第8話 購買部と武器屋

 校舎棟と道路を挟んで反対側、ちょっとしたロータリーがある奥、広い敷地にポツンと建っているクリーム色の武骨な二階建てが購買だ。


 低い階段を上がると、二重扉の入り口があって、中に入るとすぐ有名チェーンのコンビニがあった。

 建物内にあるコンビニなので、ドアとか無くて正面は広く開放されている。

 レジの前には段ボール箱に入ったままのスナック菓子とカップ麺が大量に積まれ、レジのホットスナックコーナーも種類が実に多彩で量も多い。

 何せ中華まんのスチーマーが4つも並んでいるぐらいだ。

 全国から生徒が来るせいか、有名メーカーのカップ蕎麦とうどんが関東風と関西風の両方置いてあったり、地方ローカルのカップ麺があったり、ただ見ているだけでも面白い。

 育ち盛りの学生に必須の食べ物飲み物お菓子に加え、他にも文房具や生活用品が一通り置いてある。

 書籍コーナーも充実していて、各種漫画誌や新刊コミックやラノベが置いてある。

 あれ、でも参考書とか辞書とか買いたくなったらどうするんだろ。

 

 こちらの疑問をよそに楽しそうに見ている鈴鹿だが、ぴたと足を止めた。


「ぬし殿、チョコが欲しいぞ」


 指差す先には、有名メーカーの平凡な板チョコがあった。

 鈴鹿がうちで暮らすようになって、運動後には一緒にお菓子を食べていたが、特に苺とチョコが大のお気に入りだ。

 実家の近くにはコンビニとか無かったから、鈴鹿は見るもの全てが珍しいみたいだが、個性的なチョコには目もくれず、ごく普通の板チョコを欲しがっている。


「後でな」


「むう、鈴鹿は我慢ができる良い子なのじゃ」


 小さく唇を尖らせた鈴鹿の頭をガシガシと撫でる。

 今は学生服姿だから立烏帽子は無いし、角も前髪で隠れている。

 ちょっと髪が盛り上がってエアインテークのようになっているのが面白い。


 隣の店では、制服や運動着、Tシャツや下着、ブーツに安全靴、トレッキングシューズにジョギングシューズ、運動器具などの服やスポーツ用品系と、カラーボックスや折りたたみコンテナ、小さな棚、ちょっとした工具とかホームセンターっぽい物が売られている。

 更に奥は、小さなスペースだが書籍やCD、ちょっとした家電におもちゃ類がある。

 参考書や辞書の類は大体ここで揃うが、無いのはスペース入り口にある機械で注文すれば、入荷可能な物なら数日後に届くという。


 買取の店員さん曰く、ここで売ってない物は、正門近くに雑貨屋や何でも屋とか鍛冶屋があるのでそこに行けば何とかなるが、そっちは授業に必要な物ではないので、全体的に割高だとか。

 先輩方が不用品を出しているフリマもあるので、参考書の類いはそっちの方が狙い目とも教えて貰った。

 

 通路を挟んで反対側には、他ではめったに見ることのできない光景が広がっている。

 ずらっとデパートのようなショーウィンドウが続いており、飾られているのは服や宝石ではなく様々な武器や防具だ。

 豪華な装飾が施された刀、曰くあり気な黒に金の象嵌の直剣、禍々しいがどこかスタイリッシュな大鎌、グリフォンと竜が描かれた白銀の盾、同じく白銀に金の装飾の全身金属鎧、和風の大鎧もあるな。

 何かの生き物の頭蓋骨が先端に付いた杖は目が赤く光り、口がガチガチと動いて瘴気のようなものを吹き出している。

 結構凝ったギミックだ。

 鈴鹿がショーケースに張り付いて杖とにらめっこをしている。

 変顔を見せると、杖の頭蓋骨が大きく口を開けた。


「これ、面白いの」


 うちの鈴鹿をニコニコさせるとは、頭蓋骨のくせになかなかやる奴だ。

 鈴鹿の玩具にいいかもしれない。

 値段は……ひーふーみーよー……ゼロがたくさんで……5,000万ポイントかよ。

 あっちの刀で1,000万ポイント、いや1億ポイントか、重要文化財クラスだな、かけらも手が出ないぞ。


 中に興味を持った鈴鹿が入り口に駆け寄るが、自動ドアが開かない。


「む、開かぬぞ」


 ドアの横に電子ロックがあるのに気が付いて、生徒手帳を手にぴょんぴょんジャンプする。

 だが、全然届かない。

 苦笑しながら抱き上げると、鈴鹿がむーっと膨れるのが可愛い。

 鈴鹿がタッチすると扉が開き、自分も触れて中に入る。


 中はまさに武器庫だった。


 入り口近くには体育用具を入れるような籠に無造作に剣や槍、棍棒や打撃武器が放り込まれていて、横には盾が大きさ毎に積み重なっている。

 壁際の棚には剣道の防具のような簡素な胴鎧、手甲や脚甲などが整然と並んでいる。

 奥には西部劇のようなスイングドアがあって、向こうはもっと広い空間になっている。


「西洋風の武具ばかりじゃのう」


 ひょいっと一振りの剣を籠から取り出す鈴鹿。

 シャリンと鋭い音を立てて鞘から抜くが、ため息を一つつくと元に戻す。


「随分と簡単な造りじゃの。なまくらとは言わんが、数打ちの大量生産品じゃな」


「まあそうだろうね、新入生向けの安物なのは確かだ」


 籠には『新入生お勧めセール』と書かれているし、実際そうなんだろう。

 最初の一か月は学校が警棒を貸し出してくれるが、以降は自分で武器を購入する必要がある。

 警棒や六尺棒は1万ポイントか。

 剣や槍もゴブゴブ迷宮よりちょっとは良さそうなのが、5万ポイント程度だ。

 雑魚ゴブの魔石が40分で千ポイント近くになったから、多分一週間もあれば最低限の武器は買えるんだろう。

 他にも武器を持ってきている生徒もいると思うし。


「弓が無いの」


「そういやそうだな、ゴブリンは使っていたのに」


「それは、個人防壁ヒットポイントを減らすのに遠距離武器は向いてないからさ」


 突然入り口横のレジカウンターから声がする。

 さっきまで気配すら無かったのに。


「えーっと、あなたは……」


 その瞬間、緊迫した声が響く。


「ぬし殿、こやつ強いぞ」

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