第3話 ひとりぼっち
夢を見たのです。
私の暗闇に、光が差す夢なのです。
その光は暖かく、私の心を優しく包み込んでくれるのです。
その夢を見てる間は、とても穏やかな気持ちでいられた気がするのです。
思考を停滞させると、眠っているような状態になる。
夢が終わると、意識を取り戻す。
起きてから最初にすることは、数を数える意識の確認だ。
数千カウントしか経ってないこともあれば、数億カウント経っていることもあった。
どちらにせよ、この暗闇の世界に変わりは見当たらない。
一定の間隔で、暖かくなる部分が移動することについては、ある程度の周期の把握はできたが、それ以上の発見はなかった。
何かが私を照らしてくれているのだと思うことにした。
時々感じていた何かの波動やぶつかる感じには、規則性は見つからなかった。
考えても分からないことは、保留情報として違う現象が起こった時の判断材料として置いておくことにした。
この頃のティアはかなり合理的に考えるようになってきていた。
心を狂気に支配されるのを防ぐための自然とそうなっていったのだ。
◇ ◇ ◇
意識の中に、デジタルの秒時計のイメージが見える。1秒に1カウントずつ数字が変わっていく。
カウントは、すでに17桁になっている。
ティアの唯一の趣味は、この無限に増えていくような数字たちを眺めることだけであった。
兆の次の単位は京なのです?
使わない単位だったから、覚えてないのです。
あれ? 私は何考えてるのです?
これはなんの記憶なのです?
何も知らないはずなのに、言葉だけ知ってて、形のイメージもできないなんて不思議なのです。
何かを想像しようと考えてみても、何も見たことのない私には何も思いつかないのです。
でも、この数字たちだけは、なぜかはっきりと見えるのです。
他に何か数えられるものはないのです?
そういえば、意識を増やそうとすると疲れる感覚があるのです。
あの疲れる感覚は数値化できるのです?
ティアは試しに疲労度を数えるだけの意識を増やしてみた。
意識が3つになっても、以前ほど疲れた感覚がなくなっていた。
あれ?前はもっと疲れた気がしたのです。
私も成長してるのです?
ティアは少し嬉しい気分になった。
とりあえず、意識を疲れるまで増やしてみることにした。
以前に、4つまで増やした時は疲れから強制的に眠りのような状態になったことがある。
また、意識には何かを考える役割を与えないといけない。
ただ増やすというのはできない。というか、意味がないとティアは思っていた。
意味などなかった永き時間を過ごしたティアは、意味がないことをすることは苦手になっていた。
とりあえず、今までで少しでも変化があったことを思い出した。
一定の周期で暖かくなる部位の感覚を調べる4番目の意識を増やす。
この意識で、エネルギーなど何か当たる回数も数えることにした。
力が抜けるような疲れる感じはしない。
さらに、意識ごとに考え方を変えてみるのもいいかもと思い、前向きと後ろ向きの2つの意識も増やしてみた。
さっそく前向きの考えを覗いてみる。
こうやって出来ることをコツコツとやっていれば、きっとこの世界の謎が解けるのです。
前は出来なかったことができるようになっているのです。ちゃんと成長してるのです。
大丈夫!きっとうまくいくのです!
ティアは前向きになったことが少ないからか、どこか不自然な考えに感じていまう。
後ろ向きな考えも見てみよう。
ずっと一人なのです。
何をやっても無駄なのです。
意識を増やせば、増やした分だけ悲しみが待ってるだけなのです。
全てを諦めて眠り続けるのです。
ティアは、後ろ向きな感情の方が正しいと感じてしまう。
しかし、もっと考えられることがあれば役に立ちそうな意識だと思い、そのままにしておいた。
意識を6つにまで増やしたが、ほとんど疲れていない。
ティアは次にイメージの意識を作ろうとした。
数字を文字化して頭の中にイメージできるなら、他の言葉もイメージできるのではと考えていたからだ。
7つ目の意識を増やすと、力が抜けていく感覚を感じる。
3つ目に増やした疲労感を数値化しようとしている意識が働く。
次に意識を増やすと強制的な眠りに入ってしまう可能性がある。仮として、今の力が抜け始めた状態をゼロに設定する。
万が一、強制的な眠りに入ってしまうと数のカウントもリセットされてしまうからだ。
それは避けたい。
さあ、どうするのです?
