第21話

 僕らはそのまま街を歩き、途中にあった店で昼食を食べていた。セレスティアが来たことに驚いていたけど、本当に申し訳ないと思う。というか、王族が庶民の店で………いや、ここは高級料理店だった言ってたね。全然庶民の店じゃないや。

 それでも王族が普通の店で食事を取るなんてちょっと考えずらい。王族が治めている国なんだから、どこで食事をしようと僕が口を出す権利はないんだけど。


「一応聞くんだけど、ここに良く来たりすることはないんだよね?」

「初めてきました。でも、以前から美味しいとは聞いていたので、食べてみたいとは思っていたんですが………なかなか機会に恵まれなくて」

「なるほどね」


 まぁ、実際には興味があっても行く動機が無かったんだろうけどね。今日の様子を見ると、セレスティアは案外自由に動けるみたいだし、本当に行きたいなら今までに足を運んだことくらいあるはずだ。今回は僕と外出をしていたから、ついでに来たという感じだろう。

 ちなみに、既にほぼ食べ終わっている。


「まぁ、その噂に違わぬ味だったね。量を減らしてほしいっていうオーダーもしっかり受け付けてくれたし」

「そうですね。今後もシオンさんとお出かけすることがあったら、ここに来ましょうか」

「………はは」


 いつか本当に僕が誰かの不興を買う気がするね。というか、さっきも買っていたかな。彼女が僕を好んでくれているのは嬉しいんだけど、色々と悩むべきこともある。

 かといって、それを指摘すると………


「?どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ」


 先ほどのセレスティアの声を思い出す。明らかに常人を逸した気迫。間違いなく彼女が戦いの心得を備えていることは理解できたけど、声だけであそこまでの恐怖を覚えたのは初めてだ。正直、死の間際より怖かったかもしれない。優しい彼女の部分しか知らなかったからこそ、というのもあるかもしれない。

 僕が下手なこと言って、彼女を怒らせたいとは思えない。友人だと言うのはあるけど、だからこそ逆鱗に触れる危険性も孕んでいるという事だ。


「そう、ですか?………じゃあ、これからどうしましょうか?」

「え?何か考えてた訳じゃないのかい?」

「はい………ただ、一緒に街を歩きたいと思っただけですから」

「あぁ………」


 これは驚き。というか少し呆れが混じる。うーん………どうしたものか。とはいえ、散歩と最初に言っていたわけだし、本当に何の目的もなく歩きたかっただけなんだろう。

 絶対に口に出すと問題発言になるから言わないけど、かなり気に入られているみたいだ。


「じゃあ、その辺でも少し歩いて城に戻ろうか」

「はい!私も友人と一緒に街を歩くという経験が無かったので、とても楽しみだったんです」


 だろうね。18年間そんな生活なら、確かに初めてできた友人に舞い上がってしまうのは仕方ないかもしれない。でも、僕の存在が今後の彼女に悪影響を及ぼさなければいいんだけどね。流石に責任を取り切れないし。

 お金を払って外へと出る。ちなみに、僕は払ってない。え?男だろって?確かに僕は男だけど………相手は王族だ。いくら『権能』の遺産があるからって、彼女の財産に僕が及ぶはずがない。それで僕が払うなんて言ったところで、なんの意味があるのかな。

 寧ろ、王族に恥をかかせたと言われるのが怖い。普通に考えて、王族が庶民に奢られるなんて体裁が良いわけがない。


「申し訳ないね」

「いえ、気にしないでください。誘ったのは私なんですから」

「………まぁ、今度は分割はしたいところだけどね」

「そうですか?なら、それでもいいかもしれませんね」


 そうは言っても、男が女の子に一方的に支払わせたって言うのも体裁が悪いんだけど。今度は分割くらいはさせてほしい。けど、一つ大きな問題があるとすれば、あんまり高すぎると収入が無い僕には色々と問題があるってことだ。

 仕事が無いと言ってしまうとカッコ悪い話だけど、僕は自分の研究をしているだけであって、何か人のためになる仕事をしている訳じゃない。村に下って薬やマジックアイテムを物々交換することはあるけど、あれはちゃんと僕も対価を貰っているわけだし。僕が今まで金銭を必要としなかったから対価としてもらわなかっただけだ。

