うさぎとかめ

 昔々のお話です。


 ある所に足の速さが自慢のうさぎと、鈍くていつも馬鹿にされるかめがいました。うさぎとかめは友達で、性格は似ていませんがいつも一緒にいました。


 ある時うさぎが言いました。


「この前かけっこで一番になったよ」


 それを聞いてかめは羨ましそうに言います。


「いいなあうさぎさんは、足が速くって」


 かめは何をするのにも鈍くって、いつも馬鹿にされていました。だからうさぎの事が羨ましかったのです。


「確かに君は足が遅いからなあ、だけどそんなの気にする事はないよ。君には君のいいところが沢山あるのだから」


 うさぎはそう言ってかめを励ましますが、それでもかめはかけっこで一番になる事を諦められません。


「一度でいいから君にかけっこで勝ってみたいよ」


 それは無理だとうさぎは言いそうになりました。しかしそんな事を言ったらきっとかめは傷つくでしょう、だけどかめの願いを叶えてあげるいい方法は思いつきませんでした。


「かめさん、かけっこで勝負しようか」

「え?」

「そうは言ってもすぐではないよ、一月みっちりと特訓してから勝負するんだ。どうだい?」


 うさぎはそう提案したものの、かめには負ける事はないと思っていました。しかし、本気で勝負をしてその上で負けたのなら、かめも納得するのではないかと思ったのです。


「分かった!僕精一杯頑張るよ!」

「その意気さかめさん!僕だって負けないよ」


 そうしてうさぎとかめはかけっこ勝負の約束をしました。かけっこの会場の手配や準備はうさぎがする事にしました。かめには自分のトレーニングに専念して欲しかったからです。




 うさぎはかめとの勝負の場を整える為に奔走しました。


 観客を入れる場所、走るコース、運営のスタッフを集めました。うさぎにその手のノウハウはありませんでしたが、何とか色々な動物からアドバイスを貰いながら頑張りました。


 かめは足の速い動物に片っ端から頭を下げて特訓を頼みました。最初の内はかめに教えられる事などないと難色を示し断る動物ばかりでしたが、それでもかめはめげずに頼みこみ、懸命に自己トレーニングに励みました。


 そんなかめの姿を見て一匹、また一匹とかめに走り方を教えてくれる動物が現れました。かめは教えられたことをきちんと学んで、何度も何度も相談しては走り方を改良していきました。


 うさぎとかめは、それぞれの場所でそれぞれ違う形の努力をしていました。それは互いを思い合う気持ちがそれだけ強かったからです。


 うさぎはかめに晴れ舞台を用意してあげたい、かめは少しでも速くなってうさぎに近づきたい、それぞれの思いを胸にその日に臨むのでした。




 うさぎとかめの勝負の日はやってきました。


 うさぎが気合を入れて整えた勝負の場は、様々な動物達が見物にきてとても賑わっていました。


 かめはうさぎが用意してくれた舞台を見て、思わず涙を流してしまいました。


「おいおいかめさん、今から泣いてどうするんだよ。きっと僕が負かすからもう一度泣くことになるぜ」

「嬉しくってついね、君に勝って今度は勝利の涙を味わう事にするよ」


 二匹はスタートラインに立ちました。


「よーい…ドン!」


 スタートの号令が響いて二人は一斉にスタートしました。


 駆け出しはうさぎの方が先行しました。どうしても地力の違いが出てしまいます。


 しかしかめも着実にスピードを上げていきます。スタートこそ遅れたものの、徐々に加速しつづけてうさぎとの差を詰めていきました。


「かめさん、とっても速くなっている!」


 うさぎは後ろをチラリと見て思いました。自分がかけっこの会場を整えている間、かめは地道な努力と色々な動物からのアドバイスを実行して、絶望的であった差をしっかりと縮めていました。


「うさぎさん、君が会場準備に時間を割いていた間、僕は僕のできる限りの事を頑張ったんだ。卑怯かもしれないけれど、これが僕の全力だ」


 うさぎもかめも懸命に走ります。目指すは一つゴールのみ、疲労がたまって足が悲鳴をあげます。前に進める力がなくなっていきます。痛みと疲労が鉛となって体を押さえつけてきます。


 しかし二匹はこう思っていました。


「楽しい!」


 持てる実力を出し切って自らの限界へと挑む、その隣にいるのは無二の親友です。これ程二匹の心を燃え上がらせる事はありませんでした。


 他の動物達の声援を受けて二人は走ります。しかしやはりうさぎの方が一足速く、かめは次第に遅れて行きました。


 かめはここまでかと思いました。応援してくれた他の動物達に申し訳ない気持ちで一杯でしたが、自分の限界は自分がよく知っています。足を止める事はありえませんが、もううさぎには追いつけないだろうなとかめは思いました。


 しかし前方がなにやら騒がしいのにかめは気づきました。見るとうさぎが足を手で押さえて倒れています。どうやら転んでしまったようで怪我をしています。


「うさぎさん!」


 かめはうさぎに近寄りました。しかしそんなかめをうさぎは叱りつけます。


「来るなかめさん!君はゴールに向かうんだ!」

「でも!」

「いいんだ!いくら会場の設営が忙しかったからと言っても、走る前に準備を怠ったのは僕だ。それも含めて実力なんだ。かめさんはゴールに行くんだ!」


 ゴールはもうすぐそこです。このままうさぎを置いていけば、かめは間違いなく勝つ事が出来るでしょう。


 だけどかめはそれを良しとしませんでした。怪我をしたうさぎを甲羅に乗せてかめは進みました。


「かめさん!」

「うさぎさん、きっとこのまま僕が勝ったとしても僕は納得できないと思う。確かに君に勝ちたいけれど、互いに勝負の為に全力を出したのに、怪我した君を置いてゴールするような奴に僕はなりたくないよ」


 かめはうさぎを背負いゴールしました。決着は引き分けとなりました。


「かめさん、本当にこれでよかったのかい?」

「勿論さうさぎさん。例え君が寝過ごして遅れたとしても、僕は君を背負ってゴールするよ。だって勝負は真剣にやらなくちゃ楽しくないじゃないか」


 うさぎとかめは共に健闘を称え合いました。もう周りの動物達の中でかめを鈍いと馬鹿にするものはいません。うさぎもかめも全力で走り、お互い速かった。二匹の健闘に水を差すものなどこの場にはいないのでした。


「もう一度やったら僕が勝つよかめさん」

「何をうさぎさん、僕だって負けないさ」

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超解釈!魔改造誇大話 ま行 @momoch55

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