第10話 爆誕!?黒幕系ヒロイン水野碧唯



祝日、ある宗教では、大昔の記述に基づき、世界を6日間で造り、7日目の安息日には休むとされている。


家族や友人と過ごす時間、リフレッシュや休息の日として重視される祝日。


そんな日に、学校の教室で、一人本を読んでいる少女がいた。日差しが優しく彼女を包み込む。

明るい光が彼女の髪の毛に触れ、天使の輪を作っていた。


そんな穏やかな、昼前。そこに、教室の扉が音を立てて開かれる。


教室の扉を開いた主は息が切れており、髪もぼさぼさ…


いつも平日に見せる、完全武装のメイクも雑に済まされている。


それがいかに、その教師が急いでいたのかを表していた。


「やあ、先生。随分と遅かったじゃないか…20分の遅刻だね」

「ハァハァ…水野さん」


息を整え、顔を引きつらせながらも、笑顔を浮かべている。すぐに壊れそうな仮面をかぶっている。そんな風に相手を追い詰めていることに、愉悦を感じながら話を続ける。


「…あのような虚言を先生に言うなんてどういうことですか?」

「いきなり本題に入るのかい?随分と余裕がなさそうじゃあないか」

「……」


少しおどけて話してみると、教師は今もなお余裕綽綽そうな態度をしている少女を、無言で睨みつけた。


「まあ、別にこれが事実かどうかを決めるのはボクじゃないしね。でも作り話としても面白いだろ?まさか学校の先生が、公務員とあろう人がこんな悪事をしていたなんて」

「クソガキ…それを何処で知った!!!」

「さあ何処だろうね」


残っていた余裕がなくなったのだろうか。先ほどまで張り付けていた笑みも消え去り、吊り上がった目で少女を見据える。明確な明確な敵意を示していた。


しかし少女はそんなことを気にも留めず自分の机をガサゴソと漁る。


「ボクとしたことがこんなミスをするとはね」

「…」


そう言って机の中から、封筒を取り出す。真っ白な、味気の無い封筒だ。その中から手紙を取り出す


「『碧唯ちゃんへ、放課後、体育館裏で待っています』…漢字が書けていて、随分と賢い小学生だね。それに文字のバランスもとれて奇麗だ。まるで大人が書いたように…」


手紙から視線を上げ教師を見てみると、バカにしたように、鼻を鳴らす。


「フンッ、それを見て嬉しそうにしてたガキが、よく言う」

「………」


今度は少女が黙る番だった。


「先生の普段の醜い嫉妬は、まあ我慢できる範疇であったけど、流石にこれはやりすぎだ」

「嫉妬?なんのことかしら?普段から、男子にちやほやされている水野さんの勘違いでは?」

「じゃあ、この紙を鑑識に出してみるかい?誰の指紋が残っているのか、興味があるからね」


またしても無言の睨み合いが続く。


だがそれは教師の言葉によって遮られた。クックックと嗤いながら話始める


「…水野さんがが気づいているように、私があのバカどもを唆してお前へと差し向けたわ」

「…素直に、認めるじゃないか。いや、開きなおっただけか」

「フンッ。バレているのであればね。でも残念、教育委員会とはそれなりの関係を築いているわ。だから告発したとしても無駄よ?」

「告発?告発ねぇ…ふっふ…あはっ…あハハハ!」


少女はいきなり笑い始めた。誰もいない静まり返った教室に笑い声が響き渡る。


「ボクはそんなことをするつもりはないよ」

「そんなことするつもりがない?…どういう意味?」


教師が少女に疑念の目を向ける。教師は碧唯の行動を理解できていないらしい。


「先生に提示した情報はね、呼び寄せるただの餌に過ぎないのさ」


その少女は淡々と説明を始めた。


「なるほどね、理解したわ。私に謝らせようという算段でしょ。嫌よ、脅しが脅しとして効いていない以上、謝る気はないわ」

「アハハ随分と斜め上の回答をするね…にしても、それは残念だ。必死に許しを請う姿を見て見たかったが…」


少女は深いため息をつきながら目を閉じた。

