第30話 聖女の失踪


「その第一候補が水野碧唯みずのあおいよ」





ここまでは大体物語の通りだな。

聖女せいじょ行方ゆくえを捜して宝蔵寺藍ほうぞうじあいが中等部の2年から編入してくることも、聖女の候補として水野碧唯みずのあおいが上がってくることも。


言われてみれば、碧唯あおいはその生い立ちも、並外れた霊力まなの量にしても、不自然な点がたくさんある。


四大名家よんだいめいか水ノ神家みずのかみが、碧唯あおいを養子することなど本来であればありえない話なのだ。


ストーリーとして読んでいる際は流してしまうような情報でも、現実世界として生きていく人間にとっては、ああそうですかとは流せない。


だから、宝蔵寺家ほうぞうじけの人間は疑ったのだ。水ノ神家みずのかみけ幸浄久亜こうじょうくあとの間に何か取引があり、久亜くあ水野碧唯みずのあおいとしてかくまっているのではないかと。


ナルホド……


確かに筋は通っいる……通っているが…




「それで碧唯あおい聖女候補せいじょこうほだと(笑)」



碧唯あおいは聖女とかいう存在と真反対の存在だろwwww


宝蔵寺ほうぞうじ碧唯あおいと実際に対峙してみて感じたはずだろうに…


「宝蔵寺はぁ(笑)、碧唯に?慈悲とかぁ、なんかそういうサムシングを感じたわけ?(笑)」

「うざいわね…あれが演技である可能性もあるじゃない!」


無いな。


「何よ、なんか言いたげね」

「別に?ただ見る目がないなと思っただけ」

「いちいち気に障る言い方ね‥まあいいわ。それでここまで来たなら分かるわよね。聖女の捜索に協力しなさい」

「……」


俺に向けて出された手。

此方を見上げながら気丈きじょうに振る舞うその姿にはにはカリスマの才の断片が見て取れた。


思わず、その手を取ってしまいそうになるくらいには…



「協力と言ったって、何をすればいいんだ?」

「聖女の特徴である銀髪碧眼ぎんぱつへきがん。水野碧唯がそうである証明をするのが手っ取り早いわ」

「青色の瞳に、白髪ねぇ」


碧唯あおいの身体的特徴は黒髪に、金銀妖瞳オッドアイ

輝く金色の右目みぎめと、透き通るような青色の左眼さがん


「碧唯は金銀妖瞳オッドアイだよ?左目が青色の瞳だけれど…頭髪は黒だし。聖女の銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの特徴には合わないんじゃないか?」

「バカね。呪具とか色々あるでしょ?髪を染めている可能性だってあるわ」

「あ~ね。ていうか、宝蔵寺は聖女様の顔とか覚えてないのか?顔を見ればすぐに聖女か否か分かるんじゃない?」

「…無いわよ」

「え?」

「会ったことが無いのよ。幸浄家で聖女が生まれた時には秘匿されて、姿形を知っているのは幸浄家こうじょうけでもごくわずかなの」

「ていうことは、幸浄久亜こうじょうくあの術式も…」

「分かるわけないじゃない」

「詰んでるな~」


さてどうしたものか、原作である程度事情を知っている身からすれば、ここでヤスヤスと身請けしても、いいことはあまりない。


でも協力すれば、こいつ宝蔵寺の調査についてある程度操ることが出来るメリットも存在する。


原作のストーリーを改変させるデメリットっとストーリーを操ることのできるメリット。


その2つを天秤に掛けながら思案して…


「…分かった。その調査に協――うん?」


ポケットからメッセージが届いたことを知らせる通知音。端末の画面を開いてみれば、碧唯あおいからのメッセージが表示されていた。


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あおい:

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何やらご機嫌斜めのご様子。どうしたんだろ?(すっとぼけ)


まあいい、気を取り直して


「…分かった。その調査に――……」


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あおい:無視するな

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「その―」


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あおい:コラ☆またワカラセラレタイノカナ?

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「すまない、その調査に協力すことが出来ない。ご縁が無かったということで、これからの貴女の益々のご活躍を心の底よりお祈り申し上げます」


碧唯あおいを敵にまわすことを天秤てんびんに掛けたら天秤が壊れちゃうって…天秤の皿を突き抜けて、地面にめり込むちゅうの。


水野碧唯みずのあおい傀儡かいらいが…!あなた、その端末ちょっと貸しなさい!!」

「え、ちょ!俺の端末!!!」


敬虔けいけん神父しんぷが如く深々と、宝蔵寺ほうぞうじに祈りを捧げていると、突如として、俺の端末を取り上げられる。


不敬ぞ!!!


「もしもし?アンタ一体どういうつもりよ!!」

『一体何だい?ボクは今ご飯を―』

「とぼけないで…この話が漏れているし、この際はっきりさせなさい!アンタが…貴女が幸浄久亜こうじょうくあね……?」

『……さあ、ボクの名前はあいちゃんが知っている通り、水野碧唯みずのあおいだ。今も昔もね』

「そう……」

『ボクが聖女せいじょというのはあいちゃんの勘違いだよ。残念ながらね』


あ~あ。原作ストーリがこ~われちゃたよ~。


現実の無常さ打ちひしがれながらも、頭の片隅でこれからどうしようかと考えていたところ、宝蔵寺に取り上げられてきた端末が返ってきた。


『あとそれと君は、今後一切隠し事ができないと思っておいてくれたまえ』

「なんでここでの会話の内容がきこえてるんだよ。盗聴器か?」


キッショ。


『まあそんなわけだから、じゃあね』


碧唯あおいが電話を一方的に切ってしまう。


「………」

「……まあ、そういうことでして」

「………」

「いや、多分今ここでバレてなくてもいつの日かバレていたと思うぞ?」

「………」

「これは碧唯がヤバかったってわけで俺や宝蔵寺ほうぞうじが悪いってわけじゃないから」

「………」

「だから…その…元気だしてこ?」

「……ぃして見せる…」

「へぇ?」

「証明して見せるわ!あいつが聖女だって証明して見せる」


何だコイツ最強か?今までに会話は何だったんだ?


「大丈夫?気でも狂った?さっき碧唯が聖女じゃないって言ってたよな?」

「いや、きっとあれは嘘に違いないわ!!!」

「huh?」

「だから、絶対にアイツの嘘を暴いてやるわ!」

「huh?」


だめだコイツ…早く何とかしないと…


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