第7話 魔石と買取受付
はっと気が付く先生。
グリンと音がしそうな勢いで、嬉しそうにジュースを飲んでいる鈴鹿を見る。
「そっちの子も?」
「うむ」
ジュースを名残惜しそうにテーブルに置いて袖口を漁ると目当ての物が無かったのか、暫し考えてポケットからメダルを取り出す。
「本当に二人ともボスを倒したんだ……初めてダンジョンに入ったばっかりなのに」
ため息をつきながら感嘆したような、呆れたような声を絞り出す浅茅先生。
「これは何ですか?」
「これは攻略証よ、こうやって……」
生徒手帳にメダルを乗せると、ピロンと電子音が鳴る。
「む、なんじゃそれは、楽しそうじゃの」
自分の生徒手帳を取り出して、メダルを乗せる鈴鹿。
やはり電子音が鳴ったのを見て、ニコニコしている。
「これはチュートリアルのレベル0迷宮をクリアしたという証拠で、初級迷宮に入る資格を得たことになるわ」
「初級?」
「ええ、この学校には初心者用、初級、中級、上級と沢山の迷宮があるのよ。初心者用と初級は門が同じなので、迷宮門に生徒手帳をタッチすれば初級に行けるようになるわ」
「じゃああの手ごたえのないゴブゴブ迷宮はもう入らなくて良いんですね?」
「手ごたえがないって……あなたたち、どこかで他の迷宮に入っていたの?」
額に手を当てて、心底呆れた顔をされた。
心外な。
あの程度、うちの蜂の方がよっぽど手強かったぞ。
「迷宮は初めてなのじゃ」
「ええ、両親に修行をつけられていたぐらいです」
何か言い掛けてスマホに目を落とし、納得したような顔を浮かべる。
「ああ、ご両親ともうちの卒業生なのね、じゃあ仕方ないかな。でも、今日のことは他の生徒には内緒にしておきなさい。トラブルになるから」
「それはゴブゴブ迷宮の詳細も」
「当然よ。本来は夏休みまでにクリアするのを目標とする所ですもの。入学早々にクリアされたなんて聞いたら、みんな心が折れちゃうでしょ」
なるほど、詳しい話を聞くとあの退屈だったゴブゴブ迷宮が基本的な戦い方を学ぶチュートリアル用でレベル0、初級迷宮がレベル1~10程度、その上に中級、上級、特級とあり、更に上の超級だの極級だのは、学校の授業では普通はそこまで行く人間はいないとのこと。
昔、学生時代にあっさり踏破した人間もいるらしいが、何となく両親たちの顔が頭に浮かんだ。
カード式の生徒手帳に内蔵されたチップは、生徒の個人情報やポイントを記録するだけではなく、迷宮の魔力変化によって出現したモンスターレベルと種類、減少した魔力量で倒したかどうかを計測、また魔力濃度によって何階層まで到達したなどを記録している。
この階層記録がなければメダルを読み込んでもエラーになるので、未攻略の人間をクリア扱いにするのは不可能だそうだ。
まあ、やっぱり対策はされているんだな。
そうでなければ、このメダルを貸し出して初心者を他の迷宮に連れて行き放題だ。
他にも、生徒手帳は門と連動して前回脱出した地点まで転送してくれたり、非常時に自動で脱出させてくれたりするそうだ。
何気に便利だ。
今後行ける迷宮が増えた時は、自動的に前に入っていた所になるが、別な迷宮に入りたい場合は入る前にここの店員に転送先をセットしてもらう必要があるとのこと。
口調からはどうやら別な方法もあるっぽいが、それはしばらくは考える必要はないのだろう。
中級以上は別な門を使うので、当面は先輩たちとかち合うことはないらしい。
だったら、今のうちが稼ぎ時だな。
あ、そうだ。
「もし良かったら教えて頂きたいんですが、鬼が出る迷宮ってありますか?」
「鬼? 鬼ってあれでしょ、赤かったり青かったりして角があって虎のパンツにトゲトゲ棍棒を持った」
考える時の癖なのか、下唇に人差し指を当てて下から押しているので、ちょっと変顔になりつつ考える浅茅先生。
