第23話 新キャラ即加入
授業の合間に迷宮手帳をペラペラとめくると、図書館で見たよりも詳しい情報が書いてある。
前にも思ったが、全員に配るべき内容だろう。
間違いなく、これがあれば初級迷宮までは対策を講じながらさくさくと先に進める。
昨日苦戦した三階の虫どもも、思った通り火系の魔法があれば楽勝だ。
それがなくても、火を放つアイテムを買えばいい。
武器屋の火炎弾が一番手っ取り早いので、幾つか買っておこう。
他にも虫よけを使えば羽虫も近寄らなくなるから、蜘蛛の糸を欲しがる人以外にはスルーされる階層らしい。
脱出用アイテムも初級上層階用は僅か1万ポイントで買えるのも分かったから、それを使えば脱出したのと同じ階層からスタート可能だ。
クリアしてしまえば、また虫迷宮を通る必要はなくなる。
さっさと先に進むのも必要だが、幸いにも仲間を増やせるチャンスだ、何とかしてみよう。
× × ×
放課後、購買の裏のベンチに向かう。
購買の周囲には背の高さほどの植え込みがあって、昨日紅葉に練習を付けた場所は、それなりのスペースがありつつ、周りからはあまり目立たなくなっている。
「アンタが紅葉ちゃんと修行するってヒト?」
誰もいないと思ったら、金髪にピンクをメッシュにした癖っ毛ポニーテールが先に待っていた。
吊り目で気が強そうな感じだ。
「君は?」
「紅葉ちゃんと同室の
おやおやおや、それはそれは、そこまで練習するとは思ったよりも根性がある子だったらしい。
これは有望だな。
「しかもなんか変な武器もってるじゃん。気になって問い詰めたら、アンタが戦う方法を教えてくれたって。どんな下心があるの?」
「下心って……」
まあ、下心は全然無かったが、色々柔らかかったのは青少年には刺激が強すぎたのも確かだ。
どう言い訳しようとかなあ。
「ぬし殿は別に下心なんてないぞよ」
「えっ、あっ」
自分の後ろに隠れていた鈴鹿には気が付かなかったみたいで、プンスコしながら出てきたのに驚いている。
「うっわーーーチョー可愛い~、えっ、誰、この子」
「うっぷ、ぬし殿~助けてたもれ~」
鈴鹿が胸に埋もれている。
史織と名乗った子は、派手な髪にラフな感じだが不思議と下品じゃない着こなしの制服、カーディガンを腰に巻いて短いスカートと、ギャルっぽい雰囲気がある。
吊り目に八重歯でに癖っ毛だから、大型の猫っぽい感じもある。
紅葉とは対極で、運動神経は良さそうだ。
布を抜いているのか、セーラー服の胸元が大きく開いて、そこに鈴鹿が埋まってジタバタしている。
こちらもなかなかの持ち物のようだ。
鈴鹿が本気で苦しそうなので、止めに入る。
「こらこら、うちの鈴鹿から離れなさい」
「やだーこのこつれてかえるー」
ぬいぐるみを抱えるように鈴鹿を胸に抱き込んで、左右にブンブンと振っている。
「助けてなのじゃ~」
ここはもう実力行使するしかないか。
タイミングを見計らって、腕をつかむ。
「えっ、ちょ……」
そのまま、軽く腕をずらして、巨大なマウンテンに埋もれていた鈴鹿を何とか無事救出するのに成功した。
あの登山は大変そうだ。
つかまれていた腕が痛かったのか、さすりながらほっぺたを膨らませた。
「むー、その子は?」
「うちの妹です」
「ください」
「上げません」
「じゃあ、アタシも仲間に入れて下さい」
綺麗な土下座を決めるギャル。
この子、なんか所作がいちいち綺麗で、ギャルっぽくない。
高校デビューとか言うアレかな。
ニワカギャル子と呼ぼう。
「えっと仲間って……」
「紅葉ちゃんも仲間にする気なんでしょ。何でもするからアタシも入れて」
女の子が軽率に何でもとか言っちゃいけません。
ちょいちょいと鈴鹿が横から袖を引っ張ってきた。
「ぬし殿……?」
「鈴鹿はどう思う?」
ドヤ顔になる鈴鹿。
「まずはお試しからじゃな」
「わーい、ありがとー!」
鈴鹿に飛びつくように抱き着いた。
「ぬわー、だからそれはやめるのじゃーーー」
「あれ、お試しってナニする気なの?」
ニシシと意味ありげに笑うニワカギャル子。
「何もしません!」
「
突然声が響いた。
息を切らせた紅葉が駆け寄ってきて、この混沌な様子に目を丸くしている。
「紅葉ちゃん、アタシも仲間に入ったよ!」
「ええーー、仲間って?」
「もう決めたし、この人らのパーティーに入れて貰うって!」
困惑する紅葉。
「あの、私まだ武器の使い方教えて貰っているだけで……パーティーとかは……」
「えっ、そうなん?」
「うん、そんなのお願いするとかまだ早いというか……どんな人かよく知らないし、それに私なんかでいいのかって」
下を向いてもじもじしている紅葉に、ガバっとしがみつくニワカギャル子。
うーむ、両方ともマウンテンの圧が強い。
プレートが動いて大造山運動が起きているようだ。
危なく山の間に挟まれそうになった鈴鹿が、何とか世紀の大脱出に成功して、慌ててこちらの後ろに逃げてくる。
だが、マウンテンからは逃げられなかった!
「鈴鹿ちゃん、パーティーに入れてよ!」
恐らく自分よりも早く動けるはずの鈴鹿に動く暇も与えず、ニワカギャル子が胸に抱え込んだ。
タツジン!
これはニワカギャル子などと呼ぶのはおこがましい。
ギャル子ちゃんとお呼びせねば。
「のわーー離すのじゃ!」
「やだー、パーティーに入れてくれないと離さない~」
鈴鹿に抱き着いたまま、がくんがくん揺すり始めるギャル子ちゃん、頭がぐわんぐわん揺すられて大変なことになっているような……。
「やめるのじゃーーーー」
「入れてくれるまでやめない~」
「入れる、入れるからーーやめるのじゃーー」
いや、まだパーティー組んでないから。
勝手に物事が進んでいるし、そろそろ止めるか。
「あー、二人とも、まだパーティー作るとは言ってないんだけど……」
「「なんですと!?」」
あ、見事にハモった。
「ぬし殿、まあいいんじゃないか? そのぱーてーとかに入れてやっても。どうせ仲間は募るつもりだったんじゃろ」
「まあそうだけど……」
ガリガリと頭をかいて、決断する。
「じゃ、二人が良ければうちのパーティーに入ってくれるか」
「「はい!」」
即答だった。
浅茅先生がわざとらしく言っていたし、下手に修行を付けるよりはこれはさっさと迷宮に連れて行った方が良いだろう。
ならば宜しい。
お楽しみのレベリングの時間だ。
自分たちが全然レベル上がった気がしないし、他の人との比較はしてみたかったんだよな。
授業ではまだちゃんとやっていないが、迷宮で敵をある程度倒せばレベルが上がるはず。
なのに上がらないのは、何が足りていないのか。
敵のレベルが低すぎるのか、何か他の理由があるのか、それが知りたい。
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