色々考えていると、前向きな意識が提案を思いつく。
増やした意識ごとに、思考する量が違うのです。
数だけを数える思考と複雑に考える思考では、疲れ方が違うかも知れないのです。
違う組み合わせを試してみるのです。
大丈夫、きっとうまくいくのです。
ティアは、さすが前向きな考えだと思った。
未来に期待をしようとする考えは、今のティアには無くなりかけていたのだ。
後ろ向きな意識が、どうせ無駄だよ。期待して傷つくのは自分だよと考えている。
2つの意識が分かれているだけで、ティアは自分を客観的に見ることができる気がした。
なんだかいつもより気分がいい。
さっそく、部位の感覚を探る意識とイメージの意識を消した。
これでティア本体、数のカウントと疲労感の確認、前向きと後ろ向きの5つの意識の状態だ。
それだけで、力が抜けていくような感覚は消えた。
思考の量か。
単純な思考といえば、私にできるのは数を数えることぐらいなのです。
ティアは、数を数える意識だけを増やしていくことにした。
今度は、意識を7つに増やしても、力が抜けていく感じはしない。
さらに変化があるまで意識を増やしていく。
12個に意識を分けたところで、ほんの少し力が抜けていく感覚がある。
しかし、前の7つに増やした時ほどの感じではない。
まだ意識を増やしても大丈夫な気がする。
少し悩んだ後に、次も増やしてみることにした。
13個に増やすとまた少し力が抜けていく。
まだ余裕がありそうだ。
しかし、意識を失って、数を数える意識をリセットするわけにはいかない。
ふと、後ろ向きな意識の考えが聞こえる。
別になくなってもいいのです。
どうせ何をやっても無駄なのです。
ティアはハッとする。
そうだったのです。
数を数える意識が無くなっても、少しの間だけ悲しいけど、またやり直せるのです。
無駄かも知れないけど、どうせやることなんてないのです。
この力が抜けていく感じを知ることが今は大切なのです。
やるだけやってみるのです。
ティアは、この疲労感の謎を解こうと決心をした。
慎重に力の抜け具合を見ながら、数を数えるだけの意識を増やしていく。
18個に意識を増やしたところで、疲労感を探る意識が、仮として設定したゼロの感覚と同じだと判断する。
ティアは疲れていた。
その疲れを感じたことで、疑問が浮かぶ。
なんでこんな感覚になるのです?
私の何が疲れてるのです?
この力が抜けていく感覚は、どこの何が失われているのです?
この力はなんなのです!?
ティアはあるかどうかも分からない身体に意識を集中させる。
一定の周期で暖かくなる身体の部位、その内側の奥の奥まで意識を集中させる。
永遠に続く静寂の暗闇。
この力の抜ける感覚が、どこから感じるのかを探る。
ティアは意識を集中している。
ふいに、見たことがあるはずもない星のイメージが見えた気がした。
同時に音が聞こえる。
空気が震えるような音だ。
これは……なんなのです!?
ティアは力を探して、ものすごい勢いで下降していく。
密度の違う大気を抜けて、分厚い雲を下へ進む。
雲を抜けると、見渡す限りの海が見える。
ティアは何が震える鼓動を感じる。
何が起こっているのです!?
ティアの意識の中の声は、泣き声になっている。
海に飛び込み、海底から大地に潜り、地中を下へ下へと進む。
次々と、初めて聞く音を通り抜けていく。
急に現れた炎の海、構わずに突き進むと暗闇の空間に出た。
断続的に響き渡る心地よい音。
何も知らないのに、ものすごい力が漂っていると分かるほど、ここはエネルギーに満ちあふれている。
なんだか私の中に力を感じるのです。
これは……
ティアの意識の前に、小さく揺らぐ光が現れる。
キラキラと何色にも光り輝く光。
その中に宇宙を見た気がした。
『ドクンッ』
その瞬間、ティアの意識は大きく揺れた。
なぜかは分からないが、この力を守らなくてはいけないと本能が叫ぶ。
この力を守らなくては!
あなたは私が守るのです!!
ティアは泣きながら、強く願う。
光の揺れが一瞬止まる。
『ドクンッ!』
大きく鼓動が鳴り響く。
意識は何かの大きな力に吹き飛ばされようとしている。
ティアは消えゆく意識の中で、綺麗な青い星を中心に、無限大の形で力が揺らぎながら広がっていくのを見た。
美しい……
とても美しいのです。
疲労感を探る意識が、力の変動を数値化している。
この数値と感覚は忘れないようにしなきゃなの……
ティアはそのまま意識を失ってしまった。
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