第4話 産声
ティアが目覚めると、そこはまた暗闇の世界だった。
……また、これなのです。
ティアがいつものように数を数える意識を探そうとすると、その意識は見当たらない。
そういえば、私は意識を失ったのです。
あれは夢じゃなかった……のです?
じゃあ、あの光はどうなったのです?
そんなことを考えていると、いつもと違う感覚を覚える。
なんだか身体があるような気がするのです。
何かに包まれてるような……
いつもはもっと悲しいエネルギーの波のようなものを感じるのに、今はそれが和らいでいるのです。
なんだか幸せなのです。
ティアは幸せな気分を楽しんだ。
この永く続く悲しい暗闇の世界で、こんなに幸せな時を過ごせたことは、今までになかったかも知れない。
時が少し経ち、ティアはまた数を数えることにした。
前の数値は覚えているが、リセットしてもいいと思っていた。
また身体に意識を集中させれば、あの光に会えるかもしれない。
しかし、ティアは期待をしてから傷つくことが怖い。
まずは、疲労感を探るのを1番の目的にした。
そして、数を数える意識と疲労感を探る意識を増やす。
そして、前回の意識を失った時の感覚を思い出し、ゼロの数値を再設定する。
今は、数を数える意識だけを増やしていく。
ティアの意識が増えていく。
今度は20個を超えても、力の抜ける感じはしない。
ということは、何を考えるかによって、力の減り方が違うということなのです。
複雑な思考の意識は大きく力を使い、単純な意識はそれほど力を使わないのです。
どれくらいの考える量で疲労感が変わるかも調べないとなのです。
やることがあるのはステキなのです。
ティアは意識を分ける力を操作して、もくもくと疲労感の調査を続けた。
思いつくことはやるだけやってみた。
検証のために、何度か意識を失ったりもしたが、調査は区切りがついていた。
充実した時間を過ごせたのです。
私にも解ける謎がもっとほしいのです。
疲労感のことはまだよく分かっていないが、意識を増やすと力が抜けていき、一定の力が抜けると全ての意識を失ってしまう。
その一定の力の量は把握できた。
なぜか同じ条件でも誤差がでることがあったが、多少の誤差なので大体を把握できたというのが正しいだろう。
意識を分けて考える力。
今のティアは、数を数えるだけの意識を100ぐらいは増やせるようになっていた。
この単純な思考の意識を1とすると、前向きな思考の意識は10ほどの力を使う。
疲労感を調べる思考などは、数を数える思考にセンサーをつけるようなもので、これは2ぐらいの力を使う。
ちなみに複雑な設定を組むことも出来るが、それでも5も使えるかどうかだ。
自由に考えられる意識は高いコストがかかるということが分かった。
まるで本体と同性能の意識を増やしても、ティア本体の意識を越えることはなく、決定権は本体のみにあるようだ。
もしかしたら乗っ取られているのかも知れないが、どちらにせよどちらもティアなので判断はつかなかった。
そして、新しい疑問も生まれていた。
以前と同じ数の意識を増やしても力が抜ける感覚がないのです。
それどころか、増やせる意識が増えているのです。
理由は分からないのです。
同じことを続けると効率的に動けるようになるから?
あの光を感じたら力が増えるとか?
この謎は次の課題なのです。
ティアは自分の力が成長していような気がして嬉しかった。
さぁ、次は何をするのです?
あの光を探しに行くのです?
でも、もう会えないのが分かったとしたら、私の心は耐えられるのです?
