第33話 毒舌アホ娘 VS クソガキ

優実ゆうみが膝に手を当て乱れた息を整えているのを、平然と碧唯が見下ろす。


はたから見てもその勝負の行方は明らかである。


「ハァハァ…、碧唯あおいちゃんってすごいね…いや、すごいのは前々から知っていたけれど…全く攻撃を通せないよ」


碧唯あおいに賞賛の念を送る。


成田肇しゅじんこう三浦智樹みうらともきに取られてしまった放課後、優実ゆうみに模擬戦をして欲しいと申し込まれ、専用の施設で特訓を行っていた。


数週間後から始まる校内公式序列戦こうないこうしきじょれつせんのデビューに向けて実力を蓄えている最中だ。

彼女にとっては、初めての決闘。念には念を入れて挑みたいらしい。


「あはっ!そういう優実ゆうみはセンスがいいじゃないか。いや、これでは上から目線で嫌な言い方だな…」


とは言え、優実ゆうみの呑み込みの早さに舌を巻いているのも事実だ。それを伝えようとしたのだが。


おかしいな…?ボクってこんなに素直に褒めることが出来ない子だったけ?


素直な賞賛の言葉が出てこない自分に違和感を抱く。


何故だろうと、ふと自分の周りにいる人間を思い浮かべてみれば、ノビチョクに匹敵する毒を口から吐く女の姿が…


「ニャハハ…ありがとう。碧唯ちゃんに太鼓判を押して貰えるなら少しは安心できるかも!」


優実が汗だくで笑顔を向ける。


……ボクも優実ゆうみみたいな笑顔を出来るようになればきっと


純粋無垢な表情を見せる優実に碧唯は少しだけ嫉妬する。


「でも…術式の相性だと、私の方が有利なはずなのになぁ…」

「そうだね、確かに相性では不利だけど、術式の使い方、駆け引きとかはボクの方にアドバンテージがあるかな」

「術式の使い方かぁ…」


会話の中の、少し抽象的な言葉に納得がいっていないようだ。


とは言いつつも…ボクはそのあたりに関して結構感覚だよりなとこあるし…


「そうだとも、優実は術式が発現してからあまり時間が経っていないだろう?だから、術式に振り回されているイメージかな」

「確かに、まだ私は碧唯ちゃんみたく、自分の手足のように扱えないもんね」


優実ゆうみは手を開いたり閉じたりしながら、自分の手足のように、術式を扱う想像をしてみる。


「まあ、ボクは感覚派だからね、論理的に教えることが出来ないんだ。こうやって実践を重ねて、気になるところを教えていく感じになるかな。もっと理論的に教えて欲しいのであれば、夏帆かほがすごくいいと思う」

「え?夏帆かほちゃんが!?!?」


碧唯から飛び出来てきた言葉に、思わず大きな声を上げてしまう。


「夏帆ちゃんて…あの…いつも先生から目をつけられている?」

「アハハ!!!そうなんだよ!あの外見詐欺は座学こそ壊滅的でアメーバ並みの知能だけど、こと術式の扱い方に関しては、クラスで…いや学年でもボクの次位には――」

「あっ……」


優実ゆうみが後ろを見てぎょっとした表情を浮かべたのにつられて振り向くと…


後ろで、にっこりとほほ笑みながら、親指で首を掻く仕草をしているのは、ちょうど会話で名前を上げていた夏帆である。


「それはそれは、お褒めに預かり光栄です。性格サイコパス女」

「――やあ、夏帆じゃないか?今日の漢文の宿題はちゃんとやれたかい??」


「はい、それは勿論、碧唯ちゃんのお、か、げ、さ、ま、で!」

「アハッ、クク。アハハハハハ!!!」

「えぇ……」


激しい憎悪の視線を向けてくる夏帆を煽るようにあざ笑う碧唯。笑いすぎて最早、言葉になってない。


「まさか、こんなくだらないなことをやると思っていなかったですよ」

「く、くだらないって何をやったの?」


笑いすぎて会話すらできない碧唯あおいに代わって優実ゆうみ夏帆かほに尋ねる。


「それは、ボクも知りたいな?ほら夏帆教えてくれよ?ボクが一体何をしたんだい?」

「いいですよ、いいでしょう。教えてあげましょう!この女、今日提出の漢文の書き取りの宿題で、私にエロ小説を写させたんですよ…ご丁寧に漢文の!!!」

「はぁ…?」


理解が及ばず、唖然としてしまう優実。

いや、理解したくなかったのかもしれない。学年でトップに君臨する実力者の性格が男子中学生にようであるということを…


「いやいや、それは心外だなぁ。ボクはただ、夏帆かほに宿題の答えを写させてあげたに過ぎないよ」

「だったら、もちろん碧唯あおいちゃんも出したんですよね?その宿題?」

「それはどうだったかなぁ?確か間違って違うノートを出した記憶があるような…」


夏帆かほがプルプルと体を震わせる。


「どこまでも、舐めてくれますね…宿題をやってこなかった友人に対してその仕打ち。どういう了見ですか?」

「いやぁ、宿題はちゃんと自分でやるべきだと思うなぁ…」


優実が思わず夏帆に突っ込む。


「どうしたんだい?エビのように体をプルプル震わせて…。それはそうと、今日の宿題を写したお礼の昼ご飯、とても美味しかったよ?」


ここで、夏帆の何かが切れた。


「そういえば、最近は試合、全然していませんでしたね?今、やりましょうか?そのにやけ面、ボッコボコにしてやります!!」

「術式で脳内までお花畑になったのかい?実力差がまるで見えていないようだ」

「あのぅ…2人とも…」


一色触発の雰囲気の中、どうしようもなく取り残されてしまった被害者ゆうみ

ここで学年有数の実力者の戦いが始まろうとしていた。

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