第二話 作戦会議



 2日後になれば、テオドールのショックも幾分か和らいでいた。


 依然として現実を受け止め切れていないが、平素と変わらない受け答えができる程度には回復している。

 ということで、彼らは今後のことを話し合うべく、裏山の秘密基地に集合した。


「さて、第一回パーティ会議のお時間だ」

「議題は当然、テオの件よね」


 音頭を取ったのはリーダーのマクシミリアンで、彼は年齢に見合わない大きな体躯と、目を引く赤髪が特徴的な少年だ。


 そして相槌を打ったのは、彼と対照的に小柄な少女のシャーロットだった。彼女に関して言えば、長く伸ばしたクリーム色の髪を、後ろでひとまとめにしているところが特徴となる。


 相槌ついでに咳払いをした彼女はまず、手にしていた古ぼけた辞書を読み上げた。


「規格外の意味とは。製品や農作物などが、決められた基準に当てはまらないこと。寸法規格外、規格外野菜など……別名、不良品」

「改めて確認されると、なんだか悲しくなるね」


 辞書で引くと確かに、規格外=不良品と載っている。

 これを生産するテオドールの能力を、どう役立てていくかが焦点となった。


 街の外をうろつく魔物を狩って生計を立てると決めたので、議題の方向はどうすれば戦力化が見込めるかという点だ。


「俺らの後ろから、栗でも投げつけんのはどうよ? 戦闘後には拾って食えるだろ」

「ええ……」


 粗末な木のテーブルに置かれた、申し訳程度の菓子を摘まみながら、ニコラスは身振り付きで答えた。

 彼は斜に構えているので屁理屈や口答えが多く、この茶化しもいつものことだ。


 膝を立てて座る彼は、くすんだ金髪を指先で弄んでおり、いかにも不真面目な態度を取ったまま適当な意見を述べていた。


「真面目にやれよな。俺たちの問題でもあるんだから」

「へいへい。つっても、どこに入れるんだって話じゃね?」


 彼を窘めたのは、少し癖のある栗毛と、そばかすという地味なトレードマークを持つドニーだ。

 ここにテオドールを加えた5人でチームを結成したが、バランス自体は整っている。


 他のメンバーが授かった力を見るに、ニコラスが「配置すべき場所が分からない」と言うのも当然ではあった。

 しかしそれは重々承知だと、マクシミリアンも唸りながら再確認する。


「じゃあ隊列を確認するとだな、まず俺のスキルは《重戦士》で、前衛担当だ」

「私は《魔法使い》で、もちろん後衛ね」


 マクシミリアンは戦士系の上位スキルを保持している分、元から高かった身体能力が更に伸びており、近接戦闘の面では飛び抜けた能力を持つようになった。


 一方のシャーロットは後方からの射撃で、広範囲を攻撃できるメインアタッカーだ。

 ここは説明するまでもなく、役割が分かりやすかった。


「俺様は《騎士》だな。剣と盾を持って前衛になるか、槍を持って中衛になるかのどっちかだろ」

「……俺は《斬撃》だから、最前線? まあ前衛か」


 ニコラスは守りに長けた《騎士》の能力を所持しており、戦線を維持するため当然のこと前に出る。


 ドニーが授かったのは斬撃系統の技能が向上するスキルであり、これも前衛で戦う剣士向きの能力だった。


「武器ごとに並べてみると、剣、剣、槍、魔法ってところか」

「私を守りながら戦うと考えれば、補助の能力があれば助かるんだけどね」

「補助か……」


 ドニー以外の面々が授かったのは職業スキルと呼ばれるもので、幾つかのスキルが複合したような、俗に言う当たりスキルだ。


 特にマクシミリアンは《戦士》の上位互換で、青田刈りを狙う大手からも引く手数多の有能技能であり、才能だけで見れば煌びやかなパーティになっている。


 だからこそ、テオドールをどこに配置するかがより一層分からなかった。


 現状では前衛3人に後衛1人となっているが、仮にテオドールが近接武器を持ったところで、足並みを揃えて戦うのは難しい。

 そしてニコラスを守備的に配置したところで、足りないのは中衛か後衛だ。


「要するに、後方支援か遠距離攻撃の手段が欲しいってことだね」

「そうなんだが、遠距離攻撃って言うと……尖った石ころを生産して投げるとか?」

「俺と似たり寄ったりの発想じゃねぇか」


 身体能力のブーストがかかっていない人間が、小石を放り投げても大したダメージは与えられない。

 凶悪な魔物が相手なら、何かもう一押しの手札が欲しいところだった。


「い、いっそ補給係とかはどうだろう。この間はトマトを出していたけど、パンとかリンゴとかは出せないのか?」


 気まずそうに笑うマクシミリアンは、少し話の方向性を変えた。

 直接戦闘が無理なら、冒険のサポート役はどうかという発想だ。


「ええと、リンゴ?」


 水を向けられたテオドールがリンゴを思い描くと、手には真っ赤で丸いリンゴが出現した。

 神託の際に生み出したトマトとは違い、一見して形が綺麗な良品だ。


「あん? これが規格外品なのかよ」

「多分そうだと思うけど」


 凹凸があるわけでもなく、見た目に瑕疵かしは無い。


 どこが不良品なのかと、誰もがまじまじ見ている中で、ニコラスはテオドールの手にあったリンゴを取り――咀嚼そしゃくした瞬間――彼はのけ反って叫ぶ。


「ま、マっズ!? ぐえっ、超すっぱい!」

「ああ、なるほど。味が・・規格外なのね」

「れ、冷静に分析してないで、甘いの! 形は悪くてもいいから、甘いのを寄越せ!」


 ここでテオドールは発想を転換した。

 では逆に、形が悪いリンゴをイメージすれば味は普通になるのだろうか? と。


 その発想に至った彼は、見たことも無い形をイメージしてみる。


「出ろ! 星型のリンゴ!」


 すると次の瞬間。手にはイメージした通りのリンゴが現れた。

 何とも言えない形の、歪んだリンゴだ。


「なんだこりゃ。……ああ、すげぇ食いにくいけど。うん。今度のはウマイ」

「どこか一か所でも規格外なら、他は普通になるってことかな」

「みたいだな。まあ荷物持ちには便利だ」


 食料の調達には重宝するので、補給面には有用と分かった。


 だがこれが戦いの役に立つ姿は想像できず、もう一押しを探したマクシミリアンはテオドールを促す。


「よしこの調子だ。何を作れるか、手当たり次第に試してみるぞ」

「オッケー、やってみる」


 四角形で穴の空いていないドーナツや、店売り品よりも小さな食パン。

 やや薄味なソーセージや、喉越しの悪い水。


 言われるままに、テオドールは思いつく限りの規格外品を生み出し始めた。


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