唯一の希望なのです。
絶望は辛すぎるのです。
進むのが怖いのです。
ティアは、希望を失うことをとても恐れていた。
その後、永い時を迷いながら、眠りについたり、別のことを考えたりして、時が経っていく。
そのうち、ティアの意識の数の基本は7つになっていた。
本体の意識。数を数える意識。疲労感を探る意識。前向きな意識。後ろ向きな意識。何かが降り注いだり、ぶつかったり、暖かな感覚を探る意識。言葉のイメージを想像する意識の7つだ。
意識を分けたことで、孤独を忘れられたり、逆に孤独を強く感じたり、ティアの感情もその時々で変わる。
ティアは、時間をかけて答えを出した。
決めたのです。
あの光を探しに行くのです。
ティアは決心すると、行動は早い。
さっそく、以前に光を見た記憶を思い出して、あるかどうか分かっていない身体に意識を集中させる。
今度は、エネルギーなどを感じる意識のおかげかスムーズに感覚を探れる。
この作業は、とても広い暗闇の中で手探りで物を探すようなもので、運の要素が強いと感じていた。
ティアは眠りにつくこともなく、永い時間をかけて無心で光を探し求めた。
手がかりがもう少しあればなぁ。
あの時と同じように何か見えないのです?
あの時と違うことといえば……
そういえば、あの時は意識を増やしてて、だいぶ力が抜けていたのです。
ティアは、疲労感を覚える程度に意識を増やしてみた。
そして、また光を求めて意識を集中させる。
すぐに、疲労感を1番強く感じる場所を見つけた。
ここなのです!
前の感覚を覚えていて良かったのです!
あとは視覚をどうにか……
ティアは光を見る前に見えた景色を思い出す。
キレイだったのです。
雲や海という言葉が浮かんだのです。
なんでか分からないのですが、既視感のある風景や言葉たち。
この謎も解き明かしてやるのです。
そのためにも、見る力がほしいのです。
ティアは視覚を求めて、また試行錯誤を繰り返した。
ある時、感覚を探る意識を操作していると仮説が頭にうかんだ。
感覚を探っている時は、意識自体の場所も動いているのではないかというものだ。
暖かさが移動する時に、その移動に合わせて意識を動かしていたが、かなりの距離を移動している気がしたのだ。
もしかして、私の意識は星のような大きなものにいるのではないか。
もしくは、星自体が私なのではないか。
ティアは今までにたくさんの仮説を思いついていた。
しかし、証明する方法がないため、答えは見つかっていなかった。
話を戻そう。
意識のある場所を動かせるとしたら、その意識に身体があれば、何か発見があるかもしれないのです。
私以外のものに意識を纏わせることはできないのです?
◇ ◇ ◇
ここは荒れ狂う風と全てを燃やし尽くすような熱と灰、そして分厚く暗い雲に覆われた混沌とした世界。
大地はマグマで溢れ、燃え盛る竜巻が闊歩する。海は至る所で折り重なる波が飛沫をあげている。
時折、雲の切れ間から美しすぎる光たちが差し込む。
その光たちは大地を照らし、海を照らし、反射した光もまた美しい。
あまりに厳しすぎる環境。
原始の星である。
激しく荒れた海のはるか上空に、ガスの濃い一帯があった。
自然たちの悲鳴のような轟音が遠くから聞こえる。
そのガスはまるで意志を持っているかのように蠢いている。
その時、マグマが海に触れて爆音と共に水蒸気が上がる。
ガスは水蒸気を取り込もうとしているように移動している。
ふいに、雲の切れ間から眩い光が差し込む。
一瞬の静けさ。
光はガスを照らし、さまざまな色を見せて、また雲に隠れてしまった。
何故か荒れ狂う波や風の音は消えたまま。
ガスの中心がほのかに光っている。
『ドクンッ』
辺り一帯のガスが急激に収束していく。
色を変えながら光るガスが、人型を形取っていく。
ガスが消える。
そこに大人の手のひらほどの、女の子が現れた。
水色の長い髪、透き通るような白い肌、生まれたままの姿。
ふわふわと暗い空に浮かんでいる。
そして、ちっこい。
その子が、ゆっくりと瞼を開ける。
青い眼光が見開く。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
その子は悲鳴ともとれるような声を上げた。
次第に、周りの世界の音が戻ってくる。
その子は、その小さな小さな身体で、荒れ狂う風や波をもかき消してしまうほどの声を上げ続ける。
雄叫びとともに、大粒の涙を流している。
今日、ティアはこの星に降臨し、産声をあげた。
新しい物語の始まりである。
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