第21話 光堕ち系黒幕ヒロイン

始業式が終わり、クラスでもホームルームが終わった後、元気のいい声が響く。


「みんな! ちょっといいかな!!」


何だろ?クラスの連絡グループを作るとかそういう話か?


「私たち編入組は、まだこの学校のシステムとか、場所とかあまりわかってない状態でしょ?だから、在学組の皆と交流会を開きたいんだけど、この後…どうかな!?」


教室の視線が一気にその少女に集まる。しかし、そんなことを意にも介さず、堂々としていた。


すごー

たかが数十人とはいえ注目されて胸張れる度胸は普通にすごい。


自分にはとても無理な芸当だと、心の底から惜しみない称賛を送る。


「それいいじゃん! 学校のこと全然わからないし、教えて欲しい!」

「じゃあ、私も行こうかな」


一人が賛同したことにより、芋づる式にその言葉に乗っかる人が一人二人と増えていく。


「そうだね、じゃあその案内は僭越せんえつながら僕が買って出るよ。誰が僕と一緒に案内をしてくれる人はいるかな?」

「ありがとう、三浦君!」


事前に打ち合わせていたんじゃないかというくらいにスムーズに物事が進む。


絶対打合せしてただろ!

だからなんだという訳だが…


しかし、交流の機会が設けられるのは生徒の大半にとって朗報だ。


目先の不安が解決される目処めどが立ったためか、空間が和み始め、生徒間のコミュニケーションが活発になる。


だんだんとはじけるように教室に花が咲く。


――勿論、俺は花を作らない植物こと隠花食物いんかしょくぶつであるので、花びらではなく、陰キャ胞子をまき散らしていた。


いや、意図して撒いていた訳じゃないんだよ?

でもなんというか…この俺からあふれるオーラとやらはどうやら隠しきることが出来なかったらしい。


この俺に近づけるやつはいないようだ…


――虚しい。お腹空いた…


時計をちらりと見れば、もう昼時だ。

どおりで腹がキュルキュル言う訳だ。


周りを見渡せば、浮足立っている教室。


「あの、はじめまして。連絡先交換しない?」

「う、うん是非」


「お前…どこ出身?」

「俺は青森県」

「同じじゃん!俺も青森なんだよ!」


誰も話しかけてこない、コレガワカラナイ。


なんか各々仲良くなり始めているんだが?

走りだしは出遅れた感じですか…そうですか…


俺は知っている。


ここでキョロキョロと周りを見渡しながら話かけられるのを待っていても誰も話しかけて来ないことを!


教室に誰もいなくなるまで、席に座っているという無様な姿をさらすよりだったら、ここは早めにドロンするのに限るのだ。


どうせ話かけられても、オドオドとした返事しかできない陰キャに求められるのはいかに減点を無くすかだ。


ここにとどまっていても、キョロ充という称号がつくのみ。


加えて時間が経つにつれて、騒がしくなっていく教室で、ただ静かに座って居るのは、自分の精神衛生上大変よろしくない。


飯でも食いに行こう。食堂に向かうため席を立ちあがる。


一人で行くか…それとも誰か誘うか…


初対面の人間を飯に誘ってもな…気まずいだけだろうし。いいや。

一人で行こう。


そんな悲しい事実確認をして、虚無になったところで現実に戻る。


机の横に掛けてあったカバンを背負い教室の出口を目指す。ここでポイントとなるのは、堂々と出ることだ。決してこれからボッチ飯を食べると周りに悟られてはいけない。オドオドしてはいけないのだ。


「俺?これから友達と飯行くんで」といった雰囲気を醸し出して出るのだ。

え?別にお前なんて見てないって?うるせえしn(ry


え~と…学食は…教室を曲がって右か…?


今度は迷うまいと、朝渡されたパンフレットを眺めながら足を進める。時々他の教室の前を通るときにチラリと中をみてみれば、どこも同じような光景が広がっていた。


一層惨めになった。


おかしい、地図の通りに進んでいるのであれば、今頃階段を下っているはずなのだが・・・


「おやおや?そっちに食堂は存在しないよ?」


また迷子か?なんて思いながら、パンフレットに再び視線を落とそうとすると、後ろから声が掛けられる。


振り向けば、光落ちした陽キャきゃぴきゃぴ女子こと碧唯がニヤニヤしていた。

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