第9話 疑似恋愛は本当の愛か否か?
文明が発展し、文化が豊になりつつある今日。アイドルや二次元のキャラクターに想いを寄せることも
疑似恋愛という言葉が存在していることも、そういったものが一般的になっていることを表しているのではないだろうか。
まあ「疑似恋愛」と聞くと少しばかり堅苦しい感じが否めないが、「推し」という言葉を使って言い表せばしっくりくるかもしれない。
何故、いきなりこの話を始めたかというと、かくいう俺も「推し」が存在していたからだ。
きっかけは容姿だ。サラサラとしてきめ細やかな、まるで絹糸のように艶のある黒髪。スタイルが抜群であり、それでいて下品とは感じられない体型。
そんな彼女に俺は一目ぼれをした。もちろん彼女を知っていくにつれて内面にも惹かれるようにもなっていったが…
しかし、ストーリーが進むにつれて彼女の秘密が明かされていったり、立場が変わっていったりした。
メインヒロインの座から物語の黒幕へ転落し、天使の優しい顔の裏側に隠れていた狂気も明らかになった。
でも、恋は盲目とはよく言ったもので、悪役になった彼女も好きだった。
どんなに人を殺そうとも、どんな外道の行いをしても彼女が出てきた回は何度も見返したし、読み返した。
だから、二次元とは言え、想いを寄せていた彼女が幸せにならなかったことに納得いかなかったのだ。
ラブコメにおいての一番の幸せとは勿論主人公と結ばれることであるが、たとえ主人公に選ばれなくても――
死ぬことは本当に幸せなのだろうか?
これから救われるかもしれない未来も捨てて、幸福に満ち溢れているかもしれない可能性も捨てて、本当に彼女は楽になったのだろうか?
ただ苦しい中、苦しんで、苦しみながら後悔して、絶望して、それでも助けてほしくて…
画面の奥で、悟ったように穏やかに
彼女が言った感謝の言葉が納得いかなかった。
「殺してくれてありがとうございます、幸せでした」
言葉の裏側はもうこれ以上苦しまないで済む、と言いう意味が隠されているに違いない。
幸せになって救われたのではない、これ以上不幸にならずに救われただ。
それから、俺は狂ったように2次創作を読みまくり彼女が救われる世界線を四六時中考えていた。
これは一種の疑似恋愛だ。
本当の恋愛感情ではない、見かけだけが疑いようもなく似ているもの。
きっとこれが恋愛感情になることはない。画面の外から一方的に想いを伝えているだけでは成り立たない。そういった視点から考えれば疑似恋愛は恋愛として最初から破綻しているのだろう
それでも、俺は彼女を救うと思う。
好きだからだとか、愛する人を救いたいからなどという前向きな感情なんかではなく、もっと自己中心的で思わず身震いする様な感情だ。
自分の思い通りにいかないなんていうふざけた理由。
不愉快だから。あれほど
あれほど、俺が読んだ物語では救われていたというのに、俺がいる世界だけ救われないというのは、おかしい。
彼女本人が幸せと言おうが、周りの人が幸せと言おうが、俺がそれを不幸と言えばそれは不幸である。
価値観をただ押し付けているだけとは分かっている。これがいかに悍ましいナニカであるとも。
それでも、彼女に違う世界線を見せてやりたかった。
もしかしたら今よりも苦しまず、悩まないそういった世界を。
それでもなお、そっちの方が幸せというのであれば………
幸せになんてさせない
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