新生活に慣れまして

第27話 どうも、一般クラスメイトの雑魚です

「ねえねえ昨日送った動画観た~?」

「見た見た!!マジで臭そう!」

「私、ご飯食べてる最中だったんだけどー!!!テロよテロ」


朝から、元気いっぱいの女子生徒が笑いながら、靴を履き替えている。


女3人揃えばかしましいというが、2人でも寝起きの頭を強制起動させる煩さはあると思う。


にしてもさっきの会話謎すぎるんだけど…


朝から活気づいている下駄箱げたばこ。だんだんと学校生活にも慣れるようで、学校の生徒たちも編入組、在学組も関係なしに交わるようになってきた。


「やあ、奇遇だね…」

「………」


寝ぼけ眼を擦りながら、朝下駄箱げたばこで靴を履き替えていると、聞きなれたボクッ娘から声を掛けられる。


振り向くと、金銀妖瞳オッドアイの美少女。一方の瞳は深い金色で、もう一方は南国の海のような青色。


「なあ碧唯…」

「なんだい?それよりも朝のあいさ―」

「今週になってから、これで3日目だ…ちな今日は水曜」

「そうなのかい?それは偶然が重なったようだね」

「……」


先週も合わされば、これで偶然は10回以上だ。そんな度重なる偶然があってたまるものか…

もしそれが偶然なら―


「放課後にでも宝くじを買いに行こうか?今なら一等も夢じゃないぞ?」

「宝くじかい?大金に目がくらむのは理解できなくはないが、購入できるのは20歳からだという法律があるからね」


え? そうなの。知らなかった…

俺の皮肉にも動じないどころか、マジレスをされる始末。


ここまで圧を掛けられれば、流石の俺であろうと気づく。


「はぁ…なあ碧唯」

「ん?」

「これ俺の連絡先。朝、都合が良いときは一緒に登校しよう?」


端末に表示されているQRコードを碧唯に向ける。


しかし、碧唯はやれやれしょうがないといった、ヤレヤレ系主人公のようにおもむろに端末を取り出す。


「おや、おやおやおや?なんだボクと一緒に登校したいのかい?しょうが―」

「あ、もう朝のホームルームが始まるじゃん。早くいかないt―」

「―しょうがないから!交換しようじゃないか!浅見先生はいつも遅れてやってくるだろう!?時間はある!」


端末たんまつに映った時間がもう少しで朝のチャイムが鳴る時間であったため、それを口実に揶揄からかおうとするも…


端末をしまおうと動かした手を尋常ならざる握力で掴まれた。


「碧唯…痛いんだが…」

「まあまあ、少しだけ!痛いのはちょっとの間だけだから我慢したまえ」


誤解される言い方ぁ!!!!


