第十五話 一網打尽
テオドールは鳥の姿になって上空からの索敵を始めたが、今の彼は出発地点となるエアガルドの街から見て、南西方向を飛んでいた。
南方向に飛べば彼の地元であるレーツェの街に着くが、西側には万全の登山装備で挑んでも、死者が出るような急峻が広がっている。
今回は南に延びる街道から少し逸れた、森と山が続くエリアに向かって飛ぶルートで進んでいるが、街道に現れた亜竜の討伐依頼を受けた彼は、目撃情報と敵の習性を基に巣を探していた。
「目撃情報からすると、この辺りだと思うんだよな」
テオドールは裏方をメインにしていた分だけ、魔物の生態についての知識はあり、それは今までの依頼でも活用されてきた。
大型種がいない地域に現れた亜竜には外敵が少ないため、見晴らしが良い場所に集団で陣取って縄張りを主張することが多い。
実際に見たことは無いため、図鑑などの知識を基に探してみることになったが、当たりを付けた場所に着いてからほどなくして、彼は討伐対象を発見した。
切り立った岸壁の上に開けた場所があり、そこには事前に聞いていた通りに、5頭のワイバーンが一塊になって寝そべっている。
「よし、見つけた。どうやって攻撃しようか」
この近辺には飛行型の魔物が少なく、テオドールがここに向かう最中にも見当たらなかった。
狩りに出ている個体がいないようであれば、今巣にいる個体を倒せば任務完了だ。
全頭をこの場で仕留めるべく、彼は逃がさないことに重点を置いた戦術を組み立てる。
「飛行能力がある相手への不意打ちと言えば、やっぱりこれかな」
最近では複数の力を、同時行使することにも慣れてきた頃だ。一部だけ変身したり、一部だけ変身を解除したりと自由に扱えるようになり、変身中に更なる《規格外》を発動できるようにもなった。
つまり応用の幅が広がり、選択肢が広がったということだ。
今回の敵は少数かつ、個々の戦闘力がそれなりにある、飛行型の魔物。
彼はこれらの条件から、この場において最も適した攻撃方法を選び取った。
「更に変身しつつ、《規格外》の
テオドールは鳥の両翼とは別に、胴体からいつもの逞しい両腕を生やす。それと同時に規格外の大きさを持つ投網を5枚生産して、眼下に狙いを定めた。
翼がネットに絡まれば飛ぶことはできず、絡まれば用は足りるので、強度を落として消費量を下げたものだ。
腕を持つ敵でなければ網を引きちぎれないため、これでいいと踏んで彼は叫ぶ。
「いくぞ……せぇのっ!」
彼からすると扱いは難しいが、降り注ぐ範囲が広いため、着弾地点は大雑把でも構わない。
空中で身体をくるくると回転させながら、テオドールが投網を大空に放り投げると、手を離れた網は重なり合いながら地上に降っていく。
実はこの戦法も10回目になるので、もう慣れたものだ。落下していく捕獲用ネットを追うようにして、彼も急降下を始めた。
「飛べないワイバーンなんてただのトカゲだ。文字通り、一網打尽にしてやる!」
固まって寝ていたワイバーンのうち4頭が網の範囲に収まり、網から外れた1頭は、慌てて翼をはためかせている。
しかしテオドールは鳥の姿のまま滑空していたため、目標の個体が空まで飛び立つ前に、射程圏内に到達した。
「まずはお前から」
浮かび上がったワイバーンとドッグファイトになるかと思いきや、既にテオドールの勝利は確定している。
どんな魔物であれ――物理攻撃が効くならば――上を取った時点で必殺の戦法が使えるからだ。
「食らえ! 《規格外》の大岩を!」
彼は頭上に差し掛かった瞬間に、再度スキルを発動させる。次に生産したものは、規格外品の石材――岩だ。それを生産して投げ捨てた。
掌を下に向けて発動するならば、尚且つ投げっぱなしでいいならば、生産品の重量は関係ない。
修行の際に使う岩よりも遥かに大きい、5メートル四方の巨大な塊が自由落下すると、網から逃れたワイバーンが飛び立って逃げる前に岩の下敷きとなった。
網で捕らえた4頭はまだもがいていたため、テオドールは鶏を〆るように、一体一体処理をしていく。
「よし、一丁上がり!」
ワイバーンの肉は食用であり、尻尾の毒は薬にもなる。そして鱗や骨は武具の素材に使えるため、捨てるところが無いくらいだ。
岩で潰した個体の素材はダメになったが、4体でも戦果としては十分なものがあった。
剥ぎ取りや処理はギルドの職員が行うため、彼はただ力任せに、アイテムバッグに死体を詰めていくだけでいい。
素材の納品でも昇格に必要な功績値を稼げるため、テオドールはほくほく顔で回収を始めた。
「これがB級の依頼って、美味しすぎない? 相性の問題だったと思うけど」
上機嫌で戦利品をアイテムバッグに詰めた彼は、素材の収納が終わるとすぐに、街に向けて飛び立つ。
今夜は祝杯でもあげようかと鼻歌混じりで飛ぶが、しかし順調に飛行を始めてから数分後、彼は眼下に異変を見つけた。
「あれは……馬車?」
テオドールは峠道を飛ばしている、2台の馬車を発見した。
馬車の周囲には並行する騎兵も数名見受けられるが、どうやら馬車は攻撃されている。
そして彼らの位置は、ワイバーンの巣からほど近い場所であり、街道から逸れていく道だ。
この先にはただ森が広がるばかりであり、森を抜けた先にも険しい山しかないので、鈍重な馬車が向かう先としては不自然だった。
「山の向こうにも街はあるけど、普通は迂回するはずだよな。……よし、様子を見に行ってみようか」
例えば商人が山賊に襲われていたとして、それを助けるのはいかにも英雄らしい行いだ。
違法な積み荷を運んだ馬車ならば、捕まえて警吏に引き渡すのもいい。
どちらに転んでも美味しい展開だと思い、彼は首を突っ込むと決めた。
しかし名声を高めるチャンスがこんなところに転がっているとは、と、不謹慎ながらも高揚しつつ、彼は進路を変更して西の方角に向かう。
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