第17話 最近の日本人の性癖がオカシクなっている件について

「あ~づがれだ~」


一人の少女、水野碧唯みずのあおいが机に伏せながら、女の子が発していいギリギリの汚い声を出す。


ここは某全国チェーンのファーストフード店。店内にはチラホラと若い客層が見受けられる。


艶のある腰まで伸ばされた黒髪の毛は枝毛がなく。机にほっぺたをくっつけ、モチモチとしたほっぺがプニャと押しつぶされる。


「冷たくて気持ちい~」


所謂、大和撫子でありThe清楚系の見た目から吐き出される声は、見るものにギャップを与えていた。


汚い声を出すJCというジャンルにも需要があるのだ。


最近日本人の性癖が拗れまくっているように感じるのは、自分だけでしょうか?


「こうも長く拘束されては確かにたまったものじゃないですね…すごく眠いです」


その言葉に心底うんざりといった様子で返答するのは金髪の少女。彼女の名は九条夏帆くじょうかほ、肩あたりまでのばされた金髪は、黄色に近い色であり見るものすべての人の視線を奪ってしまうほどだ。


ピシッとした佇まいに服を乱すことなく着こなしているその姿は、身の硬さを表しているようである。


この3人は今回の帝都中央交差点に現れた怨霊体アパリティーに関しての事後調査やメンタルケアなどで深夜までたらい回しにされていた。


「これには体力ゴリラの瀬奈せなも…」

「モキュモキュ……?? なによ?」


瀬奈。本名ほんみょう石橋瀬奈いしばしせなという少女を見やると、片手にハンバーガ、もう一方の手には、ジュースのコップ。そして口にはポテトをまるでリスのように詰め込んでいた。


瀬奈せなちゃん…」

「………」


碧唯あおい夏帆かほはそのあまりにもな姿に憐れみすら覚えた。そんな必死に食べる姿は、なんかこう…可哀そうだった。その姿が、女子として、人間としても終わっていたとしても、なんかこう…食べさせてあげたかった。


野生の犬が餌を食べている錯覚を覚えながら、話す気も失せた二人も目の前にある食べ物に手を付ける。


「お?てめ~らも終わったのか?お疲れ」


すると、彼女ら3人を労う言葉が掛けられた。どこぞヤンキー特有の口調。視線を向ければ、スーツを着崩して胸元を下げている。下はズボンを履いているが、豊満な胸元が彼女が歴としたレディであると主張している。


「あ、浅見先生。お疲れ様です」

「お疲れ様で~す」

「……」モキュモキュ

「石橋…」


各々が先生に挨拶を交わす中、石橋瀬奈いしばしせなは挨拶をするために口の中にある食べ物を飲み込もうと必死にかみ砕いていた。その必死な様子に何かを言いかけて止めた。先生はそんな様子を、クルミを必死にくちばしで割るカラスを見る目で見ていた。


「先生~つかれたよ~」

「なんだ、へばってるのか?だらしねえな。ま、気持ちは分かるぜ。オレも政府の奴らとの話はかったるかったからな」

「それじゃあ具体的な話は聞けたんですね」

「あぁ、ほれ、これが報告書だ」


深夜まで拘束された後なのに家に帰らずたむろしてた理由はこれだ。今回の出来事について、いち早く知りたくて先生をわざわざ待っていた。

そこに、さっきまで食べ物を詰め込んでいた瀬奈が会話に混ざる。


「随分と早く報告書ができたのね」


どれどれ、と報告書に手を伸ばすと、ぺしっと夏帆にはじかれる。


「……」

「その脂ぎった手で触るつもりですか」


ニコリと笑う夏帆。暗に手を拭けといっている。

瀬奈はビニール袋に包まれたおしぼりを開けようとした。しかし油で手が滑って上手く開けることが出来ない。

その痴態にもはや憐れみが湧いた。


呪度じゅどが…6強ですか。私たちが報告を受けたときは確か―」

「ボクたちが知らされていた呪度は2、すごい差が出たもんだね。よく生きてこれたものだよ……それで、原因は―」


夏帆かほがペラペラと紙をめくっていくも、そこに記されているのは被害状況であったり、今後の退魔師の配置位置など。肝心な今回の呪度予測と実際の呪度に大きな誤差が生まれたことに関しての報告がなされていない。


