第25話 ツンデレヒロインVS光堕ち系以下略

炎嵐神楽えんらんかぐら】それは500年前、宝蔵寺ほうぞうじ当主によって確立された防御特化型の術。


だが…極めて強力な技ゆえに避けられないデメリットも存在する。


霊力マナの消費が激しい…!

これだともって3分、いや2分かしら。


自分の体から何か力が抜けていくような感覚に不快感を覚えながらも、冷静に評価する。


湯桶ゆとうの如く消費しょうひされる霊力マナ。その本質は術式励起じゅつしきれいきそのものであり、自己の現世うつしよに顕現させる。


本来であれば、3秒ともたない究極の御業であるが、500年という歴史の中で改良を重ねられ、ついぞ3分という時間まできた。


性能や消費霊力マナが改善されているとはいえ、それでもやすやすと使えるものではない。


正に宝蔵寺家の虎の子。正真正銘しょうしんしょうめい奥の手である。



さて…ここからどうしようかしら。此方に絶対的な防御があるとはいえ、攻撃が通じなき千日手だし――――


どんどんと迫ってくる制限時間。

少しばかりの焦りと共に、次の攻撃の準備を始めようとするが、いつの間にか間合いの中に入っている碧唯に驚愕する。


「え…?」


―何が起こって


疑問を呈する時間もなく、ドゴォォォンという爆音とともに気を取り戻し、気づいた。


碧唯が一撃を加えたということに。


「凄いね…これ。結構力を込めて突いたつもりだったけどびくともしないよ」


今、私…攻撃されたっ……!?


恐る恐る視線を下げてみれば、どうやら納刀された状態で突かれたらしいことが分かった。

炎嵐神楽えんらんかぐらの羽衣が宝蔵寺を碧唯の攻撃を受け止めていた。


初手でこれ炎嵐神楽を展開してなきゃ…一瞬で死んでた!?


