白雪姫2話

 猟師に森へと逃された白雪姫は、持ち出してきた丈夫で歩きやすいブーツに履き替えて動きにくいドレスの裾を動きやすいように破りました。


「やれやれ、お母様にも困ったものね。だけどしくじったわね、私を殺したければ自らの手でやらないと無駄よ。人の手を使うなんて愚の骨頂だわ」


 白雪姫は持ち出した地図を広げて方位磁石を取り出しました。差し当たって安全を確保出来そうな場所を予め当たりをつけていました。地図につけた印の所に向かう為に歩き始めました。


「大体あの猟師も猟師よね、私が身一つで森の中に逃げた所で生きていけると思っているのかしら。何の準備もなしに逃げるなんて突然出来る訳ないじゃない」


 白雪姫は森の隠しておいた荷物を背負います。いつか必要になるかと思い準備していた物が役に立ちました。


「お母様の考えてる事なんて手に取るように分かるわ、大方自分の容姿が私より優れていない事に嫉妬して始末しようとした所でしょうね。まったく見苦しいったらないわ」


 森の奥へと向かった白雪姫、印をつけていた場所は七人の小人が住まう場所でした。


 小人達は普段鉱山に潜って宝石を採取して生活をしています。小人達の掘る宝石は質が高く、森に居を構えている割には羽振りのいい生活をしていました。


 白雪姫は小人の家の扉をノックします。昼間は鉱山にいる事は分かっていたので返事はありません。


 鍵を開ける為の道具を取り出すと、白雪姫はかちゃかちゃと鍵穴をいじり難なく鍵を開けて中へと入りました。ブーツを脱いで足を汚し、服も土をかけて汚くしました。


 そして家の中で小人達の帰りを待ちます。日が暮れる前に小人達の声が聞こえてきて、白雪姫は急いで寝たふりをしました。


「おい!鍵が開いているぞ!」

「今日の戸締まりは誰の番だ!?締め忘れたのか?」

「いやそんな事はない、何度も確認したはずだ!」


 小人達の騒ぐ声を聞き白雪姫は寝たふりを続けながら物音を立てました。


「今の聞こえたか?」

「ああ、家の中に誰かがいる」

「どうする?一気にやっちまうか?」

「待て待て、武装した物取りだったら俺たちじゃ歯が立たない。ここは慎重に様子を見ようではないか」


 そうして小人達が恐る恐る家へと踏み入れると同時に、白雪姫は寝たふりを解いてあくびをしました。


「誰かいるぞ!」


 その声を待っていましたとばかりに白雪姫も同時に驚きました。


「まあ!あなた達は誰?」

「それはこちらが聞きたい!お前は誰だ?どうして我が家の中にいる?」


 白雪姫はここだと思い涙を流し始めました。しくしくと泣く白雪姫の姿を見て、小人達は一気に動揺しました。


「何だ何だ。一体何があったんだ?」

「実は私…」


 そうして白雪姫は、涙ながらに先程の出来事を語りました。


「私は実の母親から殺し屋を差し向けられました。命を奪われそうになって一心不乱に逃げ出したのです。そうして森の中でこの家を見つけました。兎に角安全な場所に居たいと思い、悪いこととは知っていましたが鍵が開いていたので中に入らせて貰ったのです」


 白雪姫の涙まじりの心に訴えかける説明に、小人達はどんどん同情的になりました。白雪姫は手も足も汚れて服もぼろぼろでしたので、小人たちは余計に気の毒に思いました。


「そんなことがあったなんて」

「可哀想になあ」


 小人達の同情を十分に引いたと感じた白雪姫は畳み掛けます。


「お願いです!私をここに置いてくれませんか!?掃除に洗濯、料理に何でもやらせて頂きます。少しでも心休まる場所に居たいのです」


 そう言って白雪姫はまたしくしくと泣き始めました。そんな様子を見て、小人達は顔を見合わせると頷きました。


「姫さん、泣かないでおくれ」

「そうだそうだ。そんな事情があるんならいくらでもここに居ればいい」

「俺たちお金だけは一杯持ってるんだ。不自由にはさせないさ」


 白雪姫は涙を光らせながらも笑顔になって小人達にお礼を言いました。


「ありがとう!こんなに優しい人達に出会えて私は幸せ者だわ!本当にありがとう!」


 小人達は美しい白雪姫の笑顔を見て、顔を赤らめて恥ずかしがりました。皆下を向いていたので、白雪姫のにやりと上がった口角を見たものは居ませんでした。




 王妃は魔法の鏡に聞きました。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰だ?」

「それは王妃様でございます」


 王妃は分かりきっていた返答でしたが、満足そうに笑みを浮かべます。


「鏡、もう一つ聞きたい。白雪姫は死んだな?」


 王妃は念には念を入れ鏡に聞きました。死んだことを確認してはいましたが、鏡からお墨付きを貰えれば心配する事はありません。


 しかし鏡は信じられない事を言いました。


「いいえ白雪姫は生きています」

「そんな馬鹿な!この目で確かに心臓を確認したのに!」

「それは猟師の用意した偽物です。猟師は白雪姫を殺す事が出来ずに誤魔化したのです」


 王妃は怒りに我を忘れそうになりました。始末した筈の白雪姫が生きている。猟師に謀られた事よりもその事実が王妃を狂わせます。


「鏡!今すぐ白雪姫の居場所を教えるのだ!」


 鏡は白雪姫の居る小人の家を映し出しました。王妃はもう人の手を使うのではなく自らの手で直接始末する事に決めました。


 王妃は秘密の地下室へと入ると、早速毒りんごの作成に取り掛かりました。


 少しの量でも何百人の人を殺す事の出来る猛毒です。王妃はそれをりんごにたっぷりと塗りつけ籠に入れました。白雪姫をこの手で亡き者にする、王妃の頭の中はその考えで一杯でした。

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