 かといって、村から今更お金を貰うのもね………うーん、悩ましい。ちょっと悩みが生まれつつ、僕らは歩き出す。外で待機していたロッカが後ろから付いてくる。


「この街は綺麗だね。とても活気にあふれているし」

「はい。この街では、兵器以外にも様々なマジックアイテムを作っていますから。生活水準もかなり高いので、豊かな生活を提供できているんです」

「なるほどね。確かに、マジックアイテムの普及は生活水準を大きく変える程の影響力があるからね」


 まぁ、やっぱりそうなんだろうね。まぁ、僕だってマジックアイテムでかなり生活は便利になっているわけだから、当たり前か。

 そんな話をしながら歩いていた時、噴水のある広場に着く。中央近くでは、楽団だと思われる集団が演奏をしていた。僕が今まで聞いた事のある音楽の中に、似たようなものは………あったような、なかったような。なんとなく、時代に合っているような陽気な音楽だ。

 ほんの少しだけ、その楽団の音楽が気になって立ち止まっていると、セレスティアが声を掛けてくる。


「もしかして、シオンさんは音楽が好きなんですか?」

「ん?………音楽が嫌いな人、というのも珍しい気がするけどね」

「ふふ。確かにそうです」

「………それに、音楽は人が生み出した音の産物だ。でも、音楽と言うのは遥かに昔から、海を隔てたあらゆる人間が生み出した文化にそれぞれ違いはあれど、リズムと音の強弱を楽しむという概念を作っている。音楽とは、人の心のうちにあるなんらかの………本能に近い性質なのかもしれない。そう思うと、僕自身も音楽に興味があってね」


 僕は、人間の魂の根本を考えたときに、真っ先に思いついたのはあらゆる文化に共通している音楽を作る、という事だ。全てではないかもしれないけど、多数の文化は民謡などの形でそれぞれの音楽を作っている。他の国からもたらされた訳でもなく、自分たちでそうしたいと思ったから。

 なら、音楽と言うのは人の本能的な部分に強く影響をしているんじゃないか?でも、音楽を楽しむという文化は人間だけのものだ。僕自身も、そういうのを抜きにして音楽を好んでいる。

 前世では、暇な時間に音楽を聴いていることもそれなりにあったしね。歌うのは得意じゃないけど、楽器なら少しは弾ける。

 研究対象として、僕自身の好みとして、音楽には関心がある文化と言える。


「確かに………そう考えると、音楽って不思議ですね。やっぱり、シオンさんは視野がとても広いです」

「はは。それを抜きにして、僕自身が音楽を好んでいるのもあるよ。音楽は、人の心に作用する力があるからね。研究と言うのは僕の趣味で、苦痛だと思った事はないけどそれなりに息が詰まる作業でもある。気分転換をするために鼻歌を歌う事だってあるし、こうやって音楽を聴きたいと思った事も、一度や二度じゃない」

「………普段、聴かれる事はないんですか?」

「環境が環境だからね。近くにあった村に降りる時も、長居はしないからそういう事に関わることはなかったし、僕の家にも楽器はないからね。他人の演奏や、歌を聞く機会はなかったかな」


 もしフラウが歌ってくれるのなら、僕は大歓迎なんだけど。なんて下らないことを考えていた時。僕らの背後から足音が聞こえる。それは明らかに急いだように走っている。それだけなら問題はない。

 でも、その足音は不自然なほどに意図して抑えられている。完全に消したわけじゃないけど、周りの賑やかさと、演奏の中では一瞬でかき消えてしまいそうな小さな音。そして、足音が鳴るたびに小さく響く鉄の音。明らかに靴の中に鉄板を仕込んでいる。

 冒険者などの危険な仕事をする人が履くものだ。そして、極めつけは………全力で走っているにもかかわらず、常に一定で、限界まで抑えられた静かで鋭い呼吸音。


「ふっ………!」

「シオンさん!?」


 その足音が近づいてきた瞬間、僕は剣を作り出して振り向きながら振るう。広場に響く金属音。空を舞うのは一本の短剣。先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返る。

