第24話 紅葉達の初戦闘
中に入ると、入り口近くには数人の生徒たちが見えた。
ゴブリンもいないので、少し離れた所にある小部屋へと移動する。
「まあ2時間もあればクリアできるだろう」
「クリアって」
紅葉と史織の二人に迷宮手帳を見せる。
「これは知ってる?」
二人とも首を横に振る。
初心者用迷宮と初級迷宮の概要が書いてあることと、購買で買えると告げると、何でそれを最初から配らないのかと自分と同じ反応が返って来た。
憶測だが、こういった情報を自分で調べて入手するのが、将来的に必要となるのだろう。
あちこちにヒントは出しておくが、その後は自分で見つけ出さなければならない。
「お二人は最初からその手帳を持ってらしたんですか?」
「いや、図書館にヒントがあった」
「図書館ですか」
紅葉が考え込んでいる。
「あーもー、紅葉ちゃんは本が好きすぎなんだから!」
戦っているよりは図書室にいる方が似合いそうな雰囲気があったが、やはり紅葉は本好きだったのか。
後で図書館に連れて行ってみよう。
それはともかく、ギャル子ちゃん改め史織はどんな武器が向いているか分からないので、スケルトンから入手した槍を手渡しておく。
運動神経は良さそうだから、基本を教えればそこそこ使えるだろう。
何に向いているかは、おいおい探っていけばいいし。
「これはどこから」
紅葉と同じように驚いているが、口留めだけしておく。
次に自分の刀を取り出す。
「あ、刀じゃん、カッコイイ!」
史織の食いつきが良い。
刀剣女子かな?
「アタシも刀がいいな~ちょうだい」
「刀は意外と使うのが難しいぞよ、今日は諦めい」
「えー」
不満そうだが、槍を腰のあたりで構えてみてしごいているのを見ると、まんざらでもなさそうだ。
槍の突き方は、腰のあたりで固定して足の動きで突くのと、左手を筒にしてその中を滑らせるようにするのだけ覚えておけば、今は良いだろう。
簡単な使い方を教えると、センスがあるのか呑み込みが早い。
これなら、実戦に移っても大丈夫そうだな。
最短ルートを選んで、足早に階段に向かって進む。
途中、他の生徒がゴブリンを囲んで警棒で袋叩きにしているのが見えた。
紅葉が一瞬息を呑んで硬直するが、手を引いてその場を急ぐ。
手を掴まれてアワアワしているのを、史織と鈴鹿がニヤニヤしながら見ているが、それより先を急ごう。
地図に従って階段に近いルートを暫く進むと、遠くにゴブリンがいるのを見つけた。
「!」
紅葉が大きな声を出しそうになるのを塞いで、まずはロングメイスを構えるように指示して、その横に史織に槍を持って待機させる。
ゴブリン程度の攻撃ならロングメイスで対応可能だと理解させ、紅葉の恐怖心を取り除くのが最初の目的だ。
鈴鹿がそーっと背後の警戒に入り、自分は紅葉の肩に手を置いて構えを維持させる。
小石を取り出すとゴブリンに投げ付ける。
「グギャ!」
小石、いや拳大の石が顔面にめり込み、その場に倒れるゴブリン。
「「え?」」
そのまま粒子になって消滅する。
「ちょっとやり過ぎたかな?」
「やり過ぎじゃ」
「いや、遠距離武器は効かないって聞いていたし、石投げたぐらいで死ぬとか思わないだろ、普通」
「あ奴らはひ弱なのじゃ、ちっとは手加減せよ」
「へいへい」
「ひ弱、って……」
紅葉たちが絶句している。
まあ、不幸な事故だ。
前に進もう。
それほど待つまでもなく、次の曲がり角にゴブリンが佇んでいるのを見つけた。
ちょうどこっちを向いていて、ゴブリンが駆け寄ってきたので石を投げるまでも無かった。
持っているのは粗末なこん棒だ。
思わずビクッとする紅葉だが、肩に手を置いて構えを維持させる。
まだ耳が赤いが、落ち着いたようだ。
教えた通り、ロングメイスの先を地面すれすれに付けた下段の構えでゴブリンを待っている。
ゴブリンがドタドタ不器用に駆け寄って来るのを見て、大きく深呼吸する紅葉。
ふっと息を吐いて、強張っていた体から力が抜けるのが分かる。
「鈴鹿ちゃんに比べたら全然怖くない」
ほっとしたような声を漏らしたので、背後で鈴鹿の笑い声が聞こえた。
「あの程度、恐るるに足りんぞよ」
「はい!」
ちらっと見ると、史織もやや顔色が青いが、槍をきちんと構えている。
あっちは、それほどゴブリンを怖がっていないように見える。
ゴブリンが警戒もせずに、攻撃範囲内に無造作に踏み込んできた。
「今だ」
紅葉の右手に軽く触れると、教えた通りに右手を下げる。
メイスの先端がスッと上がり、ゴブリンの股間に命中、柔らかい物が潰れるような鈍い音が響いた。
「グゲェ!」
絶叫と共にゴブリンがこん棒を投げ捨ててうずくまる。
あれは痛い。
「追撃じゃ!」
鈴鹿の鋭い声が飛ぶ。
言われた通り紅葉が右手を上げる。
今度はメイスがゴブリンの頭に命中する。
「よし、それを繰り返して。史織さんは教えた通りに槍を!」
「「はい!」」
紅葉が歯を食いしばりながら機械的にメイスの先を上下させ、ゴブリンの頭を殴り続ける。
紅潮していた顔がやや青くなっているが、調子はずれの打楽器みたいな音が響いている。
史織も腰で構えた下段のまま、穂先を下げてゴブリンに向ける。
「今だ、突け!」
号令を掛けると弾かれたように右手だけを動かし、左手の中を滑らせて槍を突き出す。
うつ伏せになっているゴブリンの背中に槍の先が僅かに突き刺さるが、刺しきれなくて穂先が滑った。
「硬いよ、コイツ!」
隙を見てゴブリンが起き上がろうとするが、その度に頭を殴られ、動けない。
「あ!」
横へ転がって逃げようとしたので、紅葉の肩から手を放し、ハルバードを取り出して先端の槍と斧の部分でゴブリンを押さえつける。
逃げ場のなくなったゴブリンが、手で頭を庇おうとするが、史織の槍が邪魔をした。
また紅葉のメイスが頭に命中、鈍い音がする。
一度槍を引く史織、動きに慣れてきたのか槍を固定したまま、強く前に踏み出した。
体重の乗った一撃によって、今度はしっかりと突き刺さり、一瞬後ゴブリンが粒子になって消滅した。
紅葉のメイスが宙を切って床に当たる。
「消えた?」
手を止めて呆然とする紅葉と史織。
「良くやったの。これが報酬じゃ」
ゴブリンの小さな魔石を拾い上げ、二人に見せる鈴鹿。
「倒せた?」
「やったじゃん、紅葉ちゃん!」
「うん、倒せた……」
放心している紅葉に史織が抱き着く。
この子、抱き着き癖があるのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます