第18話 都市伝説上の生き物

「そういえば先生はあの男を知っていたの?」

「そうだ。多分お前らもアレの二つ名は一度は聞いたことがあるはずだぞ」

「あいつてそんな有名人なんだ…」


浅見先生が不適に笑う。ヒントは呪度6さえ文字通り赤子の腕をひねりつぶすほどの実力者…そしてまだ若い退魔師…


思い当たる節が夏帆にもあった。史上最年少、世界に7人しかいない強度7の退魔師が日本に存在しているという都市伝説―


絶鎌ぜつれん呪咒じゅじゅ…」

呪咒じゅじゅってあの最近有名な都市伝説の事!?」


知らないはずはなかった。日本中いや世界中で騒ぎになった都市伝説。日本に存在すると言われている強度7の退魔師。


その都市伝説には色々な話が飛び交っている.


曰くいわく大鎌を携えて、視界にあった怨霊体アパリティーと人間を見栄えなく殺し回っているマーダー殺人鬼曰くいわく怨霊体アパリティーに殺された生霊等々。数多くの説がある。


「都市伝説?そんなものではない。確かに実在する退魔師であり、あいつのことだ」

「じゃ、じゃあ。人間も怨霊体アパリティーも殺しまわっているというのもホント!!??」

「ンあわけあるか。そんな事してたら、もうとっくに世界から人間が消えている」


確かに、世界に7人しかいない本当の絶対的な強者がそんな秩序を乱れたことをすれば、世界は崩れていただろう。


「さっき見たんだろ?術式の具現化を。あれが出来るのはこの世界で指で数えられる程だ」

「え?あのでっかい鎌ってそんなにすごかったのかい?」


ズルズルと既に液体がないコップを吸っていた碧唯がまたもや驚いたという様に聞き返した。


しかしこれには同感だ。術式の顕現は退魔師の必殺技みたいなもの。それも限られた才能ある人間が血もにじむような努力をして得られる究極の御業。


所謂いわゆる最上級の切り札であって、そんなポンポンと使うような代物ではないはずなのだ。


普通であれば…


「そもそも水野は自分の術式すらうまく使えこなせないだろうが。それを暴走状態にさせたのを制御して指向性を持たせたのが術式励起じゅつしきれいき。もちろん呪力は湯桶の如く使用するし一歩間違えれば、自分の術式が焼き切れる可能性もある」


自分の術式を既存きぞんの物理現象に組み込む術式励起。


制御がこの上なく難しいうえに一歩間違えれば四肢が爆散する可能性が極めて高い危険な代物。

殿しんがりを務める人が最後のあがきとして術式を顕現させようとして、暴走させるというのは歴史上においても数件ある程度。


「私に言わせてもらえば、そんなものただの芸術作品だ。戦闘でそんなポイポイ使うなんてできるのは、多分だが世界であいつだけだ」

「そこまで使い勝手が悪いのですね…そんなに大量に呪力を消費するならなにかしらの長所があってもいいと思うんですけど?」

「それは分からない。そもそも分かっていないのが現状だ。母数が少なすぎる。出力に上限がなくなるらしいが…まあ、現状術式励起じゅうつしきれいきの下位互換と言われている術式付与それで十分なほどの出力は担保されているのだ。身の危険を冒してまでも顕現させるメリットは存在しない」


術式付与…これははよく聞く技術だ。武器に自分の術式を付与することで自分の術式の出力をアップさせる。これですら長年の修練が必要になると言われている。


私をはじめ、瀬奈せなちゃんや碧唯あおいちゃんでさえも、いまだ術式の付与をできていない。


学園の序列が50位以内の人間は軒並みこの術式付与を使っているイメージがある。


しかし、それ以上に強力な攻撃手段になるため、使える人と使えない人とでは大きな差が生じることになる。碧唯ちゃんが、50位より上に行くのが難しいと言っていた理由はこれが大きい。


「あれ?私たちと同じ年ということは、この七帝学園のどこかに在籍してると言うことですか?」

「いや…まだだ。今年の春からこの七帝都市に来ることになる」

「うわ〜。このイカれ具合からすると?あそこは完全実力主義だし」

「確かに、彼がとかとかに行くイメージはないかな…」

「そんな感じの人間なのね…」


自分の命をポンポン掛けられるような奴は確かに正気ではないからまともな人間だとは思ってなかったけど…


「いや、あいつはアレが通うのはウチ、桜蓮第五学園おうれんだいごがくえんだ」

「は?」

「え?は!?なんで萎びたビーズクッションのような心地良くもなければ、鍛錬にもならないようなうちの学園に来るんですか?」


意味が分からない。天井に一番近いような人間が、こんな毒にも薬にもならないような平凡な学園に来るのだろうか?


そこで碧唯が申し訳なさそうに手をあげる。


「あ~多分それはボクが誘ったから」

「…はい?」

「先月だっけ?彼と近況報告の電話をしたときに、迷っているようだったから、冗談で誘ったら…来ちゃった♪」


悪びれもなく、言い放つ碧唯。都市の上層部は彼の不可解な行動に日々頭を悩まされていたに違いない。


単独で世界を本当の意味で終わらせられるような人間が、いきなり学園に通いたいとなれば、もはや理解不能だ。


それが友達に誘われて入るって言うふざけた理由なのだから杞憂にも過ぎると言うものだ


「来ちゃった♪じゃねんだよ。お前か!!!!!水野!!!あんな歩く人類リセットボタンをよこすんじゃねえ!」

「人類♪~リセットボタンぽt」

「うっせええ。帰って寝ろガキが!!!そんな理由でそんな理由で――」


衝撃の事実を知り発狂し始める浅見先生。彼を学園に入れるにあたって色々と苦労があったようだ。


これで、私たち女子会はお開きとなった。

会計は先生もちで、ふらふらと帰っていく様子が印象的だった。


「どうしたんだろうね?あんなに取り乱すとは思わなかったよ」

「碧唯…あなた。先生にコロされなければいいわね」


本当に…

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