 襲ってきたのはフードを被った男で、顔にも黒いマスクを口に掛けていて良く分からない。けど、その装いは明らかに暗殺者だ。纏う外套は白色で、多分夜に紛れるような黒よりも、人混みなら白の方が紛れることが出来ると踏んだんだろう。

 僕に察知されたことが予想外だったのか、一瞬だけ呆気にとられた様子の暗殺者。位置と先ほどの目線の向き………狙いはセレスティアの命で間違いないみたいだ。


「!」

「ちっ………!」


 その瞬間、ロッカが腕を振り下ろす。その左手は固く握られており、明確な殺意を持って暗殺者へと迫る。それに気付いた暗殺者はすぐに後ろに大きく跳ぶ。それと同時に地面に落ちる短剣。

 それがきっかけとなったかのように、周囲は一瞬で混乱に包まれた。


「な、なんだ!?」

「暗殺者だ!!セレスティア様を狙ったのか!?」

「そんな馬鹿な!何故セレスティア様を!?」


 周りが騒ぎ始め、逃げ惑う人間と、戦える者は武器を抜く。一気に不利になった相手は、舌打ちをする。


「ちっ………面倒な。まさか、俺の接近に気付くとはな。お前さん、何者だ?」

「敵に下手に情報を喋ると思っているのかい?暗殺者なら、その意味をよく分かっているはずだ」

「へぇ。腕が立つだけじゃなく、心得もあると来た。ただの天才錬金術師って訳じゃねぇみたいだな」


 男が腰に携えた二本の短剣を抜く。まだ戦うつもりとはね。明らかに人数不利で、勝てると思っているのか………それとも。

 セレスティアが何かを言おうとした途端、複数の風切り音が聞こえる。かなり小さな音で、限界まで工夫を凝らして音を消しているのは分かったけど、僕には意味がない。

 右手に薄緑の光を灯して振り払う。


「権限せよ。リードの権能」


 その宣言と共に僕らの周囲に吹き荒れる暴風。ロッカには悪いけど彼には必要が無いだろうし、この暴風の圏外だ。だけど、吹き荒れる風の外から苦し気な声が響く。

 風が消えた時、そこに広がっている光景は予想通りだった。


「ぐ、ぐぁっ………」

「いてぇ………ちくしょうが………!」


 矢を受けて倒れている武器を持った男たち。一本しか刺さっていないというのに、地に伏している様子を見るに………即効性のある毒みたいだね。暗殺者の男は、驚いたように僕を見る。


