可能性が高いって言っていたけど、いない可能性もあるんだよね?」


 リクスの問いにルソンの隣を歩くシウは頷く。


「ああ、そうだな。いるか、いないかは正直わからない。まあ、もし居なかったとしても次の後補の場所を当たればいい」

「そっか、うん、そうだね!」


 セナ達が暫く森の中を歩いていると前方から白いマントを羽織り、フードを被った背の高い男がこちらに向かって歩いてくる。


「俺達以外にも、ここ通る人居るんだね〜」

「そりゃいるだろう。ここ通り道だしな」

「そうね〜」


 セナ達はそんな会話をしながら、セナ達の横を男が通り過ぎようとした時、男は立ち止まり通り過ぎようとしたセナの腕を掴む。


「セナですか……?」

「え、?」


 セナは自分の名前を呼ばれて思わず立ち止まる。そんなセナの腕を掴んでいる男はハードマントについている白いフードをとりセナ達を見据える。


「シウォン様!?」

「シウォンなの!?」


 フードを取った男の顔はセナとルソンの幼なじみのシウォンであった。


「久しぶりですね! ルソン、セナ」

「ええ、久しぶりね」

「ああ、そうだな! 姫さまから話しは聞いてる。春祭りの日、城に来ていたんだな」

「はい……! 申し訳ありません。ルソンとは顔を合わせられなくて」


 シウォンが申し訳なさそうに謝罪すれば、ルソンはシウォンの肩をポンポンと軽く叩き明るい笑みを浮かべる。


「いや、大丈夫だ。それにしても、お前、生きていたんだな!」

「はい! ルソンとは行方不明になる前きっりですね。こうして顔を合わせるのは」

「そうだな。でも、よかった…… 生きていて。安心した」


 ルソン、シウォン、セナ。そんな三人の会話を側で聞いていたリクスとシウはシウォンの顔をちらっと見てセナに問う。


「ねえ、セナ、この人誰?」

「知り合いか?」 


 リクスとシウの問い掛けにセナは頷き返す。


「ええ、知り合いよ」

「へぇー!」

「なるほど」


「随分と賑やかになりましたね」

「ええ、シウォンから貰った地図のお陰で、天命の盾の内の一人を見つけることができたわ」

「そうなんですね! それならよかったです」


 春祭りの日にシウォンから貰った地図のおかげもあって天命の盾を一人見つけることが出来たのだ。


「気になったんですけど、シウォン様は今何をされているんですか?」

「セナ達と同じですよ。私も旅をしています!」

「そうなのね! 私達、これから桜花村おうかむらに行くのよ」

「天命の盾の二人目を探しにね」

「いるかわからないがな」

 

 桜花村は天命の盾の一人がもしかしたらいる可能性があると言い、シウが提示した候補場所の一つである。


「へぇ〜! そうなんですね。きっと見つかると思います!」

「ええ、そうね」

「シウォン様はこれから何処に行かれるんですか?」

「私は月明げつめいみやこに向かう予定です」

「そうなんですね」

「ええ、では、私はそろそろ行きますね」


 シウォンはセナ達にそう告げて、歩き出そうとしたが、セナに名前を呼ばれて足を止める。


「シウォン……」


 不安げな顔をしているセナを見て、シウォンは優しく微笑み返す。


「これから先、良くない未来が待っていたとしても、立ち止まらないで進み続けられることを私は心から願っています。セナ、ルソン、生きていればきっと、また何処かで会えます。だから次会った時はもっと色々な話しをしましょう!」


 別れるのは寂しいが、きっとまた何処かで会える。シウォンが言った言葉を受け止めてセナとルソンは強く頷く。


「ええ、そうね! ありがとう。シウォン」

「そうだな」

「はい! では、失礼します。良き旅にしてくださいね」


 シウォンは優しく笑い、セナ達に軽く会釈してから立ち去って行く。

 セナ達はそんなシウォンの姿が見えなくなるまで見送ってから桜花村を目指して再び森の中を歩み始めた。

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