そして、数瞬の間を置いた後、その輝く金色と、透き通るような青色の金銀妖瞳オッドアイが狂気の色を帯びながら開かれる。


「ボクが子の街を去る前に、ボクが気に入らないごみを殺そうと思ってね…」

「また脅しかしら?随分なことね…考えてもみなさいよ。ただの子供が大人に勝てるとでも?」

「勝てるさ……思い出したまえ先日の災害を」

「あ?いきなり何よ、ムカつくわね…」

「災害…あれを引き起こしたのがボクだと言ったらどうする?」

「は……?」


教室がまた静まり返った。教師の瞳が大きく見開かれ、唇はわずかに開ている。何度口を動かしても言葉になっていない。


「フフッ、面白いことを言うじゃない。そんなバレバレの嘘を信じるとでも思っているのかしら?」

「嘘じゃないさ、と言っても先生はボクのことを信じないだろうけどね」


そんな教師の様子を少女は面白そうに笑っていた。


「あれはね、羽虫があまりにも不愉快だったから、叩き殺そうとしたのさ」


パン! と手を合わせ虫を潰す仕草をする


「先生もそれ羽虫と同じ、まあ彼らは残念ながら、助けられて生きてしまっているけど、まあそれは許容するとしよう」

「な、何を言ってるの?ありえないわ!だってあんな…」


教師が震えた声で尋ねる。少女を見る目は恐怖にまみれていた。いきなりの殺害予告。


「あハハハ、本当の事だよ」


分からないというか、わかりたくもない…


しかし、算数の答え合わせをするように、ゆっくりと話し始める。


「別にボクだけが、傷つくのは良かったんだ。慣れているからね…

でも、彼に手を出すのはダメだよ、彼はボクの大切な…大切な人なんだ。彼は絶対に無傷な姿で手に入れる。どんな卑怯な手を使おうとも、どんなに非難されようとも…ね。

だから、ボクと彼との仲を邪魔する奴が一人でもいるとボクは安心できないんだよ。彼を手にいれるためなら、素のボクも受け入れることが出来る」


少女は狂気に満ちた表情を浮かべ、目は異様に凝縮していた。彼女の瞳からはいつもの輝きが失われ、ハイライトが消えたかのように暗くなる。


彼女の表情は歪み、狂気に満ちた笑みが顔を覆う。その笑みは不気味であり、教師に恐怖と不安を与えていた。


「だから先生…邪魔なあなたは、あの羽虫どもと同じように切り刻んで殺す」


教師の腕が、落ちた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


遅れてやってくる激痛。耐えきれない痛みが体を襲う。


「こ、この、ひ、人殺し!!!!」

「そんな、不名誉なこと言わないでくれよ、ボクはまだ人を殺せていないんだ」


少女のその異様な様子に腰を抜かしたようで、その場に座り込んでしまう。


少女はその様子を眺めながら肩をすくめながら、あきれた表情を浮かべていた。しかし次の瞬間――


「化け物よ!!あなたは!!この化け物め!!」

「そう、まだね―」

「ごぱぁ…ごふっ・・・あ…」


――教師の胸に深々と銀色に光るものが生えていた。そこから、じわじわと赤い領域が広がっていく。


「ごぼっ・・・」

「人間が一番刺されたときに苦しむ部位は肺だと言われているけど…どうかな?」


少女の問いかけに答えず教師は必死にもがく。


「あぁ、抜くのはあまりお勧めしないよ。なんせこの刃物には返しがついているからね」

「ごひゅ…」


少女のその言葉に、過剰に反応して刃物を手を放す。

その滑稽な姿に少女はまたもや嗤う。


「まあ、先生のその無様な姿をずっと見ていたいけど…残念ながらこれから用事があるんだ。」


そう言い残し、教室のドアの方へと歩いていく。


「じゃあね先生。今までありがとう」


「そしてさようなら」






§




ピーン、ポーン、パーン


駅校内に盲導鈴が鳴り響く。


「すまん。遅れたわ」

「しっかりしてくれよ。折角の別れなのだから」


口をとがらせながら、こちらを非難してくる碧唯。