美人さんというよりは可愛いというか、頼りなさそうな顔付きが面白いことになっているけど、本人は気が付いていないのかな。
「そうねえ、最近の迷宮はゲームの影響なのか知らないけど、ゴブリンとかオークとかが多くて、和風迷宮は中級に行かないと無いわね」
「中級ですか」
「ええ、中級に羅城門迷宮と
「大人気なんですか」
「大人気なんです」
真顔で聞くと真顔で答えられた。
なるほど、当面の目標は中級迷宮に入れるようになることだな。
大人気らしいから、『
それに
鈴鹿のためには絶対に行く必要がある。
「あなた方は一学期の課題をクリアしちゃったけど、授業はちゃんと出なさいね。迷宮に入る上で必要な内容が多いから」
「はーい」
良い返事を返しておく。
「返事はいいわね……それと魔石はあっちのカウンターで買い取ってくれるから。この後寄って行くといいわ」
カウンターを指すと立ち上がって、コーヒーを手に出ていく浅茅先生。
そういや下の名前は何て言ったっけ。
自己紹介で聞いたような気がするけど、忘れた。
コーヒーとイチゴジュースは先生のおごりだった。
ありがたい。
店員さんが興味深げに色々聞いてきたけど、適当にお茶を濁しながら魔石をレジカウンターに置く。
結構な量に驚かれたが、あくまでも入学直後としては珍しい程度の量だそうだ。
先輩方の中には、数日潜り続けてカウンターから溢れるぐらい持ってくるのもいるとか。
魔石は迷宮の外では劣化していくので、こうして買取口を門のそばに設置して少しでも劣化が少なくなるようにしているので、出たらすぐに来るように言われた。
「それと壁に掲示板があるから、こまめに見ておくといいわ」
掲示板には上級生や学院、外部の業者からのクエストや、パーティーのメンバー募集、武器や防具、素材の交換や購入依頼が定期的に出されて、たまに学院や生徒会からの新入生救済クエストなどもあるので、余裕がある時は見ておくのを推奨された。
「まあ要するにここは、お話で出てくる冒険者ギルドね」
「なるほど、わかりやすいです」
正式名称は買取受付だそうだが。
別にいらないからボスの魔石も出したけど、たったの1,000ポイントにしかならなかった。
雑魚の魔石が970ポイントで、全部合わせても食堂で鈴鹿とご飯を食べたら無くなる程度。
生徒手帳にチャージされたポイントは、1ポイント1円相当としてこの学内と周辺店舗で使える電子マネーだ。
なんでポイントなのかと聞いたら、税金の都合だそうだ。
詳しい話は良く分からないけど、ポイントにすることで学内で上手いこと処理しているらしい。
「鈴鹿、ポイントどうする?」
「ぬし殿に任せる。お菓子を買ってくれればそれでいい」
「分かった」
会話を聞いて店員さんがニヤニヤしている。
まあ、元々財布は一緒で、鈴鹿が必要なものは最初から自分が出すから良いんだけど。
ついでに店員さんに迷宮から出た武器について聞いてみたら、それは購買に行くように言われた。
地図も見せてくれて、いたせりつくせりだ。
「しかし入学早々ここと購買を使う生徒がいるなんて、久しぶり」
「そうなんですか?」
「まあね、腕自慢が勝手に入って怪我して放り出されるのがオチだけど、たまにあなたたちみたいなのがいるのよ」
「なるほどなー」
「そうなんですよ~昔一週間で中級まで行った人もいたそうですからね~」
何となく詳しい話は全く知らないがやりそうな心当たりがいる。
知らんぷりしておこう。
受け取る物を受け取って、お礼を言って店を出る。
「またのご利用お待ちしております~」
店員さんが手を振って見送ってくれた。
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