「よしよし。もう大丈夫だ。さて、ホームルームに遅れないために早く行こうじゃないか」

「…なんというか、楽しそうで何よりだよ」


一仕事終えて満足げな碧唯に、いちいち突っ込むのがめんどくさくなった。


もうそれでいいいよ、碧唯が楽しそうだし。


「碧唯は部活とかの朝練ってないの?」

「あるにはあるけど、それほど熱心に顔を出してないかな」

「そうなのか?あんなにも強いからてっきり…」

「う~ん。確かに、ランニングくらいはしているが、朝からあまり激しい運動をしてもね…」


ケガをする可能性も高いし、疲れるだけだしね、とあっさりと答える。別段秘密の練習をしている訳ではないようだ。


たまにいるよな~。特段人より努力しないように見えて、結果を残す天才肌の人間。

陰で努力してるのかは知らないけど、他の人間のメンタルに大きな闇を生むのは確かだ。


まあ、俺が知っている原作での水野碧唯も部活には参加していなかったし、不自然ではないか。


それは、霊力マナや術式を独自で研究していたから必然的に他のことに費やす時間がなかったためだ。


しかし、今の碧唯を見るに

もし碧唯が術式を利用できていれば、先日の怨霊体アパリティーなんぞ即殺なのだ。


術式は歴代最強、使い方には文字通り無限の可能性がある。


それに加えて高い戦闘センス。近接戦でもほぼ無敗を誇っている彼女は、まさに物語の黒幕として十分なポテンシャルを有している。


立てば芍薬しゃくやく、座れば牡丹ぼたん、裏の顔は虐殺魔。

流石原作のメインヒロインかつ黒幕かつ最強。性能がいかれてやがるぜ。


ある程度賑やかになっている教室に慣れた足取りで入りながら、自分の席へと向かった。真ん中の列の一番後ろの席。


ぐるりと教室を見渡すと、大体の生徒がそろっているのが見て取れる。

皆さん朝早くからお疲れ様です。


「よお!成田!」

「えっ…俺?」


話かけられたことに驚きながらも、話しかけて来てくれた当人をみる。

しかし、いかんせん名前が…


全国の苗字の多さから山田、佐藤、田中の可能性が高いはずだ。だから3つの中から1つを選べばいい気がする!


まあ教室でそんな苗字聞いたことないけど。


「…確か名前は…」

「あぁ!?なんだ酷いな~覚えてないのかよ!」


「だってその男自己紹介の時、寝てましたもん」と時間ギリギリで登校してきた金髪からそんな幻聴が聞こえてきた。


うるさい。

本当のことだからだって?

証拠をしめせえぇ!!


「俺の名前は前田聖一まえだせいいちだ」


その名前で脳内検索を掛けてみると1件ヒットした。自己紹介の時、結構陽気な感じで自己紹介をしていた男子だ。


覚えてるじゃん俺。俺が寝る前に自己紹介をしてた人か…

え?そっちの方がひどいって?


「ということで、少し顔を貸してもらうぜ?」


そのまま、男子が集まっている場所へと連れていかれる。


なんだなんだ?これって友達が増えるチャンスでは?


ここで面白いことを言って、皆に気に入られればクラスでの人気の地位を確保できるのでは!?!?


任せろ!オレがクラスのみんなを笑いの渦に――


「よしこれで異端審問を始めれるぜ」


――。なんだよ異端審問って。俺は一体何の信仰に反したっていうんだよ…

椅子に強制的に座らせられた俺はクラスの男子に取り囲まれた。


助けて三浦えもんと、SOSを送るが、バツが悪そうに首を振るだけ。神は死んだ。


「成田、お前随分と俺の碧唯ちゃんと仲がいいようじゃないか」

「……?」


うん?うん。

…俺の?


「それはお前が、あおっ…水野の彼氏だったのか?」


碧唯と下の名前で呼ぼうとしたら変なプレッシャーを掛けられたので、瞬時に苗字で呼ぶことにした。

我ながらナイス判断。


「はぁ!? 違うけど?」


即答で否定。

違うのかい!!!どういうこと??


「俺はな!入学式の時、碧唯ちゃんを見た瞬間、ビビット来たんだ!」

「お、おう」

「あれはもう一目惚れだった!」


一目惚れした。だから碧唯に手を出すなと…

なるほど、完全に理解した。(してない)


「それなのに、ここ最近ずっと付きまとっている奴がいたんだ」

「は?そんな奴いたか?」

「とぼけるなぁ!お前だよ!お、ま、え!」

「は?俺?いやいや誤解だって、そんなことしてないって…マジで」


前田君のあらぬ疑いを晴らそうと必死に弁明するが、彼にはそれが怪しく映ったらしい。一層疑いの目を向けられる。


あかん!

これだとクラスでのあだ名がストーカー野郎とかになってしまう!


「ハぁぁぁ…はよ…」


何とか突破策を見つけなければと、周囲を見渡していると、あくびをしながら登校してきた天童誠人てんどうまこと君と目が合う。

そして、顔をしかめられた。


朝から煩いのは彼にとって不愉快なものだったらしい。


スマソ、スマソ。


「あ!おい、誠人!お前からもなんか言ってやれ!」

「ったく、朝からうるせぇつうの」


それは俺も同感だ。天童君はだるそうにこちらへやってくると、180もある巨体で座っている俺を見下す。


「入学早々女にうつつ抜かしてるんじゃねぇよ、雑魚」

「…うっす」


四面楚歌しめんそか孤立無援こりつむえん、八方ふさがり、どうやらこの場に俺の味方はいないようである。

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