「魔法も一流か………ったく。本当に面倒になっちまった」

「シオンさん、彼は………」

「間違いなく暗殺者だね。それに、まだ仲間もいるみたいだ」


 そう言った時、暗殺者の男の近くに一人の女性だと思わしき人間が近くの家の屋根から飛び降りてくる。手も付かずに着地しているところを見ると、かなりの手練れだ。


「ねぇ、上手くいくはずだったじゃない。これはどういうことかしら?」

「しょうがねぇだろ?あんな奴がいるなんて聞いてねぇんだからよ」

「あら?錬金術師の男が同行すると言うのは、最初から情報にあったじゃない。あなたが実力を見誤っただけでしょ?」


 なるほどね。手に持っているのは短剣。つまり、先ほどの矢は他にも仲間がいるという事だろう。これで接近戦は三体二。けど、実際の戦力差はそれ以上に相手が多い。

 さて、どうしたものかな。


「なぁ、お前さん。既に人数で負けてるってことは分かってるだろ?大人しく、王女様をこっちに渡してはくれねぇか?そうすれば、お前さんだけは助けてやるからよ」

「なるほど。面白いことを言うね。それを頷くように思えるかい?」

「あぁ、思える。死ぬのは恐いからな」

「………シオンさん、下がってください。ここは私が」


 そういって、腰の剣を抜いて構えるセレスティア。僕より前に出ようとしているし、彼女がそれなりに強いことは既に理解したんだけど。

 僕は彼女の前に手を出して制止する。


「いや、それは僕の台詞だけどね。王女様なら、大人しく護衛に守られてくれないかい?」

「え?で、ですが………」

「心配しないで。場数は踏んでるんだ。所詮相手は暗殺者だし………正面切っての戦いで、僕に勝てる訳がない」


 僕がそういうと、男は声を荒げる。


「言うじゃねぇか坊主!なら先にお前を殺してやるよ!」


 そういって、一瞬で駆け出してくる男。それに一拍遅れて女の方も走って来る。その速度は明らかに常人のそれじゃなく、正しく風のようだった。でも、まだ遅い。

 最初に迫って来る男は僕の懐に入ろうとする。その前に、僕が斜めに剣を振り下ろす。咄嗟に片方の短剣で防御した男は、もう一振りの短剣で足を刈ろうとしてくる。それをジャンプしながら避けて、そのまま飛び蹴りをして男を蹴り飛ばす。

 すぐにその隙を狩ろうと女の方が続くけど、残念ながら知っている。


「ロッカ!」

「!」

「なっ………」


 ロッカの変形した左手から無数の小石が発射される。それに気付いた女はすぐにその場を左に跳んで避ける。近くにあった箱に身を隠し、小石の弾幕から逃れる。


「あんたたち!かかりなさい!」


 その声と共に、沢山の人間が屋根から飛び降りて僕らを包囲する。十人くらいか。これくらいなら問題でもない。


「シオンさん………!」

「まぁ、危ないと思ったら流石に自衛はしてもらって構わない。でも、護衛としての仕事は任せてほしいかな」


 そう言って、僕は右手に黄金の光を纏わせる。そして、暗殺者たちが同時に走り出したとともに、僕は右手を地面に添える。


「権限せよ。メイアの権能」


 地面に黄金のひびが入るとともに、僕らの飛び出してくる無数の鎖。それはまるで生物のようにうねり、まるで鞭のように周囲の暗殺者たちを打ち払っていく。


「がっ!?」

「な、なんだこいつ………!?ぐっ!」


 一瞬で無力化されていく暗殺者たち。そのまま頭部や腹部に強く鎖が払われ、一瞬で意識を失っていく。頭部を狙われた者達は命まで保証できないけど………そもそも、僕らの命を狙っている相手にまで気を遣う程優しくはない。残念ながら、敵対者には敵対をするのが自然の摂理だ。

 僕は前世の常識と良識を備えている。でも、それとは別に僕自身の価値観も持ち合わせている。命を狙う者に、自衛のために命を奪うことは自然界じゃ当然の事だ。

 一つの生命である人間だって、今までそうした歴史はあるわけだし。前世では人を殺しちゃいけないというのが当たり前だったから僕はしないけど、この世界ではそうじゃない。断固とした対応をしないと、僕が死んでしまうしね。


「大体こんなものかな。分かったかい?君たちがどれだけ手練れであろうとも、所詮は暗殺者。正面から戦うのが本分じゃない以上は、あの時点で君たちの計画は失敗してたんだ」

「ちぃ………やるじゃねぇか………」


 そういって立ち上がった最初の男。腹を抑えているし、僕の蹴りは相当堪えたようだね。それと同時にロッカが射撃を止める。弾切れみたいだね。まぁ、今更問題じゃない。


「だが………その剣。誰かに習ったわけじゃねぇな。基本がなってねぇ」

「だからどうしたんだい?それで、今更勝機があるとでも言いたいのかな」

「当然だ………だからよ」


 その瞬間女が木箱の裏から飛び出してくる。それと同時に駆け出す男。なるほど、同時攻撃という訳だ。


「死ねっ!!」

「シオンさんっ!!!」


 咄嗟に飛び出そうとするセレスティア。まぁ、確かに剣の心得もない以上はこれを捌くのは難しい。残念だ。


「――――空の一太刀」


 その瞬間、肉が裂ける音と共に、鮮血が舞い上がる。宙を舞う二本の腕。両方とも右腕だ。


「………は?」


 地面に落ちる腕。その手に持たれた短剣が地面に転がる。本当に残念だ。僕がここまで舐められていたなんてね。最初の時点で、僕が普通よりも腕が立つことは分かっていたと思ったんだけど。