「でも、ある程度は理解したかな…次は当てる」

「ハッタリかしら…?そう安々と当てれる訳ないわ!」

「それはどうかなッ―――」


碧唯の攻撃を認識し、冷や汗を流していると、またしても碧唯の姿が消える。


驚く暇もなく殺気、悪寒。


感覚のすべてが、体のすべてが死を感じ取る。

鳴り響く警鐘けいしょうに、思いっきり横に転がってみれば、横をすれすれで通り抜ける白銀の光。


「……い…痛い…イタイ?」


自分の頬に温かいナニカが伝る感覚を感じ取る。


「やっぱり。今度は通ったね」


嬉しそうに碧唯は微笑む。


痛みを…感じている。ということは…


考えたくはない。考えたくはないが…

どうしても1つの恐ろしい結論に至ってしまう


炎嵐神楽えんらんかぐらが……発動してない」

「まさか、君のその骨董品はちゃんと動いているさ、現にボクの斬撃を少しばかりずらしたしね」

「……」


絶句した。言葉が出てこなかった。


人間、理解出来ない程圧倒的な差を突きつけられるとこうなるのね…


数度の攻防で突きつけられた実力の差。


「ほら、無様に這いつくばってないで立ったらどうだい?ボクは次の一撃で君を屠れるよ?」

「…ふふっ。うふふふ!あははは!!」


もう、ここまで来るといっそ清々しい。


圧倒的に理不尽で、絶望的な程の実力の壁。


「あぁ、ごめんなさい、別に頭がいかれたわけじゃないの…こんなにしそうなのは初めてだから」


今まで挑まれる立場にあった自分が挑む立場に、見下ろす立場から見上げる立場に。


「苦戦とは随分と大きく出たね。ご自慢の虎の子が効かなくてあれ程呆然としていたのに」

「そうね…でもこれからは違うわ。本気で勝ちを取りにいく…そのニヤケづらに吠え面かかせてあげるわ」

「まあ、せいぜい頑張りたまえ。間抜けヅラした負け面犬人面犬

「逝きなさい!【しゅう】」


碧唯めがけた超近距離からのレーザービーム。炎を集約し熱の散乱がほぼゼロの高威力の光が疾走する


たとえ防御魔法にいくら精通していようとダメージはやむを得ない。それどころか、触れた瞬間焼け消えるほどの死の光。


まあ、それを受けるのが常人であればの話だが。


キュイ〜〜〜ン


碧唯の顔めがけて飛んでいったそれ殺人光線は反発するかの如く散乱していく。


並大抵の人であれば顔面に穴が開くほどの攻撃を受けてなお、碧唯は無傷。


勝利への道はまだ遠い。




§




「…【焔撃えんげき】―――【響結きょうけつ】!!!!」


共通術式によって生み出されたピンポン玉ほどの火球は、後追いで唱えられた式により、合わせ鏡のように何十にも威力が増幅され放たれた。


炎の弾丸となって碧唯へと肉薄する。苛烈な熱の奔流が容赦なく碧唯に襲いかかる。



「―――【天響轟雷てんきょうごうらい】」



対する碧唯は納刀していた太刀に紫電しでん稲妻いなずまを纏わせ、神速で抜刀。


空気は瞬間的に1万℃程度に熱せられて爆発的に膨張し,衝撃波しょうげきはを生ずる。


幾重いくえにも増幅された紅の弾丸は、滅紫めっしの一閃によって切り裂かれる。


――おかしい、最初と打って変わって今度は全く攻撃をしてこなくなった…


「す、すげえ名家同士がやり合ってるぜ!」

「あの雷姫かみなりひめが仕留めきれてないなんて…」

「あの新入生中々やるじゃない」

「あのお姫様、手加減してるんじゃないか?」

「あんなに戦闘が続いたのっていつ以来?」


碧唯あおいは先程から後手にしか回っていない、攻撃を受け流し、相殺し、躱すだけ。


近接戦闘は自分の得意ではない。どちらかというと、中距離からのコスパの良い術式で相手に甚大なダメージを与えるのが基本的な戦術であるから、この流れは自分の理想とも言える。



だが、感じるのは不可解。奥歯に何かが挟まっている位のほんの少しのだけどそこに存在を主張しているほどのナニカ。



現にこちらが押しているとはいえ、水野碧唯は無傷だし…


あ~~!!!もう気になる!!

…気になるけどこっちが優位に立っているのは事実。このまま高火力で押し切ってやればこっちの勝利は揺るがない!!!


最悪水野碧唯みずのあおいがなにかの手の内を隠していたとしても、対処できる手の内もこちらにある。


大丈夫問題ない!!!


「【螳螂焔舞とうろうえんぶ】――――【多重響結たじゅうけっきょう】」


壮絶極まる不可視の斬撃の嵐。

宝蔵寺ほうぞうじの術式によって底上げされた威力はあたりを一瞬にしてボロ炭と化す。


「【天響轟雷てんきょうごうらい】」


が、しかし…天からの雨のような稲妻の槌がその斬撃の全てを撃ち落としていく。


お互いがお互いの術式を消し飛ばしていく。その隙に詰めてきた碧唯の逆袈裟さかげさを紙一重で避けながら反撃の一矢を見舞う。


碧唯と宝蔵寺の攻撃が衝突する事に空間が軋み、耳を覆いたくなるほどの悲鳴を上げる。


地面はとうにボコボコに凹み、桜の花は舞い散る。


触れれば一周にして蒸発させることのできる雨、爆撃、迅列な熱風は幾度となく碧唯によってかき消されていく。


碧唯の掠れば一瞬にして意識を刈り取られるであろう鋭い刃の猛攻をしのぎ切る。


本来であれば、拮抗するはずもなく一瞬にして押し勝てるこの勝負はすんでののところでかわされ、押し勝てずにいた。


こちらの攻撃が碧唯との間に大きな壁があるように、磁石が反発するように逸れていく。


――まずい…そろそろ霊力マナも限界だわ…

こっちは限界だというのに、何であいつは余裕そうなのよ!


水のように柔軟でしなやかな体術に的確な術式運用。自分の攻撃を見透かされ、まるで操り人形の様に踊らされているのではないかと錯覚してしまうほどの完璧な



以上を包括ほうかつして世間一般にはこういう


「戦闘センス」っと


技や駆け引きだけじゃないそこにはあるもう一個の大事なモノ才能

彼女にはあって自分にはないそれ才能


私の前に立ちふさがって押しつぶしてくる。


「さて、そろそろ時間かな…」

「何よ。私はまだ…まだ戦えるわよ」

「あはっ!違う!違う!!こっちの準備が整ったのさ。君の術式。炎嵐神楽えんらんかぐらを破るためのね」

「……何?そんなのに騙され――っ!!!??」


「――【静寂せいじゃくよりまたたく光の柱】」


碧唯が呪願かしりを唱え始めると、持っている太刀が紫色に帯び始める。


今までの施行してきた術式よりも遥かに綺麗で、比にならないほどの出力。


今にも爆発しそうなほどの霊力マナを指揮者のように指向性を持たせながら一つ一つ丁寧にまとめていく


な、なんていう霊力マナ。術式を暴走させる気………!?


宝蔵寺の爆炎、術式で底上げされた紅の矢でさえも、竜巻に飲み込まれていく有象無象の様に碧唯の膨大な魔素にかき消されていく消えていく。


回避なんてものはしない。絶対にその攻撃は通らないから。


相手に近寄りもしない。何処に逃げても次の一撃で屠ることができるから。


逃げはしない、強者は自分だから。


「【鳴り響く断罪の声に応えん】―――」


碧唯はおもむろに太刀を振り上げ、振り下ろす構えを取る。


それは偶然にも先日碧唯たちも前で披露された絶鎌の呪咒ぜつれんのじゅじゅの屠り形と酷似してたそれは、なんとも美しくて…


「―――――【雷賛らいさん】」


そのどこまでも美しい紫電の太刀が振り下ろされた。

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