第29話 聖女の失踪
学園に通う数千人の生徒が不便なく生活を送れるようにと、建物が都内の高層ビル群のように立ち並ぶエリアである。
まるで郊外のベットタウンさながら、ゆったりとした静かな空間が広がっている。
実際、寮の空き部屋に関しては学校の許可さえ下りれば外部の人間であっても住むことが可能らしい。
値段もそこら辺のアパートや、マンションなどに比べ値段も格段に安く、人気もそこそこである。
ただし、少年少女が起こすトラブルなどに
そんな
頭を下げている先は、スクリーンに映っているある人物。
「
「…はい。申し訳ございませんでした」
「あなたは冷静になれば十二分に優秀なのです…時々暴走するきらいがあるのは自分でも理解しているでしょう?」
「はい。十二分に理解してます」
すっかり凹んでいる
「…まあ、これくらいにしときましょう。あなたも反省しているようですし?」
「…はい、すみませんでした」
藍の反省している姿を見てか、これ以上詰めるということは止めたようだ。
その代わり、先ほどまでの堅苦しい会話ではなく、親子の様な会話を展開する。
「時に
「いえ…まだそれほど時間が経っておりませんので…」
先ほどまで、怒られていたからなのか、それとも何か他に思うことがあるのか、少し答えずらそうにする
「なるほど、まだコミュしょ…いえ、何でもありません」
「お母さま!?実の娘に向かって何を言おうとした?」
実の親から聞き捨てならないワードがひょっこりはんする。
「あなたを学園に送ったのは勿論、大いなる目的の為でもありますが、仲間、いえ友人、いえ知人、いえ
「そんな親心いらないわよ!!親ならもっと娘のことを信じなさいよ!!」
「はい、信じていますよ?友達のウサちゃんでしたっけ?」
「それはイマジナリーの方の友達よ、お母さま!ていうか何で知ってるのよ!」
「小学校の六年間とても仲がよさげでしたね」
「見られてたの???私の黒歴史!!!」
毎日部屋のぬいぐるみに話しかけていたことが、親バレしていることに茫然とする。
「で、でも私にも仲間くらい居るわ!」
「あら?」
「それも、水野碧唯と親しげな奴よ。どうやら通っていた小学校が同じようなのよ」
「…なるほど、それは確かに面白そうですね…しかし、そもそも
「…分かってるわ」
自信に満ちた目で返事をする娘に対してどうしても不安をぬぐえない親なのであった
§
新学期が始まったばかりの時期というのは、授業の説明や前の学年の復習などが主な内容で大半の生徒たちにとって退屈なものばかりだ。
前世との相違点として、呪術という科学とはまた違った学問が発達しているため、学ぶ内容は単純に多い。プラス、
サッカーやバスケットのスキルや技などを座学で学んだあとに、実技演習で習得するといった感覚に近い。
そんなわけで俺の前の席の
そんな天童君。実技の時間では特に苦労することなく技術を習得している。
げせぬ…
こういう奴前世でもいたわ。授業中いつも寝ているのにも関わらずなぜかテストで高得点をたたき出してくるヤツ。
自分の努力は何だったのかとバカらしくなるよな。
頭の中どうなっているのか一回カチ割って見て見たい。そして俺の脳みそ1パーツずつ交換していきたい。
でも脳味噌を交換した俺は果たして本当にに俺であるのか?いや――
(中略)
……
「ねえねえ、
「えっ…?」
一人の女子生徒が
誰しもが、
な、なんという連帯感…
「う~ん。いいよ。でも、この後少し用事があるから皆は先に学食に行ってて」
「分かった!」
「堀内さん!私も一緒に食べたい!」
「僕も!!」
「おれもいいですか?」
堀内の
要するに最初に
言い換えればファーストペンギン。その意味は、仲間を崖から蹴落として安全性を確かめる鬼畜的所業と…
このクラスの闇を見た気がする。このパンドラの箱は開けてはいけない。そっと仕舞っておきましょうね~。
べ、別に羨ましくなんか無いんだからね!!