「っ………て、てめぇ!!!何しやがった!!」

「嘘………そんな………」


 右腕を斬り飛ばされたというのに、悲鳴を上げるでもなく怒鳴る男。女の方は………まぁ、意気消沈と言ったところか。起こった出来事に納得できていないみたいだ。


「敵にそれを教えるつもりはない。そう言っただろう」


 僕は剣に着いた血を払う。どの道後で消すから血振りをする必要はないんだけど、一種の警告を含んでいる。これ以上続けるなら、同じことをするだけだしね。


「さて、僕は君たちを逃がすつもりはない。ここで退けば命は助けてやる、なんて言う理由が無いからね。君たちの依頼人に付いて吐いてもらうよ」

「ちっ、逃げるぞ!」

「逃がさないと言ったんだけどね………」


 逃げようとした二人に僕は右手を向ける。その瞬間、周囲で揺らめいていた鎖が一瞬で二人に向き、発射される。だけど、その瞬間男が地面に何かを叩きつける。その動きから一瞬でわかったけど、周囲に広がる煙幕。先ほどまで二人がいた場所に無数の鎖が叩きつけられるが、そこにあるのは堅い石で出来た地面。甲高い音を響かせて、そこに二人がいないことを示していた。


「今回は退く………だが錬金術師。それだけの腕を持っているのなら、付く相手は選んだ方がいいぜ………」

「セレスティアの敵対勢力に付け、と?」

「………理想ってのは、何も一人だけの物じゃねぇってことだ。お前は良く見極めた方がいい」

「だとしても、暗殺者を雇うような人間には付きたくないね。それより………」


 そういって、鎖を家の屋根の上へと発射する。煙幕の中でも、音があれば正確な位置は把握できる。

 一瞬だけその場を強く蹴るような音が聞こえて、鎖は空を斬る。


「………逃がしたね」

「………そ、その。シオンさん?」


 僕がそういうと、セレスティアが控えめに声を掛けてくる。ちょっと、怖がらせてしまったかな。


「ごめん。怖かったかな」

「い、いえ!そんなことは………ただ、あの剣………」

「あぁ………あれは………僕の奥義ってことにさせてくれないかな?」


 そういって誤魔化す。初めての試みだったけど、間違いなく成功していた。けど、結局は能力頼りの技なわけだし、その方法とかを喋るわけにはいかない。


「………ほ、本当にすごいです!先ほどの剣、私にも捉えられませんでした………!剣は苦手と言っていましたが、やっぱり謙遜だったんですね!」

「いや………それは本当だよ。さっきの技以外、何もできないからね。実際、さっきの技を封印して戦っていたら、圧倒的負けていたし」

「ですが、その技があるだけで勝てるという事では………?」

「………まぁ」


 実際間違いではない。さっきの技は、人が剣を使う以上は………いや、人が人である以上は絶対に正面から勝つことが不可能だと思うしね。あれを打ち破るには、僕の反応速度以上の速度で迫るしかないけど、そんなことはほぼ有り得ない。


「シオンさんは聡明な錬金術師というだけでなく、剣の才能もあるなんて………本当に、何といったらいいか」

「褒めてくれるのは嬉しいけど、先に彼らの治療をしないと。毒が盛られているはずだから、場合によっては命に関わる」

「あ!すみません!何か手伝えることは………」

「じゃあ、彼らの意識の有無を確かめてほしいかな。それから治療に入るから」

「分かりました!」


 そういって倒れた者達に近付いていくセレスティア。僕は周りを見て倒れている暗殺者たちを見る。けど………


「やっぱり殺されてるか」


 首をかっ切られ、血を流している。明らかに助からないだろう。まぁ、こうなってしまうだろうとは思っていた。証拠隠滅を図るために、彼らは殺さないとダメだろうし。とにかく、僕は治療を優先するのが先だ。ロッカの腹部を開けて、そこから治療道具を取り出す。

 さて、まだ死んでいなければいいんだけど。






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