第38話 ふたりの一歩目

 急に問い掛けられて紅葉も史織も困惑しているようだ。

 二人とも少し考え込んでいたが、史織はちょっと首を傾げてから、口を開いた。


「ん~~~、アタシは紅葉ちゃんと鈴鹿ちゃんと一緒にいられるならそれでいいにゃー」


「うむ、一緒に強くなろうぞ」


 鈴鹿がテーブル越しに史織に手を伸ばすと、体を乗り出した史織が手を握り返す。

 そういえば、寮で同室の紅葉と仲がいいのは分かるが、鈴鹿のこともやたら気に入ってたな。

 変な子だ。


「ねーねー、やっぱりこの子頂戴」


「だからあげませんって」


 史織は特に職にはこだわっていないみたいだ。

 だとしたら、運動神経もよさそうだし、槍の使い方もすぐに基礎を覚えたから、基本職から始めるのではなく、槍系の上級職に就いて貰おう。

 派生先も多くて汎用性が高いのは騎士だが、どうしてもさっきの骸骨騎士を思い出してしまう。

 刀に興味を持っていたし、侍もいいかもしれない。

 騎士も侍も人気職なので、条件の解明は十分にされているから、それほど苦労しないだろう。


「にゃーー助けて欲しいのじゃ~~~」


 色々考えている間に史織が鈴鹿の席にやってきて、抱き着いて頬ずりしていた。

 鈴鹿が逃げ出してきたので、抱き上げて膝の上に座らせると、史織が指を咥えて名残惜しそうにして、周りをウロウロしている。

 これは僕のです。


「あ、あの……」


 悩んでいた紅葉がおずおずと片手を上げた。


「決まった?」


「私、魔法が使えるようになりたいんです」


「じゃあ魔法使いかな?」


「いえ、あらゆる魔法を使えるという大賢者マスター・セージです」


大賢者マスター・セージ? 聞いたことのない職業だな」


「紅葉ちゃん、良くそんなの知ってたね」


 史織が紅葉の隣に座り直して聞いている。


「あ、はい。おかあ……いえ、母から勧められたんです。あなたは絶対に大賢者マスター・セージを目指すべき、って」


「お母さんもこの学校の卒業生なんだ?」


「詳しい話はしてくれなかったですけど、そうらしいです」


 他にもうちみたいな家はあるのか。

 でも、装備は貰えなかったのかな。

 そこの部分は聞いちゃいけないような気もするが、気になる。


「親御さんは武器や防具は用意してくれなかったのかや?」


 おーっと、鈴鹿が容赦なくぶっこんだ!


「いえ、賢者の杖というのは頂いたんですが……」


 そうか、杖だから魔法が使えないと意味が無いのか。


「はい、だから部屋に置きっぱなしです」


 なるほどね、なんで最初から前のめり気味だったのかがこれで分かった。

 早く親の願いを叶えて、杖が使えるようになりたかったんだ。


 しかし、大賢者マスター・セージねえ。

 多分賢者セージから派生するんだろうけど、手帳にはまず賢者自体が載っていない。

 これも図書館で調べないとダメだな。

 だとしたら、明日の昼休みは図書館に行こう。


「図書館は私も興味があります」


「みんなが行くならアタシも行く~」


「漫画の続きが読みたいのじゃ」


「じゃあ、昼食の後に行くとするか。しかし、二人とも本当にうちの戦闘班チームに入るということでいいんだな?」


「パワーレベリングまでして貰って、今更断るなんてありえません」


「チョー感謝してるから」


 手帳によれば、戦闘班チームでもパーティーでもクラブでも呼び名は何でもいいが、結成した時は所定の申請用紙に記入して、学校に届け出を出す必要がある。

 名前が複数あるのは、昔から長く続いている派閥が複数あって、それぞれが違う呼び名なので、統一できないそうだ。

 学院では一応数人程度だと同好会、人数が五人以上でレベル10以上のメンバーが属していれば部と呼んでいるので、そこまではまだ時間がかかりそうだ。

 部になれば、実績に応じてサークル棟にある部屋とポイントを与えられるので、マジックバッグを持っていないうちは、武器や防具置き場として重宝する。

 まあ、今はとりあえず同好会で申請して、暫くはこの四人で初級迷宮に潜って、行ける所まで行ってみよう。


 そう伝えると、紅葉と史織が顔を見合わせる。


「いきなり初級、ですか?」


「ああ、さっきも行って来たけど、普通の敵は多分二人でも大丈夫だ」


「え、さっきって……」


「いつの間に……」


 二人が寝ている間に時間はたっぷりあったからな。


 初心者用迷宮は効率が悪すぎる。

 初級の方が稼げるし、スケルトン相手なら二人でも大丈夫だ。

 骸骨騎士がでてきたら多分無理だが、その場合はヒットポイントが無くなって出口に自動転送されるので、脱出用アイテムを切らさないようにするのさえ気を付けておけば大丈夫だろう。

 残金で三階を突破するためのアイテムを買って、さっさと下の階に行こう。

 次に骸骨騎士にあった時には、もっとましな戦いができるように。

 それと、二人をレベル10に上げて、仲間探しをしないとな。


 大体の今後の方針は決まったかな?

 全員に確認するが、特に異存はない模様だ。


 よし、もう時間も遅いし、そろそろ寮に戻って明日のために寝るか。


「あっ、あの、私たちは」


 また紅葉が真っ赤になっている。


「ああ、うちの寮のゲストルーム使用申請を出しておいた」


 寮母さんから預かった鍵を渡す。

 寝るだけなら、一泊500ポイントと格安だった。


 紅葉が赤くなってごにょごにょ言っている間に、史織が鍵を受け取ると紅葉の手を引いて立たせている。

 おばちゃんにお礼を言って、購買を出て、ふと足を止めて満天の星空を見上げる。


「どうしたのじゃ?」


「ああ、やっと一歩目を踏み出したような感じだな、と思って」


 それを聞いて、ニパっと笑う鈴鹿。


「そうじゃな、ちゃんと約束を果たしてくれるのを楽しみにしておるぞ」


「ああ、やっと第一歩、でもちゃんと自分の足で踏んだ一歩だ。これからも一緒に進んでくれるか」


「当然じゃろ」


 小指をすっと突き出す鈴鹿。


「約束じゃもの」


 鈴鹿の小指に自分の小指を絡ませる。


「ああ、約束だ」

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泉開坂迷宮学院探索科~のじゃロリ鬼っ子と現代ダンジョンで神話再現のために無双します 藤士郎 @fuji4ro

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