第19話 必殺自滅技「大人の嘆き」

さくらが舞い散る中学校へ続く道を優雅に歩く


―――なんてことはなくアホ面を晒して大きな校舎で迷子になっていた。


時間を見ると既に始業式は始まっている。俺はもうすでに遅刻が確定したわけだ。


迷子になって最初のころはまだ良かった。


いやいやいや、ラノベの主人公じゃないんだから…

まあ、でもここでヒロインとここで邂逅するのも吝かではないというか?


などとNTRのヒロイン貞操がばがばのクソ女のような即落ち2コマの思考を浮かべていたのだが。ここまでくると本当にしゃれにならない。


こんなにも迷ったのは前世で英検の2次試験で初めて高専にいったとき以来である。


「あの時も、迷いに迷った挙句集合時間に間に合わなくて受験資格を失格になったんだっけ…」


それから、「助けて!」と叫び散らかしたことで駆けつけた警備員に無事に保護されたが、呼び出された先生に向けられた視線は忘れない。その後、電話で迎えに来てもらった親の顔も目に焼き付いて離れない。


やるしかないのか…必殺自滅技「大人の嘆きくらいしす」を


周りを見ても建物て建物。所々にガラス張りの渡り廊下が散見される。

上のガラス張りの廊下からだと俺はきっと地を這う虫けらのように無様に見えるのであろうか。


我慢の限界だというのに、トイレの個室が満室だったくらいの絶望が顔をのぞかせてやってくる。


「やるしかないのか…」


そう腹をきめて、腹に空気をたくさん吸い込み声を出そうとした瞬間。


「やあやあ、大丈夫かい?いろいろと」

「ごばぁ!!!―ゴホゴホ…」


声を出そうとした瞬間話しかけられびっくりして唾が変に気管に入りむせた。


「誰だっ――て碧唯かよ、びっくりした」

「アハハ、すまない。そんなにも驚くとは思わなくてね。大丈夫かい?」

「ああ、そうだった助けてくれ、迷子になった」

「ああ、迷子か。満員電車で覚悟をしたような顔をしていたから…そっちかと」

「違うわ。ここらで助けを呼ぼうとしたんだよ」

「ここでかい?それは止めた方がいい。このすぐ横が体育館だ」


親指で横の建物を指さしながら、教えてくれた事実に心臓が変な挙動を示す。


「ガチ…?」


声を一段と低くして尋ねた。


「まじだとも………しまったな。ここで泣き叫んでいたら君はこれからずっと迷子野郎として全校生徒に知らしめられたのに…これは惜しいことをしたな…」


頭に手を当てて残念がる碧唯は完全スルーするとして…


あっぶねえぇ。まじで社会的に死ぬところだったわ。編入初日から悪目立ちするところだった…


いや、初日から遅刻する奴が悪目立ちもくそもあったものじゃないが、これ以上の余計なマイナスポイントは回避したいところ。


でも、そうえば…


「あれ?なんで碧唯はここにいるん?始業式は始まっているんじゃ」

「ああ、寝坊」


寝坊かい!!!!



§



碧唯に先生たちの巣、職員室に案内してもらうと、通常は働き蜂のようにウジャウジャいるそこは、静寂な空気が横たわっていた。

でも働き蜂である証拠が、ブラック企業の案内人の目が死んでいるように。隠せていない。


かすかに鼻につくコーヒーの臭いが先生という仕事が激務であるということを物語っている。


皆さんはご存じだろうか。あれほど眠たい始業式を寝るな寝るなと言っている先生。式中にふと後ろを振り向いてみると、先生達は普通に眠っているという事実を。


先生たちも限界なのだ。


おとなしく、待っていると始業式が終わったのか、先生たちがガヤガヤとやってくる。その中に、見知った、いや昨日の先生がこちらにやってくる


「水野から話はあらかた聞いている。災難だったな」

「まあ、はい」

「とりあえず、これから朝のホームルームを始める。そこで編入組は挨拶をしてもらう。質問は?」

「いや、特にないです」

「じゃあついてこい」


中学の二年生から編入するのは結構珍しいことであると感じるであろうが実はそうではない。この世界で退魔師というのは力に目覚めるのには個人差があり、その力が発現するのは個人によってバラバラだ。


大体、この世界で力が発現するのは中学2年生まで。そう考えれば、俺たちは少し遅い。というかギリギリだ。やっぱり能力が早く発現したものが強く有利であるのには変わりない。


「ここだ、座席は自分で座席表を見て座れ」

「ウッす」


先生に冷たく見放され、一人ぼっちで廊下に取り残される。


教室につくと始業式を終えた生徒たちが会話に花を咲かしていた。そんな中に、ヅカヅカと入っていく先生。ここに居ても仕方ないので、俺もそれに続いて入る。


「お前ら、そろそろ席に座れ」


そんなに、大きな声で呼びかけていないにも関わらず、先生が入ってきたことに気付いた生徒からだんだん席に座り始める。


成程、生徒はすでに調教済みという訳ですね!


すると不愉快な思考を察した先生に睨まれたので、俺も座席表を見てから席に座った。


一応隣の席の生徒に挨拶を交わす。


「あ、ども~」


あ、無視ですか。そうですか…。

いや、これはただ単に聞こえてなかった可能性が大!

めげずにいこう。


座席ガチャは成功して、真ん中の列の一番後ろ。授業中に寝ていても絶対にバレない場所だ。先生は後ろの席の方がよく見えるというが、自分の前の席に背の大きな人が座ればそこはもう楽園だ。こっちから黒板が見れないという欠点はあるものの、それは言い換えれば先生もこちらが見えないということ。


物理的に見えないこの席。先生は何が見えるというのかね?(笑)


「諸注意などの諸々の連絡は後でやる。だから最初は事故紹介自己紹介からいくか。名簿~~~あ~~最後から行こうか」

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