第16話 絶鎌の呪咒
俺は、突然後ろから脇を突っついてきた犯人こと、碧唯に非難の目を向ける。
すると俺の視線に気づいた碧唯がこちらを見上げながらニコリとほほ笑む。
「……」
「…(ニコッ)」
「…スゥゥゥ」
・・・俺はすべてを許した。
碧唯が笑顔を向けたらどんな罪でも許さなければならない。これは憲法にも載っている。
「……」
「え!??!」
しかし、にっこりとほほ笑みあっている2人組以外の、周りの傍観者は勿論違う反応を示した。
見かけ脅しのカスみたいな攻撃。その光景に、JC2人は気まずさを覚えた。
あれ程自信満々にしていたのに、強キャラ感を醸し出していたというのに…
なんというか…
そう…
残念であった…
これには、
これが人間だったら、顎を大きく空けて放心していたに違いない。
周りには先ほど、はたき落とした炎をゆらゆらと燃えているのみ。
「ショボ…」
「ダサ…」
「うふゅ…っ・・・あはっ…ふふっ」
「キャッキャッ!」
それを見て、白い眼を向けてくる赤と金。そして両手をたたきながら爆笑する黒。
赤子の異形までもが俺を嗤ってくる。それは許せねぇなぁ!!
「【収束】!!!」
「――!!?」
周囲の空気が引き締まるような感覚と共に、重力が一瞬にして増大するような感覚。
先ほどまで、
周囲は昼間のように明るくなり、時間が経つにつれてその球体は赤みを帯び始める。
その光は遠くからでも見えるほどの輝きを放つ。それどころか、近くにいたJC3人組はとてつもない光度と熱量に身をかがめてしまうほどまでに温度が上昇する。
そして、先ほどまでピンポン玉くらいの大きさであったものが、圧縮され米粒程の大きさに。
それは小さいながらも、地上に現れた太陽のごとき存在感を放っていた。
周囲の音が消え失せ、時間が止まったような錯覚が生まれる。
皆の視線が注目する中、それはゆっくりと落下し、激しい衝撃と、音が周囲を包み込んだ。
燃え盛る炎と共に、大爆発が起こり大きな火柱が上がる。
道路は溶岩のようにドロドロに溶けて、その凄まじい熱量を物語っていた。
そんな光景をただ無表情で見据える少年。その姿からはやはり圧倒的な余裕がうかがえる。
炎の火柱が収まり、残ったのは深くえぐられたクレタ―のみ。
「ねえ、
「えぇ…何とか無事でした」
周囲が落ち着きを取り戻してから、赤髪が隣にいた金髪に安否の確認をとりその無事な姿に安堵する。
「やあ、みんな無事みたいだね。よかったよかった」
先ほどの爆発で吹き飛ばされた黒髪の少女もちゃっかり2人に合流する。
そして、俺を見ながら、
「あれ?さっきの術式。演算をミスした訳じゃないんだ?」
「……何のことか分からないな…」
「てっきり、演算ミスをしてそれを隠すために、こんな事をしたんだ思っていたんだがね?」
此方をにニヤニヤしながら、話しかけてくる碧唯。お前が脇をこちょこちょしてきたからミスったんだよ!
さっきの術式を施行するとき威力の演算をミスってしまった。
それを誤魔化すために、わざわざ大技を披露したというのも碧唯にはバレバレのようだった。
いや、そもそもの原因は碧唯なんだけどね?!
これを抗議するも「お?言い訳かい?」と煽られる始末。
「にしても、随分とはっちゃけたね…もしかして、跡形もなく消し飛ばしちゃった感じ?」
「いや~、まだ生き残ってるよ。油断したところを付いたのに、相手もなかなかしぶといね」
「まだ生き残っているの?あれほどの攻撃を与えたのに!」
その言葉に驚く、赤髪こと
煙が晴れたクレータ―の中を見下ろすと、中心でうごめく影が一つ。
もはや人型を保っていなく、親の下半身は吹き飛び、右腕も肘から先が炭化している。親の異形は瀕死であるがまだ生きている。
しかし、腕に抱えている赤ん坊の異形は無事のようであった。泣き叫んでいる。
その姿を見た、赤髪の子はウッと視線を背ける。対照的に、金髪の方は意に介さない様子で平然とのぞき込んでいた。
「すごいね~これが家族愛というやつか…」
「愛ですか?」
俺がぽつりと呟いたのを拾った金髪の子がオウム返しに言葉を吐き出す。いつの間にか隣りに来ていたらしい。
「いや、テキトー…子供だけ残ったのはそういう風に見えるじゃん?すべて消し飛ばす気だったんだけどな…うまく防がれたみたいだ」
「そうですか……」
俺の言葉を聞き終わるや否や、ぺこりと頭を下げる。
「うわーキモいねー。というか惨くないかい?」
今度は手を頭に当てながらのぞき込み、グロイだの汚いだの言い勝って、好き勝手イきり散らかす黒髪少女こと
「それで、これからどうするんだい?ここまでボロボロにした相手を更にボコボコにするのは、流石のボクもどうかと思うよ?」
やれやれとなだめるように首を振る。こいつめ…なんか、クソガキになってない?
原作の清楚系の敬語少女はどこ行った?
「分かった、分かった。一撃で屠り去るから…ほら、どいた、どいた」
しっしと手の甲で追い払って、俺の攻撃効果範囲内から追い出す。
こいつ耐久性がバカ高けえな。原作でもそうだったけど、何度攻撃しても赤ん坊の異形に攻撃が届かないのだ。
こいつらを殺すには、ちまちま攻撃して体力を削るか、結構な高火力の術式が必要だ。
クレーターの中で蠢いている異形を見下ろす。そこに居るのは、なんとしてでも子供を守ろうとする母親の異形。そんな母親を見て泣く赤子。
これじゃあまるで俺が悪役みたいじゃないか。いやこの親子から見ればその通りなのだろう。
であれば、そうだな…仲良く屠ってやるのがこちらのせめてモノ誠意だな。
うん…
「【
手を挙げたその先にはっきりとした黒く赤い粒子が舞い、それが大鎌を形成していく。この世の負の感情を凝縮したような漆黒で、鎌の所々に赤い模様が浮かび上がっている。
「【
エネルギーが少年の周りに、集約されていくのが肌で感じられる。大鎌をなしているものエネルギーが爆発的に増幅され、周囲の空気までもが震えた。
大気が震え、空間さえもが軋みをあげる。
「【
訪れたのは、無音。先ほどまで吹き荒れていたエネルギーは収束し、少年の手には、見るものすべてを飲み込みそうなほどの漆黒の鎌が握られていた。
異形と少年の間に流れる空気が張り詰めていく。
そして赤子を必死に守った異形に、無慈悲に、漆黒の鎌が音もなく振り下ろされる。
凄まじいほどのエネルギーを持った鎌を一筋の斬撃として放つ一撃は、微かなる風きり音を伴い振り下ろされた。
瞬間、耳がもぎ取れるような轟音と共に、天高く光の柱が昇っていく。先ほどの爆発よりも狭い範囲に凝縮されたエネルギーの奔流は、指向性を持ってロスなく異形を襲う。
上空では、稲妻が鳴り響き、雲が波紋状に広がっていく。
この日、呪度6強の、違う世界線では、数十万の犠牲者が生み出されるはずだった、後の教科書に載るほどの、また全世界の歴史に名を刻むような
―――――――――
【速報】
主人公と超久しぶりに会った碧唯ちゃん。テンションが爆上がり、かまってちゃんになってしまう。自分より異形に構っていたため嫉妬したなどと述べており…
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