「見たところ書かれてないようですね…どういうことですか、浅見先生?」

「気持ちは分からんでもないがオレもその件についてあまり教えてもらえなくてな。教えられることは少ないぞ」

「ええ、知っている情報だけでも十分です」


知っていることは全部吐けと言わんばかりの視線を向けられ、「はぁ」とため息を吐いたのち、話し始める。


「端的に言うと、今回の怨霊体アパリティーの隠ぺい能力が高かった。高呪度の怨霊体アパリティー。特に知能を持っている怨霊体アパリティーにたまにあることだ。たまにあるといっても歴史上数体といったレベルだがな」

「確かに。今回の怨霊体アパリティーは知能があるとは感じていましたが…」


もしあの男が助けに現れなかったらと思うとゾッとし、手を擦るさする

此方の最大の攻撃力を誇る碧唯でさえダメージを与えることが出来なかったのだ。防戦一方の戦いに、勝機があるとは思えなかった。


退魔庁たいまちょうの奴らも、今回の誤報を結構深刻に受け取っているらしくてな、今しばらくこの件は隠ぺいされるだろうよ」


フンッと鼻で笑う浅見先生。庁の隠蔽体質が気に食わないらしい。


そんな先生の様子を横目で見ながら報告書をスキャニングしながら読んでいた夏帆かほであったが、自分が欲しい情報が載っていないとわかると、それを瀬奈せなに渡した。


もうこの報告書がギトギトになろうがベトベトになろうがどうでもよかった。

次なる興味に向けて、隣でスマホをいじっている碧唯あおいに話を振る。


「ねえねえ碧唯あおいちゃん。そういえば聞きたいことがあったんですよ」

「ん?なんだい?」

「あの現場、中央交差点で途中から裏世界にき――」

「あれ!?途中から居たあの男のこと、載って無くない!?」


夏帆かほ碧唯あおいに聞こうとしたのにかぶせて瀬奈せなが言う。


今言おうとしたのに…

ナンデーナンデーと鳴き声を上げながら先生に質問する瀬奈に冷たい視線を送る。


「あ~、ソイツなら多分この報告書には載ってねえぜ」

「なんでよ?あの怨霊体アパリティーを倒したのって実質あの男よ」

「あ~それはだな…」


浅見先生は、頭を掻きながら、言いずらそうに眼をそらした。

それを見て代わりに碧唯が答える。


「彼の名前は成田肇なりたはじめ。年も僕らと同じ中学2年だ…」

「あ〜そうか、水野はアレを知っているのか」

「彼とは、一時期一緒だったからね」

「なるほど、それで彼と面識があったんですね」


碧唯の返答にフムフムと頷く夏帆かほ


「それで、彼は一体何者なの?推定と言えど呪度6以上の怨霊体アパリティーを一方的に抹殺するほどの力を持ってるって普通じゃないわ」

「確かにそうです。碧唯ちゃんは何か彼のことについて知っているんじゃないんですか?」

「う~ん、残念ながら君たちが知りたいような情報は無いね」


碧唯は椅子に深くもたれかかり、頭に手を組む。どこか懐かしむように視線を遠くに向けるさまは、憂い顔。女である夏帆でさえ心に来るものがるほどに、美しかった。


「言ったろ?ボクが彼と一緒にいたのは小学生の途中。そこからはずっと君たちと一緒にいたじゃないか」

「確かに、それでは彼はいつ…」

「2か月前だ。あれは2ヶ月前に退魔師としての力を発現した

「2か月ですか…」


またもや言葉を遮られた夏帆。少しばかりイラっとした。


「そうだ、二か月前、東北地方で発生した大量の呪度4の怨霊体アパリティーを鏖殺。それがアレの


東北地方で起きた呪度4の怨霊体アパリティーは直近の出来事として記憶に新ししい。確か、怨霊体アパリティーの一つ一つの強さはそれほど強くないが、固体数がかなり多かったと聞いている。その数、千に届くとか…


「それが本当であれば、二か月であの力を手に入れたことになるってことよね。まさに、鬼才…いや、化け物ね」


うえ~と顔をしかめる瀬奈せな。千に届く怨霊体アパリティーなんて想像しただけでおぞましい。それを抹殺したというのだから、恐怖するというのもうなずける。


そこまでされると、凄いではなく気持ち悪いという感想が先に出てしまう。

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