そんな碧唯も可愛い…じゃなくて…


「ごめんて…」


あの後、碧唯は適切な施設で教育を受けることになったため、この土地から離れることになった。


両親とも別れ、寮で一人暮らしを始めるらしい。


「まあ、今度こそ元気でな」

「君こそ…」


お互い何も言わない無言の時間が流れる。


そうしているうちに、碧唯が乗る電車がホームへと入ってくる。


もう別れの時間が迫っていた。


「この一か月強、君と一緒に居れて、本当に楽しかったと思っているよ」

「そうか、それは何よりだ」

「でもね、ボクの願いは変わらない。あの日君に会った日からね」

「……」

「きっと、これはただの逆恨みと片付けられるだろう。ただの醜い感情と非難されるだろう。でも、ボクが苦しんだ分他人は苦しむべきだと思うんだ」


あれ碧唯さん?なんか目からハイライトが消えてますよ?


「不条理、不運、不幸そのすべてを他の人に味合わせる。そして、ボクだけが幸福を掴む。ボクだけが幸せなら…きっと君もボクから絶対に離れないだろ?だから、ボクはまだこの箱を開けない。のぞき込まない、一度開けてしまったらもう、きっと後には戻れないから」

「……そっか」

「…いやもっと、こうなんか反応があってみてもいいと思うんだけど…」


肩透かしを食らった気分になった碧唯である。もっと、反論までいかないまでも、たしなめる位はしてもいいんじゃないだろうか?本当にこいつはボクのことが好きなのか?


本当にわかっているのかい?という疑念の視線を向けてくる。その視線に罰が悪くなり頭をかく。


「どうせ、俺の心の内なんて筒抜けなんだから、言葉に出さなくても分かるだろ…」

「まあ、確かにね…」


碧唯にささげた、身の前の『あい』あれは俺の術式の一つである。


自分に縛りを掛けることで、俺は碧唯へと自分の術式の一部を文字通り捧げたのだ。


あいを司る術式。それは共感覚を起こす効果がある。


特定の人物の心情と共感覚を起こせるそれで、碧唯は俺の心を一日中覗いていた。


「どう?俺の心の中を四六時中観察した感想は」

「まあ、とりあえず安心はしたかな」


安心か。一度、信頼できなくなったら再度、信頼出来るようになるまで時間はかかるか…


信頼するから信じるではなく、安心するから信じる。他人を信じられなくなった碧唯に対する


似ているようでそこには大きな溝が存在する。願わくば、この世界で誰か一人でも信じられる人間ができて欲しいものだ。


「ま、これからだよ、これから。まずは自分をしっかりと制御できるようになってから、大層な野望を抱くんだな。それに、碧唯が俺に隠さず言ってくれただけでも嬉しな」

「隠すことは止めたんだ、もう後悔しないようにね」

「それはまた・・・」


碧唯の中で何か変化があったらしい。

電車の出発する合図が鳴る。どうやら時間切れのようだ。


碧唯が電車に乗り込む


「じゃあ、ボクは先に行ってるよ。君も早く来てくれよ?

そうでないと、ボクは――




――悪者になってしまうかもしれないよ?」




§




碧唯が、原作の地である、七芒都市に向かったその日。世間はある事件で持ちきりだった。


なんせ、小学生の担任の教師が何者かに殺されたのだ。加えて、その教師の身元を洗っていくと膨大な額の横領や、犯罪行為が埃のように出るわ出るわ。


マスコミがそれを大々的に取り上げているせいで、中々世間の熱は冷めない。


世間の注意を引いた、もうひとつの事実として、その教師の残虐な殺害方法があげられる。




死因――――


――――圧死。


プレス機に巻き込まれた虫のように、2次元平面になっている仏様が発見された。


クチャぐちゃに押しつぶされるという残虐な殺害方法であるため、警察は怨恨の類で捜査を進めるという。

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