雀のゆりかご

物部がたり

雀のゆりかご

 靴に足を入れると、羽毛のような肌触りが親指の先に感じられ、靴をひっくり返すと鳥が出た。死んで硬くなっていた。不思議なこともあるものだと、れいは思った。

 れいは鳥が持っているやもしれぬウイルスなどの危険も考えず、恐る恐る鳥を持ち上げた。見た目に反してずっしりとしているのに、れいは驚いた。

 鳥の亡骸で遊ぶわけではないが、れいは好奇心から慎重に鳥の硬直した足を開いてみた。関節の可動域に合わせてスムーズに動く。人工的に作られた関節人形などとは違う、本物の動きである。


 一通り観察すると、鳥の羽ならまだしも、鳥本体がどうして靴に入っていたのかという疑問が湧いてきた。鳥が靴に入るなど、とてもおかしなことだ。

 誰でも名前を知っている、カラスと並んで最も知名度の高い雀である。雀が人の靴に入る習性があろうはずもない。どうして空を飛ぶ雀が、地面を歩くための靴の中に入るのか、ますますわからない。

 れいは名探偵の真似をして、その不可解な謎を推理してみることにした。五分ほど考えて、三つほどの仮説を立てた。

 

 仮説一「猫やタヌキやキツネや犬が靴の中に獲物を隠した」

 仮説二「自分のことを嫌う誰かが嫌がらせをした」

 仮説三「何らかの原因で深手を負った雀は、隠れる場所を求めてこの狭くて暗くて安全そうな靴の中に逃げ込んだ」

 どの説もなくはないが、仮説二だけは考察究明の余地なく問答無用に除外した。

 考えられる説は一と三に絞られるが、れいは仮説三だと「悲しいな……」と思う。


 もし重傷を負った鳥が最期の力を振り絞って身を隠せる場所を探し、やっと靴の中に潜り込んだのだとして、雀は命尽きるその瞬間までこの臭くて狭くて暗い場所で、家族とも逢えずに死んでしまったのだとしたら、悲しい。

 もうこの際真実はどうでもいい。雀の墓場が靴の中だというのは可哀想だ。れいは雀の亡骸を埋めてやるべく庭に出た。靴の中はまだ少し、雀の感触が残っていた――。

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