外れスキル《規格外》
山下郁弥/征夷冬将軍ヤマシタ
第一話 どうしよう、これ
「
今日は人生で一度限り、特別な能力が付与される日だ。
13歳の誕生日を迎えたテオドールもまた、街の神殿にスキルを授かりにきた。
しかし告げられたスキル名は聞き馴染みがないものであり、告げられた本人も、一緒にやってきた彼の友人たちも、唖然とした顔をするばかりだ。
老齢の神官は啓示の内容をそのまま伝えたが、意味を飲み込めなかったテオドールは、宣言された言葉をそのまま繰り返す。
「規格外、ですか?」
「……うむ、規格外だ」
例えば授かったスキルが《計算》や《戦士》ならば分かりやすい。
前者では付与された瞬間から計算が得意になり、後者では近接戦闘の能力が全般的に伸びる。
スキルに関連した分野であれば、成長が早くなるという恩恵もあるが――規格外とは何か。
これは何に役立つ能力なのかと、テオドールの思考がぐるぐる回る。
平衡感覚が狂うほど悩み抜いた末に、彼は聞いた。
「あの、一体どういう能力なんでしょう?」
「確認してみよう」
神官は分厚い本をパラパラとめくり、過去に同じ能力を授かった人間の記録を確認していく。
すると数十秒ほどが経ち、記述に行き当たった。
「50年ほど前に、保持者が1人いたようだ」
珍しいスキルほど、貴重な能力に期待できる傾向がある。
テオドールの顔が一瞬だけ期待に輝き、そして次の発言で、衝撃のあまりフリーズした。
「《規格外》とは、不良品を生産する能力である。と書かれているな」
「えっ」
望む能力が得られなかった人間の落胆など、神官にとっては日常茶飯事だ。
彼は見知らぬ能力に戸惑いつつも、
「まず、規格外を辞書で引くと、不良品という言葉に言い換えられる」
「不良品」
形が崩れた野菜のことや、製造ミスで小さく作られたネジのことなどを、規格外品と呼ぶ。
提供すればクレーム間違いなしの不良品――規格外の品物――をこの世に生み出す能力。それがテオドールの受け取った、神の
「記録によると前保持者は、規格外野菜の生産を
「野菜」
ここでテオドールの立場に立ち返ると、彼は勇敢な冒険者を夢見ていた。
彼の付き添いに来た友人たちと共に活動する予定であり、このあとは冒険者ギルドに直行する予定でもあった。
つまり彼が求めていたのは、直接戦闘に役立つスキルだ。
欲を言えば《戦士》や《魔法使い》などの職業スキルを欲しており、最低でも《剣術》や《槍術》くらいの能力を求めていた。
「……どう使うんでしょうか、これ」
「念じれば、掌に品物が現れるそうだ」
戦えそうなものならば贅沢を言うつもりは無く、言ってしまえば何でも良かったのだ。
しかし蓋を開ければ、与えられたものがこれだ。
「き、《規格外》、発動」
何かの間違いであることを祈りつつ、震える声でスキルの名を唱えれば、手元が明滅した。
安値で手に入るクズ野菜をイメージしたところ、凹凸の激しいトマトがどすりと、右の掌に姿を現す。
「……どうかね」
「……味は普通、です」
茫然とした顔で、しゃくしゃくとトマトを齧る少年。
何とも奇妙な光景を前にして、立ち合い人たちも顔を手で覆い、天を仰いだ。
これには神官もいたたまれない顔をしたが、月に一度の行事であるため後がつかえている。
「まあ、日々の糧を手に入れるのに、これ以上ない能力だ。汝、神の祝福に感謝し――」
事務的な
手に入る力は完全にランダムであり、やり直しなど利かないのだ。
もちろん望む力が降ってこなければ、将来予想図が激変すると覚悟してはいたが、彼が手に入れたのは有難くもない――俗に言う外れスキルだ。
「みんなぁ……」
テオドールは幼馴染たちの方を振り向くが、彼以外は全員、戦闘系のスキルを授かっている。
結成予定のパーティで、非戦闘員は彼だけだ。
もちろん《計算》や《商人》などの事務に役立つスキルなら、裏方として活躍する算段はあった。
だが、まったく想定外の力を入手したのだから、この後はノープランだ。
「ど、どうしよう、これ?」
「ええと」
「いや、どうしようったってなぁ……」
本人ですら、どう役立てるのが正解か分かっていないのだ。
これには意見を求められた友人たちも、困惑するしかない。
「ま、まあ落ち着け。まずは予定通りに、パーティ結成の申請をしに行こう」
「いやテオの役割どうすんのよ。このまま進めていいのかこれ?」
「細かい話は後だ。とにかく行くぞ!」
リーダーのマクシミリアンは手を叩きながら、仲間たちに退出を促す。
そうして悲喜こもごもの神殿を後にした彼らは、何の問題もなく冒険者としての登録を終わらせて、パーティを結成した。
取り敢えずは当初の予定通りにチームを組んだが、しかし微妙な能力を授かったテオドールは、
そのため決起会や会議などは後日に回されて、彼らの活動初日は、登録だけで終わった。
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