そんな覚悟を決めた俺に、一筋の光が舞い降りる。
「
「うん?はい、成田です」
ツンデレヒロインである。
変な意地を張って、昼食を摂りに向かおうとする俺に話しかけて来てくれた女神だ。
先日、
突然すぎて、なんか少ししゃべり方が可笑しくなった。
「少し、話があるんだけど…時間ある?」
「あぁ、大丈夫だけど…」
画面越しでは何回も見たというのに、実際にこうして正面から話しかけられると、少しドキドキしてしまう。
紅蓮の如く赤い目。少しばかりのツリ目が
しかし、すらっと通った鼻筋に、均整のとれた顔つきはその少女の欠点をすべて消し去ってしまうくらいには美しかった。
これを形容するなら冷たい美しさだ。
しかし、その美しさとは裏腹に、腰の上まで流れた真っ赤な髪の毛は、炎のようにゆらゆらと揺らめいていた。
「私は隣りのクラスの
「覚えているよ。色々過激だったんだから。俺に何か話でもあるのか?」
「そうね、ここで話すのもなんだし、場所を変えま―ッ!」
「やあやあ、宝蔵寺の箱入り娘。ボクのモノ…に何か用かな?」
「…
いきなり俺の背後からにゅるっと出てきた碧唯。一片の気配も読み取らせず、相手に接近する技術を無駄に発揮する。
猫が威嚇するように、宝蔵寺を少し下から見つめる。それは先日の決闘では終始みせることのなかった敵対心を抱いた視線。
「困るんだよね、そういうのはボクを通してもらわなくちゃ」
「
「この前分かったのさ。君はボクが管理しなきゃダメだってね」
「……」
俺の腕を拘束するかのように強く握り絞められる。地味に痛い……
「まあいいや、それで何か用があるんじゃないのかい?」
「…ええ、この男を少し借りたいんのだけれど、いいかしら」
「…………ふぅん…まあいいだろう、深くは聞かないことにしてあげる」
がすぐに俺の腕は解放された。
先ほどまで拘束されていたところをヤスヤス触るとひりひりと下痛みが伝わってきた。
これ絶対腕に手形がついているだろ。
「あとこれ、ボクの連絡先ね。これからは、よろしく頼むよ?藍ちゃん?」
碧唯は宝蔵寺と連絡先を交換するや否や、すぐにクラスのみんなの下へと帰った。
「……」
「……」
「場所、変えましょうか」
「うん。そうしよう」
変な感じになったし。
§
場所は変わって、ここは学園の屋上。
宝蔵寺は、壁によりかかりながら、腕を組み何やらここ数分思案しているご様子だった。
何度か話しかけるも、帰ってくるのは生返事ばかり。
時間を持て余した俺は仕方ないのでフェンス越しに風景を楽しむ。
中等部から大学部まで存在しているこの学園は10階まで存在し、屋上からの景色は随分と見晴らしが良い。
ここからだと、
「アンタ、あの女に随分と気に入られているのね」
あの女……?
「
「なるほど。それで用事ってのは……碧唯のことか?」
「その通りよ、察しが良いじゃない」
「それ、本人に聞けよ…何で俺なんだ?」
その人間の周りをちょろちょろ嗅ぎまわるのは健全じゃ無いよ。
「そ、それについては少し複雑な事情があるのよ」
「複雑な事情ね。でも残念だけど俺があいつのことについて知っていることなんてたかが知れているぞ」
「嘘ね、あなたあの
「………確かに、同じ小学校ではあったな」
なんかわからないけど疑われているな…
でもある程度は察しがついている。きっとこれは原作での第一章の序章なんだろう。
だから元々
その人物とは、
しかし、ここにきて事件が起こってしまう、
当初は誘拐や暗殺を視野に入れて捜査が進められていたが進展がなく。捜査は実質の打ち切りとなった。
だが…それから数年後、聖女の生存説が濃厚になった。
というのも、聖女は自らの意思で家を出ていったのだという証言が
そこで
木の葉を隠すなら森の中という諺もあるように、
宝蔵寺家が調査するために
その事情を知り、調査に協力するのは確か主人公のはずだが…
「それで、碧唯について何が知りたいんだ?」
「あなた、
「確か…
「そうね、ある程度の概要を知っているならいいわ。それで、その聖女がこの学園にいるんじゃないかということで、私が派遣されたという訳」
「そうか、
「世間ではそうらしいわね。でも
「その第一候補が彼女、水野碧唯よ」
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